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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
512/664

歓迎できない来訪者3

昨日投稿できなかった分です。

「それでしたら、こちらも1人ここに置きます」

得体の知れない人物の同席を許すのであれば、こちらも人員を配置することで対抗できる。具体的には、ヨハネスが刺客だった場合に、彼の行動を止められるような武力を置くことが考えられる。まあ、ハインリヒの様子からして、ヨハネスが害を成すためにここに居るとは考えにくいのだが。

「はい、もちろん、そうなさってください!」

ハインリヒはすぐさま同意した。それで許してもらえるならと、とても低姿勢だ。

そういうことなら、付添人として一番圧の強い人を呼ぼう。ユーナは決めた。

お茶を運んできたシィルに、

「ランティエをここに」

と指示すると、シィルは少し表情を強張らせて、

「畏まりました」

と礼をして応接室から姿を消す。

しばらくしてノックがあり、ランティエが入ってくる。

彼女はヨハネスを見つけた途端、睨みつけるように目を細めた。それだけの仕草なのに威圧感は十分で、ハインリヒは猫に睨まれた鼠のようにぶるぶると震え始める。ヨハネスは、あまり変わりがない。

「ランティエ。後ろに控えていてください」

「畏まりました」

と答えたランティエは、ユーナへ黙礼する。ユーナの意図はランティエに伝わったようだ。

「それでは、認定官殿のご用件を伺いましょう」

少し温くなった紅茶に口を付けてから、が切り出す。

「本日は手紙にも認めました通り、お願いがあって参りました」

とハインリヒは、だいたいユーナの想定通りの内容を話し始める。彼の言い分をまとめると、


カリン・カイラスが聖女であることは疑いようがなく、その意味で彼女にとって相応しい場所と地位は学館の生徒ではなく、ダールバイ聖堂教会の聖女である。ゆえに、カリンの身をこちらに引き渡して欲しい。


そんな内容だった。

「カリンの学館入館は、皇帝陛下がお決めになったと伺っております。そのことかららすると、あなた方ダールバイ教聖堂は陛下のご意志に抗うと、そう言っていることになりますよ?」

最悪の場合、反逆罪に問われることになるだろう。ハインリヒ個人が罪に問われるならまだ良いが、本当の最悪の事態では、ダールバイ聖堂教会自体の存続が危うくなると考えるのは、考えすぎではない。

「仰るとおり。そのため、わたくしが仕える正認定官が帝宮に赴いております。必ずや、お許しを頂けるものと思います」

つまりハインリヒは、皇帝陛下から許可をもらうことになるから、カリンを渡せ、と言っている。

本筋としては、陛下の許可を頂戴する→それを以てユーナの説得に当たる、という順番が正しい。それを同時並行しているということは、聖堂の連中は早く話を進めたくて焦っているということを意味している。

焦る理由までは判らないが……。

それを証明してくれるかのように、ハインリヒは額に汗を浮かべ、何度もずり落ちる眼鏡をかけ直している。

ハインリヒの後ろに立つヨハネスは、というと……。

「?」

ユーナは不思議に感じながらヨハネスを観察する。というのも、フードの奥から覗く彼の視線が、テーブルの上のお菓子に釘付けになっているように見えたからだ。彼の異様な雰囲気は変わらないが、今にもヨダレを垂らさんばかりになっているところが、お預けを食っているペットを彷彿とさせる。

ちなみに供されたお菓子は近くの焼き菓子屋トゥッケルトのクッキーなので、美味しいのは間違いないが、普通に入手できる焼き菓子である。

「あの、よければどうぞ?」

ユーナは試しにヨハネスに勧めてみた。すると先に反応したのはハインリヒの方で、彼は振り返ってヨハネスの様子を確認すると、小さくため息を付き、

「お言葉に甘えていただきなさい。ただし、ちゃんとソファに腰掛けてから頂くのですよ」

と告げる。

ごくり。と喉を鳴らす音が、ユーナの耳にもはっきりと聞こえた。

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