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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
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聖女聖別の話し合い2

昨日投稿しそびれた分です

「『真実は繰り返し言葉に登り、虚偽は2度と繰り返されることはない』」

呟きくらいの声で言ったつもりだったのだが、その場に居た宗教者たちの視線が、ざあっと音を立てるかのようにユーナに集中した。

感心の目、困惑の目、恐怖の目。彼らの視線はそれぞれに様々な意味合いがあるようだった。

「ただ、虚偽ではなくとも言い出せないことというのは、ありうるのではないですか? わたくし自身、自分の年齢が、手にした権力に相応とは思っておりませんよ」

ユーナは、教皇による処罰を望んでいないことを暗に示す意図でそう言った。

途端に、室内の緊張の糸が緩む。失言した枢機卿も少しほっとした様子。

しかしユーナは安心ムードが広がりつつある室内に、爆弾となる言葉を投じてみせる、音程を低くして、ドスの効いた声で。

「ただ、それこそ2度目は無い、と心得られよ」

問題の枢機卿は一瞬、唇の端を引き攣らせたと思うと、胸に右手を当て、

「承知いたしました」

と軽く頭を下げる。この作法は聖堂協会の作法なので、特に失礼にはあたらない。ユーナはこくりと頷いて、問題の枢機卿の言葉を受け入れる意思表示をした。

「失礼な物言いかもしれんが、監視官殿は視野の広い御方のようだ。心遣いに感謝いたします」と教皇。

「いいえ、感謝には及びません」とユーナは応じる。

そう言うあなたも、こんな小娘を立場通りに扱ってくれるあたり、立派ですよ。

心の中で、ではあるが、ユーナはそんな風に教皇を評価することにした。


とある枢機卿の失言のお陰で、意図せず権威を振りかざすことになってしまったが、お陰で舐められることはもう無いだろうから、結果良しと言える。

会議の冒頭、ソーテール教皇からの正式な紹介でユーナは自己紹介する。

身に纏う権威については、先ほど否が応でも見せつけた形になるので、その辺りはあっさりと説明することにして、ユーナがこの場で強調しておきたかったのは、アンナという存在だ。

この点、ユーナは、言葉にしてはっきりと釘を刺しておくことにした。

「この者、アンネッテ・コーウェル書記官は、わたくしの右腕です。年齢はわたくしと同じですが、彼女の言葉は、わたくしの言葉と同じと心得ていただきたい」

つまり、三段論法で、アンナの言うことは皇帝陛下の意向に沿うものである、という意味になる訳で、今この場に居る者たちで、その論理を理解出来ていない者はいない。

ユーナとしては、そう宣言することで、策略担当のアンナが発言が通りやすくなるというメリットを考えてのことだ。ーーそれがまさか、アンナを更に巻き込むことになるなどとは、思いもよらずに。


その後、会議はユーナを交えて、カリンを聖女にするかどうか=聖別するかどうか、というところから議論が始まった。

聖別の条件としては、

奇跡かそれに準ずる力を持っているか。

その力を救済や世の平穏のために使っているか。

聖人に相応しい人格を有しているか。

などいくつかある。

昔は女性の場合に限って乙女であるかどうかも条件だったそうだが、これについては諸事情により現在は廃止されているとのこと。

ユーナは結論ありきの話し合いが続く中、集まっている聖職者の中に、ピカピカ光る鎧を身につけている2人を見つける。

1人は男性で、金と赤のド派手な鎧。

もう1人は女性で、白金と紫を身にまとっており、こちらもかなり目立つ。

というか、普通に考えるなら、あんな色の服は着ない。ユーナの感覚では恥ずかしくて人前に出られないレベルであり、人間性を疑われかねない。だが、ここは宗教が支配する場所なのだ。世俗の感覚は通用しない。むしろこの男女2人は、この場では、周りの枢機卿すら気を遣っている。

ぼけっと見過ぎていたのか、斜め後ろに立っているアンナから耳打ちされる。

「あれは『四聖徒(テトラルカ)』と呼ばれる聖人です」

アンナの説明に、

ああ、あれが!

と声に出しそうになるのを、ユーナは自分で手で口を覆って止めた。

ダールバイ教聖堂教会に、『四聖徒(テトラルカ)』と呼ばれる『生ける聖人』が居る、と言う話は事前情報として知っていた。

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