タクラス市2
ユーナは知識としてこの旅行中にアンナから聞いたことだが、タクラス市では二重に税を納めなければならないとのことだ。
1つは領主家であるディラルド家に対する税。
残る1つはダールバイ聖堂教会に対する寄付。
寄付は裕福であればあるほど高額を求められ、市内であれば、寄付とは名ばかりの強制徴収なのだそうだ。
普通こう言う場合、領主が聖堂教会に税の徴収とその使用の権利を移譲するものだが、利益を何よりも大事にするディラルド家は、そうしていない。もっとも、そのような政策をディラルド家が取ることを帝室が許していないという話もある。
ちなみにディラルド領の税率は他領に比べて高め。
このため、人によっては、実質的に他領の2倍に近い額を持って行かれることになる。これでは商売をしようが農業をしようが、豊かな生活は望めない。移動のための資金に目処さえ付くならば、豊かな者から逃げ出すことになるだろう。
そんな栄華とはほど遠い街並みの中心に、場違いとしか思えないような、絢爛な聖堂とそれに付随する宮殿のような建物が、天を突くような12本の尖塔に囲まれて建っているのには、ユーナは驚きを禁じ得なかった。もちろん、悪い意味で、だ。
ユーナはこんな建築物は見たことが無かった。
ジュギス市の大聖堂も金モザイクで派手だったが、タクラス市の聖堂は、正直なところを包み隠さずに言えば、
「趣味悪っ!」
の一言に尽きる。
いや、建物自体はきれいで荘厳さを感じさせるものがある。ただ、街の中全体で見たときに、その荘厳さがかえって醜悪に感じられるのだ。
外観は、大理石だろうか、白を基調とした色合いで、柱や壁に設置されている像(たぶん聖人像)は、全て金色。それから硝子なのか水晶なのか判らないが、透明な物体がやたらと配置されている。そういった物がすべて、太陽光を反射して、ユーナの目に突き刺さる。
というのも、聖堂の外観に汚れがほとんど見えず、よく手入れされているからだ。
その佇まいはまさしく、神々しいと言う表現がふさわしいが、それは信者にのみ通用するのである。タクラス市の見窄らしい街並みの中に突然現れるきらびやかさは、まるで貧者を苦しめる傲慢な富裕者のようでしかない。
「この聖堂建築は、死後に信者のみがたどり着けるという天国を模したとされていますね」
と説明してくれるアンナは、表情にこそあまり出ていないが、思いはユーナと同じようだった。
というか、煌びやかなのは良いけれど、死んだ後にずっとこの光景を見て過ごすのは、有る意味苦痛なのではなかろうか? とユーナには思える。それに、
「死んだ後にたどり着ける場所なのに、どうやってそれを知ったんだろうね……」
と言う疑問が出てくるのは、ユーナが信心からほど遠いせいもある。
「それは、ダールバイ教神命記に記述があるからです。それを書いた予言者は神に導かれて生きたまま天国を訪れ、またこの世界に舞い戻ったということです」とアンナ。
「へー。と言うことは天国って、きっと空々しい感じにキラキラしてる場所だね」
「どうでしょうね。死んだことがないのでわかりません」
「ごもっとも」
なお、神命記という、教典として扱われている書物は、カムネリア教とダールバイ教では少し内容が異なっているとのこと。このため、本の名前に『ダールバイ教』が入る。
聖堂教会の敷地内に入ると、目前に屹立する本聖堂が現れるが、そこは通過して、馬車はその奥へと向かう。
まるで貴族の別邸を思わせるような3階建ての建物の前で、馬車は止まった。
降りるのは身分の低い順のため、ユーナは一番最後になる。
そうして馬車から外に出てみると、そこには宗教関係者っぽい人たちがズラリと並び、ユーナを待っていた。その中の中心、オレンジ色を濃くしたような色合いの赤い前掛けのようなものを付けている老年のおっさんが、一歩前に出て挨拶する。
この膨よか過ぎるこの人物を見た瞬間、ユーナは、自分でテンションが下がったのが判った。いや、こんなことに巻き込まれて、もともと憂鬱だったのだが、さらに一層、憂鬱さを増した気がしたのだ。




