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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
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人ならざる者たちの攻防

深夜。

本聖堂の大きなドーム屋根の上に、3つの人の影があった。

そんな場所に立って、さらにその3人は話し合いをしていた。普通の人間ならば、そんな場所に立ち入ることはないし、まして悠長に会話などしない。

3人はユーナが同行をお願いした、精霊達だった。

「それにしても、クリュオにあのような報告をさせて宜しかったのですか、フラグランティア様?」

3人の中のリーダーであるフラグランティアに対し、ため息を吐きながら非難めいたことを言うのはゼロティピア。

「あのようなとは、何をしているのか?」

対するフラグランティアは、なぜ非難されているのか理解していない。

「魔族は今は聖堂本部には居ない、という嘘ですわ」

「嘘ではあるまい?」

ゼロティピアは軽くこめかみを押さえる。

「……ええ、まあ、確かに? 気配のある魔族は全て倒しましたし? 遺骸もけしましたけどっ」

「であれば、()、この領域に魔族は居ない。正しいではないか?」

「事実として、合っていますね」とクリュオはフラグランティアに同意する。

「それは、そうだけど……って、あれ? ほんとにそうかしら?」

もしかして自分の考え方がズレているのだろうか? ゼロティピアはそんな風に思い至り、頭を抱える。

確かに、長い間、人間と交流を持って生きてきたゼロティピアと、そうではないフラグランティアとクリュオとでは、考え方に違いが出てしまっても仕方がない面は否めない。

……のだが、それはつまり、ゼロティピアが人間に感化されてしまっている、と言う意味でもあるわけで。今の会話でその事実に気付いてしまったゼロティピアは、アイデンティティの問題として、自分の思考に不安を感じてしまったわけである。

「……来ました。鬼族です」

不意にクリュオがそうつぶやく。

3人が立つ同じドーム屋根の上に、いつの間にやら人影が4つ。

「まったく、これで何日目になるのだ? 毎晩のように、無力な者共が、懲りもせずに出て来る」

呆れ口調のフラグランティア。精霊として活動している間の彼女は、ランティエの時のような人間っほいところは微塵もなく、良くも悪くも高位精霊としての傲慢さが言動に出ている。

ゼロティピアから見て、フラグランティアとランティエのどちらか本性で、どちらが演技なのか

よくわからなくなる。まあ、元々彼女のという存在はフラグランティアなので、そちらが本性なのだろうけれども。

……よくよく考えてみれば、フラグランティアも、『ランティエ』を演じながら人間界に溶け込んでいることになる。人間として怪しまれず生活できているのなら、人間としての心の機微も心得ているはず。つまり、フラグランティアもまた人間に感化されていると言えるはずだ。

ゼロティピアはそのことに安心する。神代から心の有り様が変化しているのは自分だけではないと気付けたのは良かった。

「鬼族の個体数4を確認。こちらに接近中」

淡々と機械のように状況報告するクリュオだが、人間に感化されているいないの観点では、この子はどうなんだろうか? ずっと水晶術に囚われていたが、ユナマリアとの関係は3人の中で最も近しい。だが、クリュオは無表情なことが多いので、ゼロティピアから見て、よく判らない、というのが本当のところだ。

おっと。

それどころではなかったわね。

ゼロティピアは気持ちを切り替える。

「つまり、今は居ることになりますわね、魔族」

人間っぽい、皮肉めいたことを言ってみる。

「今この時は、な。だが、倒せば居なくなるだろう? 状況は絶えず変化するものだ」

尤もらしいことを言っているが、フラグランティアは口元に笑みを浮かべていた。神代の彼女なら、そんな顔は見せなかったに違いない。

「では、状況を認識に合わせなければなりませんわね」

「わたしがやる」

そう告げたフラグランティアは姿を消し、一瞬後には敵の一体の胸に腕を突き立てている。その腕から、ぼっと音を立てて炎が吹き出し、あっと言う間に火柱となる。フラグランティアもその炎の中に消えるが、数秒経って炎が消えた時に姿を現したのは1人。もちろんフラグランティアである。

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