状況把握会議2 〜 皇帝陛下からの手紙
「ですけど、聖堂本部に魔物が居るということが、そもそもおかしいですよね?」
クリスが疑問を呈する。彼女はまだメイド服姿で、メイド用のカチューシャまでしっかり身に着けている。その服が気に入っているようだ。
「そこは気になるところです。自然に棲みつくということはないでしょうから、誰か人間の手引きがあってのこととしか……」
アンナは困った表情で言った。ただ、アンナのその表情は、意味が判らないから現れたものではなく、その推測の行き着く先の結論が、考えたくないものになるからだった。
ユーナもそれは同じだった。ただ、口に出して明確にしてしまうのが、なんだかいやだった。
だと言うのに、そう言う空気を読めないニキアが言ってしまう。
「人間が魔物の手引きって、それってカムネリア秘密結社みたいだよね!」
あっけらかんと放たれたその台詞に、ユーナはこめかみを押さえる。
「ま、まだ、そう関係づけるのは早計かと……」
アンナの返答も珍しく歯切れが悪い。
「その、秘密結社というのは、どういうものなのでしょうか?」
魔術方面には疎いオリヴィエが緊張した面持ちで質問する。疎いと言う意味ではカールも同じはずだが、こちらは年の功と言うか、『判らないことは若者が率先して聞くべき』とでも言うかのように、うんうんと頷くだけだ。
「カムネリア秘密結社というのは……」
と、アンナが簡単に説明してくれる。その中には、結社員は鬼族を手駒に使うということが含まれており、そこまで聞けば、何も知らないオリヴィエでも察しはつく。
ユーナはアンナの説明を聞きながらおもった。
確かに、カムネリア秘密結社が関わっているなら、魔物が聖堂本部を徘徊してもおかしくはない。だが、秘密結社と聖堂が、結託するようなことって、あり得るのか⁈
疑問はそこだ。
ユーナの感覚では、結託などあり得ない。それはいわば、聖と邪が結びつくようなもの。だが、カムネリア秘密結社も元をただすとカムネリア教の一派だったと言う噂もあるから、元々は聖の側だったようだが。
かと言って、なんの理由もなく魔族が居るはずもないし……。
「見つけちゃったら、どうすればいい?」とニキア。
なんの指示もなければ、ニキアのことなので、遭遇したら即座に行動に移すだろう。
そこは参謀のアンナが案を出してくれる。
「クリュオさん達にお任せするのが、現状では無難かと思います」
「あ、魔物を行方不明にしちゃうってことね?」とユーナが訊き返すと、アンナは頷いてくれた。
つまり、クリュオ達に狩ってもらい、その遺骸も秘密裏に処分してもらう。そうなれば、それは行方不明になる。
今回連れてきた3人の精霊が手こずるような魔族が、そう居るとも思えないので、この策は上手く行きそうだ。
そうなれば、その原因がユーナ達にあると判明するまでには、かなり時間がかかるだろう。
その間に本来の仕事を進めれば良い。
「じゃあ、それで。クリュオ達に、聖堂本部の中で魔物を見つけたら、お願いできる?」
「畏まりました。フラグランティア様がいらっしゃいますので、隠滅も造作ないかと」
「ありがとう。じゃあ、魔物ことはクリュオ達に任せて、あたし達は本来の仕事を続けましょう」
ということで、この夜の打ち合わせはお開きとなった。
その2日後、ユーナ当ての手紙が届く。
紙が何枚入っているのか、封筒はとても分厚い。封蝋の紋章は帝室のもの。つまり、皇帝陛下からの指示書の類かと思われたが、封を解いてみると、それだけではなかった。
1つの封筒の中に、3人分の手紙が入っていたからだ。
1つは想定通りの皇帝陛下からのもの。内容は、簡単なもので、
『2つの手紙を同封するので、目を通すように』
と、だけあった。
そして残る二通のうち、1つは養父ザツィオン・リーズのもの。
『我が娘よ、元気にしているか?』から始まるその手紙は、5行ほど読んでみて、中身は普通の『娘を心配する父親の手紙』とユーナは判断した。なので、いったん脇に置いて後回しにする。




