謁見3
前回の投稿分に設定を追加しているので、話の繋がりが悪いと感じられたら、読み返してみていただけると幸いです。
『修業の旅』の先輩役にランティエをあてがえば良い、ということなのだが……まあ、確かに館長の言う通りなのだが、本当に連れて行って大丈夫なのだろうか。とユーナは不安に思ってしまう。
ランティエ自身の能力には不安な要素など微塵も無い。だが、彼女が対峙する相手の反応が不安なのだ。
「監視官であれば、侍女数人に護衛数人、そして書記を連れ歩くものだ。それらを館生から選ぶのであれば、同じような扱いで単位を取ったことにすれば良い」
そう言ったのは陛下。
その後ろの館長は、少し渋い顔になる。あくまでも術士の見習いでしかない館生を、そういう風に使われたくないのだろう。もしくは、単位取得の例外を多く作りたくはないのか。
陛下の言葉を鵜呑みにするなら、アンナやクリスも一緒に連れて行けることになるわけだ。
陛下の言葉からも、それを想定しているのが判る。
しかし。
巻き込んでしまって良いものなのかどうか……。ランティエとは違う意味で不安になる。
「陛下の御言葉だ、気兼ねせずに立場を固めると良かろう」
「では、何人までなら連れて行けますか?」
「それもそなたに任せる。何なら、呪闘士科を巻き込んでも良かろう……」
館長はそう言ったが、どうにでもなれ的な投げやりさが感じられるのだが……この発言の意図は、ニキアの存在を考慮してのことだろう。
「最後に一つ、お聞きしてよろしいでしょうか?」
「話せることならば」
「なぜ、わたくしなのでしょう? もっと相応しい能力と立場の方は、他にもいらっしゃると思うのですが?」
すると皇帝陛下は、口元に笑みを浮かべて、小さく首を振った。
「そなたの持つ力については、報告を受けている。その程度についても、な」
その陛下の言葉は、暗に『フルヴィアの力』を指しているとユーナは理解した。あの一件は秘匿されているはずだが、皇帝の目と耳(間諜)は誤魔化せないと言ったところか。
「それ故に決めたのだよ、我が帝国300年の闇に、メスを入れることを」
そう言って笑みを深める皇帝の表情は、酷薄なようでいて、どこか寂しさを感じさせる気がした。
そんな王朝の初めから存在する闇に、巻き込まないで欲しい……。そうユーナが思うのは当然のことだった。めんどくさいを通り越して、関わりたくないというのが本心だ。
だが、そうも言っていられないのだろう。皇帝陛下が相手では、ゴネるのさえ身に危険が及びかねない。
とはいえ、その闇とやらがいったいどんな物なのかは、正直なところよくまったく判らないのが。
皇帝陛下の中途半端な説明を総合するに、今回のカリン随行は、
フルヴィアの力が必要になる。
と考えるべきなのだろう。それはつまり、一般的にはかなり危険な仕事の部類に入ると理解すべき。
そんな仕事に、友人たちを巻き込んでしまって良いものか?
良いわけがない。
最悪、命に関わるだろうし。
だが、友人たち以外に、信頼できる人も居ないのも確か。
フルヴィアの力を期待されていることから考えても、単なる政治的駆け引きや、単なる武力行使による解決では済まされない事態が発生するだろう。そんな時にユーナが頼れるのは、ユーナの事情も心得ている友人たちだけだ。
あと付け加えるとすれば、護衛騎士のカールくらいか。
迷いを抱えながら、ユーナは友人たちに相談してみることにした。
翌日、話せる限りの事情を話してみると、みんな快く引き受けてくれた。
「じゃあ、あたしは護衛役だね!」と張り切りだしたのはニキア。
「では、わたしは身の回りのお世話を」と侍女役を買って出てくれたのがクリス。
「わたしは書記役ですね」
と、珍しく微笑みを浮かべるアンナ。
「あの、みんな、相談しておいてなんだけど、危険かも知れないんだよ?」
「危険なら、あたしの出番だよね⁉」とニキア。
「そんな場所にユーナさんだけを行かせるなんて、できませんから!」とクリス。
「相談役は、必要なはずです」とアンナ。
「あ、ありがとう、みんな」
最後に、カールが口を開く。
「俺も連れて行ってもらいますよ。あなたの護衛騎士ですからね」




