修道士の山
投稿遅くなりました。
以前の設定と今回の設定説明が矛盾する場合、今回の方が優先されます。
以前の部分での矛盾点は見つけ次第修正します。
ご了承ください。
「リディアとカリンが寮を抜け出して外に出て行きました」
「え⁈」
そのクリュオの言葉に一気に目が覚めたユーナは、ベッドから起き上がる。
「抜け出した? 警備は……って、そんなことより、行き先は判るの?」
「はい、『監視者』を飛ばしていますので。おそらくは『修道士の山』かと」
「なんで、あんなところに……?」
『修道士の山』は、新市街側にあるこんもりとした山で、その中腹にスティクトーリス寮が立っている他は、三百年以上前の廃墟が点在しているだけだ。
それとも、目的地はスティクトーリス寮なのか?
それとも、行き先には特に目的が無く、ただ逃げているだけなのか?
2人がここに来た経緯を考えれば、逃走というのも考えられなくはない。もっともそんな素振りは2人にはなかったが……。
「いまは考えるより、動く方が先決ね」
ユーナは起き上がり、館生服に着がえながら、
「アンナも呼んできてくれる? 1階で待ち合わせましょうと伝えて。それから、クリュオはカンテラを持って付いてきて」
とクリュオに指示を出す。
「畏まりました」
と応じたクリュオはその場で姿を消す。言葉の綾ではなく、本当に消えたのだ。まあ、そうでも無ければ、鍵の掛かった部屋に侵入など出来るはずもない。
着替えを終えたユーナは、呪杖を持ち、緋剣を腰に帯びて部屋を出た。
階段を降りて、アンナとクリュオが来るまでの間に、ユーナは警備の兵に通行者の確認をしてみた。答えは、思った通り、「門限以降、この出入り口を通った者はおりません」と言う答え。むしろ、警備の人もユーナの質問に戸惑っている様子がうかがえる。
窓から降りたのか。だとすれば、2人の部屋に行けば何らかの痕跡があるはず。しかしそれを確認に行くのは後回しだ。
ユーナとクリュオが階段を降りてきたのを見て、ユーナは警備との会話を打ち切った。
「事情は聞いてる?」とアンナに問えば、「はい、概略は」と返事が返る。
「じゃあ、行きましょうか」
普通に考えれば、自分達だけでなく、リーズ寮の警備員などを動員する策も考えられる。確かにその方が人数が増える分、早く探し出せるのだろう。しかし問題は2人、特にリディアの持力だった。2人は他人を敵味方で判別するきらいがあるし、ゆえに発見した者を敵視してリディアが暴発するなんてことになれば、それを被害なく押し止めるのは、彼らには無理だろう。
だからこそユーナに2人のお世話係が回ってきた訳でもあるし。
「それにしても、なんで『修道士の山』なんかに……」
ユーナにはリディアとカリンが何を考えているのか、想像がつかない。
リーズ寮は新市街側(方角的には南側)の川沿いにあり、『修道士の山』に行くには、西側にある寮の正門を出て、さらに西側に向かえば良い。
そこから、『落石通り』には入らず、頂上へ続く階段を上ると、途中でスティクトーリス寮へ続く道が分岐するが、それにも構わず登っていくと、やがて頂上に到達する。
街灯もないその場所では、クリュオが持ってきたカンテラだけが頼りだ。
「確か、ここには廃墟があるはずよね?」
山の上にあるので、その廃墟はリーズ寮からよく見える。屋根が落ち、壁も崩れ落ち、全体に黒ずんだ、打ち捨てられた建物。
「ここにあったのは、300年前の火災で焼け落ちたままとなっている聖堂ですね」とアンナが教えてくれる。
一応説明しておくと、300年ほど前、クヴァルティス帝国が後世ディバイニス戦争と呼ばれた大陸戦争の最中にあった時代、メーゼンブルクは大火災により、当時は村だったその全域が消失している。『魔人』と呼ばれた存在が、全てを焼き尽くし、村民の命も全て失われたというが、この事件が歴史書に記されたことはなく、もっぱら帝都周辺に住む者たちの間に伝わる伝説となっている。
この時の惨劇の傷跡は、現在は旧市街と新市街と呼ばれる街並みには面影すら残っていないが、一度街並みを外れれば、そこかしこに当時を思わせる廃墟が散在している。
その後、再建されたメーゼンブルクは、魔術学校設立のために帝国の管轄となり、現在に至っている。




