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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
滅びの魔女と癒しの聖女
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入館式3

小道を通ると、目前に広場が現れ、広場を縦断した辺りに大きなドームと入口を囲む黒い鉄柵が目立つ建物が見える。集議堂と呼ばれているその建物は、館生の集まりなどに使用されており、今日は入館式が行われる予定になっている。

集議堂の前には何台もの馬車が並んでいて、そこから次々と、リディアやカリンと同年代の子供たちが吐き出され、集議堂に呑み込まれていく。

その他にも、ユーナ達のように徒歩で来る者達もおり、広場は人でごった返していた。

「あたしも馬車に乗りたかったかな〜」

おもむろにリディアかわそんなことを呟く。

「今日みたいな日はみんな馬車を使って渋滞するから、歩きの方が早いのよ」

「ふーん」

リディアは一応、納得してくれたようだが、理由はそれだけではない。

メーゼンブルクの旧市街は狭いので、馬車で移動するほどの距離もない。なのにそうするのは、一言で言って、

『貴族の見栄』

である。

偏見かも知れないが、低位の貴族ほど見栄を張る。それ示すように、集議堂前に止まる馬車のほとんどは、男爵家や子爵家の紋章が多く、中には伯爵家のものもちらほら散見される。

貴族としての体面も大事だろうが、こんな些細なところでそれを示す必要も無いだろう。

ユーナはそんな風に思っている。

「じゃあ、式の間は静かにね。退屈だと思うけど」

「わかりました」とカリンは素直に答える。

「一緒にいてくれないの?」と駄々をこねるのはリディア。

「これから講義もあるし。それに座っていれば終わるから。で、終わったら寮に戻っていて? ランティエさんが代わりに迎えに来てくれるはずだから」

『ランティエ』の名前が出た途端、リディアとカリンの肩がびくりとふるえた。2人は互いに視線を交わし、何やら共通の認識を得た様子だった。

実は、寮を出る直前に2人をランティエに紹介しておいたのだ。ランティエは1週間ほど前から頭領会の指示でメーゼンブルクの外に出ており、今朝、帰ってきたばかりだった。

ランティエを2人に紹介した反応には、無理もないと思うところもありつつ、ユーナは少し気になるところがあった。


呪猟士ツァウベルイェーガリンとして活動しながらユーナに仕えてくれているランティエだが、その正体はクリュオをも凌駕する炎の好戦性精霊スピリトゥス・ベリゲル・デ・フランマ、位階は上位第二位階(ケルビム)第四位(クァルタ)、つまり、上から数えた方が早いくらい位階が高い。精霊としての本当の名前は『光輝の炎(フラグランティア)』。

因みにこの名前の存在は、脇役ではあるが神話にも登場する。

本来は世界の管理者プロクラクトル・ムンディの眷属であり、そちらに従うのが筋なのに、何を考えているのか、

「ユナマリア様の下に居た方が何かと面白そうです」

と曰って、ずっとユーナの護衛を続けてくれている。それはそれでありがたい面もあるが……、迷惑な面も……いや、そんなことを言ってはいけないのだろうが……。

ともかく、彼女は放つオーラは圧倒的に絶大なのだ。さらに、炎の精霊のくせにまるで氷を思わせる銀の髪と蒼い瞳に白い肌の整った容貌が、凄みを加えている。

このため、初対面だと大抵の人が萎縮する。

ユーナの想像通り、クリュオの時は物怖じしなかったリディアさえも、会った途端に息を呑み、すでにカリンがそうしているようにユーナの後ろに隠れてしまった。

「かなり抑えているつもりなのですが、鋭い子供たちですね」

残念そうに微笑んでいるランティエだが、2人の反応は変わらなかった。ユーナは最初、ランティエの正体にはまったく気付けなかったくらいなので、2人は相当に感覚が鋭いようだ(けしてユーナが鈍感と言う訳ではない)。

「ともかく、ユナマリア様の庇護下にある二方に挨拶いたします。わたしはランティエ。ユナマリア様の護衛をしていますので、今後、会うことも多いでしょう。あまり怖がらないでもらえると嬉しいですね」

「よ、よろしく」とリディア。

「はい」とだけ答えたのはカリン。

2人が帰るときのことをお願いしてランティエと別れた後、リディアに彼女の評価を訊いてみると『よく判らないけど、ちょっと怖い』だった。

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