入館式の後2 〜 歓迎できない来訪者
「そんな訳ないでしょ。住んでた村とは違うんだから。いい、リディア。判ってないようだから言っておくけど、今のあなたは村八分のいじめられ役なんかじゃないの。あなたは期待されてここに居る。だからみんな、あなたのことを見てる。そのことを覚えておいて」
意図せずキツめの口調になってしまうが、それはユーナがリディアに判って欲しいからだ。
こんな言い方をしては嫌われるかもしれない、とも思う。それでもユーナはリディアに、自分が置かれている状況と立場が、全く変わってしまっていることに気付いて欲しかった。
「ごめんなさい……」
しゅんとしてリディアが謝ると、カリンも「気をつけます」と頭を下げた。
「判ってくれたならいいわ。あ、それから見ているのは、あたしもアンナも同じだからね? それにクリュオとランティエさんも見てるから」
脅しのつもりではないがユーナがそう言うと、リディアとカリンははっとしてランティエを見、ざあっと血が引いたかのように顔を青ざめさせる。視線を逸らしたいのに逸らすことが出来ずにいる様は、さながら蛇に睨まれた蛙だ。
残念ながら、ユーナの立ち位置からはランティエの表情は待ったく見えない。だが、きっと、ぞっとした寒さを誘うような恐い顔をしているに違いない。そう、なぜか怒ったランティエは、人をして心胆寒からしめるような怖さを滲ませることがある。
このヒト、属性は炎だったよね? ……いや、そもそも人じゃないんだけど。
と、心の中で思ったはずなのに、
「ユナマリア様、わたしはもちろん、疑う余地無く、炎使いですよ? 何を仰っているんですか?」
とランティエがツッコミを入れてくる。
「いや、声に出してないし!」
「つまり、声に出さなかっただけで、思ってはいたと言うことですね」
「……あ」
「簡単な鎌かけに引っかかるなんて。それはそれとして、わたしは炎使いですから!」
もしかして、このヒトはこのヒトで、クール過ぎる外見を気にしてるんだろうか? 炎属性なのに冷たく見えるというのが、アイデンティティ的に問題ある、とか?
「だいたい、見かけで判断するのはどうかと思うんですよ。君はクールというよりはコールドだねとか、黄金の炎を瞳に写す君はまるで氷のオブジェのようだよとか、普通、本人を前にして言いますか?」
何やらランティエがブツブツか言いだしたが、まさしく触らぬ神に祟り無しとばかりに、ユーナはそのままにすることにした。
ともかく、リディアも自分の置かれた立場を理解してくれたようで良かった。
そんな風にほっとするのも束の間のこと、事態はある意味、ユーナの想像通りに進展していく。
ちなみに、ランティエの呟きの内容が恋バナに繋がるかもしれないにも関わらず、ストーリー上そう言う展開が無いのは、ユーナがその方面に疎すぎるからに他ならない。悪しからず。
一日の講義と実技を終えて寮に帰ってみると、そこは普段の落ち着いた雰囲気に包まれていた。つまり、2人が(特にリディアが)何も騒動を起こさなかった証と言えるので、ユーナはほっとして2階の階上に向かった。
部屋で普段着に着替え終わった頃、ドアにノックがある。専属メイドのシィルがお茶を持ってきてくれるのは、これも普段通り。だと言うのに、ユーナは不穏なものを感じ取る。
「どうぞ」と答えると、シィルが姿を見せ、テーブルにお茶のセットを置き、淹れてくれる。
夕ご飯前のこの時間は飲むとしたら紅茶にしている。帰ってくるまでに珈琲を数杯飲んでいることが多いので、さらに飲むのは控えるようにしている。
「ありがとう」と応じて一口飲むと、
「ユナマリア様、お手紙をお預かりしております」
おずおずとした様子でシィルが言い出した。
普段は何も聞かずに受け取るのだが、この時ばかりは、
「誰から?」
と聞き返さずにはいられない。
「えと、ダールバイ・奉アルマライ、主座大聖堂、付き認定官、補佐、のハインリヒ・ノイマン様と伺っております」
ユーナは、言い慣れない言葉を、区切りながらとは言え良く間違えなかったとシィルに感心する一方、告げられた人物の肩書きに、勘が的中したことを悟る。
とは言え、ダールバイ教の認定官が、今さら自分に何の用があるのか? とも思うのだが、
厚かましく引き際を弁えないのは、出来の悪い宗教者の常である。
という偏見があることだし、まあ、用件はだいたい察しがつく。
ともあれ、まずは手紙を確認するしかない。万に一つも、リディアとカリンにまつわる話以外はあり得ないのだが。




