リディアとカリンとクリュオ。
まずは、クリュオとランティエにはユーナから引き合わせることにした。
クリュオは、ユーナに従う水の好戦性精霊。元は伝説の課題『幽霊捕縛』でもらった水晶球に封じ込められていたが、とある事件で受肉し、女の子の姿を取っている。魔族ーー正確には彼女らのような存在は精霊族と言うらしいがーーの位階は中位第三位階。
「この子達が、お世話する子になったリディアとカリン、で、こっちはクリュオ。彼女には2人の護衛もしてもらうつもりだから、よろしくね」とユーナはクリュオを紹介する。
「我が主ユナマリア様の庇護下にある2人の少女、初めまして。わたしはクリュオと言います」
クリュオはいつも通りの落ち着いた口調で挨拶した。
それに対し、リディアは挨拶するのも忘れて目をキラキラと輝かせてクリュオをじっと見つめる。カリンは対照的に、ユーナの後ろに身を隠し、そこから顔を覗かせるようにしてクリュオを見ていた。
2人の反応が、自分の時とだいぶ違うことにユーナは驚いたが、すぐにその理由に思いいたる。
2人とも幼いとは言え、持力を持つ術士の卵なのだから、クリュオが隠しても隠しきれない『人ならざる者』の気配を感じ取っているのだろう。それにしてはリディアの反応はおかしい気もするが。
最初に口を開いたのは興味津々のリディア、
「ねえ、その髪、赤いのか金色なのかわかんないね?」
聞く人によっては侮辱と解されかねない発言を、気にした様子も無くいとも簡単にしてしまう。目を輝かせているところを見ると、はっきり言わずともクリュオの髪を綺麗だと思っているのは間違いない。
クリュオの方も意に介した様子は無く、それどころか逆に、
「この髪色はユナマリア様がお決めになったもので、ユナマリア様の髪色にも似ていますでしょう? これは、わたしの誇りなのです」
と言って、満足げに胸を張る。
ユーナは、
え、あたしが決めたんだっけ?
と思うが、口には出さない。
「じゃあ、あなたはユーナさんの友達?」
「いいえ、わたしはユナマリア様に付き従う者です。友達などと、恐れ多いことです」
「じゃあ、ユーナさんを守る人?」
「はい、そうです」
そんなやり取りで、リディアはクリュオを敵ではないと認定したようだ。
問題はカリンの方。
リディアがクリュオと仲良くなってもまだ、カリンはユーナの後ろに隠れたままだ。カリンは、クリュオが隠し持つ力と素性を、正しく理解してしまっているのかも知れない。
「リディアちゃん、その……」
「カリンちゃん、この人は大丈夫だよ」
「そう……」
カリンが覚悟を決めたようにごくりと喉を鳴らしたのが、ユーナにも判った。
カリンはユーナの後ろから前へ出ると、
「カリン・カイラスです。よろしくお願いします」
と挨拶して、ぺこりと頭を下げた。
「はい、こちらこそ」
と応じるクリュオが、なんとなく緊張しているように、ユーナには見える。
そんなクリュオが
「2人はユナマリア様の弟子と言うことでしょうか?」
と聞いてくる。
「あたしもまだ見習いなんだから、弟子は取らないわよ」
「では、どのような関係なのでしょう?」
「うーん、そうね……親しい先輩と後輩みたいなもの、かしらね」
ユーナがそう告げると、リディアがにこりと屈託のない笑顔で反応した。
「じゃ、ユーナ先輩って呼んでいい?」
それをするなら『リーズ先輩』か『オーシェ先輩』だろうにと思うユーナだったが、そのまま受け入れることにした。
その夜のこと。
ベッドで眠りに就いていたユーナは、いきなり身体を揺さぶられて目を覚ました。施錠した部屋に侵入できる存在は限られているので、目が覚めて入れば事情を理解できるはずのユーナも、すぐには通常の反応ができない。
「……ん、だれ? なに?」
「起きてください、ユナマリア様。非常事態です」
「その声、……クリュオ?」
「はい、至急ご報告せねばならないことがございます」
「何があったの?」
次第に意識がはっきりしてくるユーナ。




