ユーナ達、白い霊に遭う
次は鏡の間。
この部屋は壁にガラスがはめ込まれ、まるで鏡のように周囲を映し出す仕掛けになっている。
4人が歩くと、それに併せて壁のガラスも映し出すものを変えていく。その中に、先ほどの白い男が佇んでいるのを見つけるのは、そう簡単なことではなかった。
「あれが、仰っていた幽体ですか」
アンナは、じつくりと観察する。
「そうよ。何か判る?」とユーナ。
「断言できませんが、持力で消滅するタイプのものではないと思います」
「持力で消滅しない、ですって?」
あり得ないとばかりにランティエが声を上げた。
その理由をユーナ、クリス、アンナは理解している。しかし、『幽体捕獲』を経験していないランティエには、想定外のことだろう。
「一般的な霊体は、あれほどはっきりした輪郭を持たないと思います。呪的な仕掛けが存在するのではないでしょうか」
「いや、あり得なくはないか。この時代の業でないならば」
ランティエは声を低めて小さく呟いた。その声は、ユーナたちに届かなかった。
白い男がが移動を開始し、また次の扉のを抜けて姿を消した。
次の赤の間でも、白い男は同じ行動を取った。
「なんだか、どこかに連れて行こうとしているみたいじゃない?」とユーナ。
「そうですね。このまま先に進むと、ホールに続いているはずですけど」とクリス。
赤の間を通って、緑大理石で装飾されたホールにたどり着く。
その中央に、白い男は立っていた。4人がそれに気付くと、男はおもむろに貴族風の礼を取り、いきなり姿を消した。
同時に、前触れもなく天井からぶら下がる2つのシャンデリアと、壁に掛けられた燭台に火が付き、明かりが灯る。4人は暗闇に慣れていた目を庇った。
「これも仕掛けの内なのかな」
目が慣れたところでユーナは周囲を確認する
「ですけど、これに何の意味があるんでしょう」
クリスは首を傾げる。
ふっと、シャンデリアの1つが暗くなる。灯りが勝手に消えた。
続いて、もう一つのシャンデリアから火が消える。
今度は窓側の燭台。壁側の燭台。
ぽつぽつと一ずつ、明かりが消えていき、最後に暖炉の上の火だけが残り、その灯りだけは、いつまで経っても消えなかった。
「行ってみよう」
ユーナが歩き出すと、みんなが追随した。
暖炉自体は特におかしなところはない。よく掃除されていて煤や灰もない。問題はその上の棚だった。
花瓶が2つ、置いてある。そして、そこには色とりどりの花がさされていた。
「これ、どう見ても生花だよね」
ユーナは近づいて観察する。
「触らないでね」
心配したランティエが注意する。
「あ、大丈夫です」
まさか、先ほどの幽体が用意してくれた訳では無いだろう。
やはり、この館には生きた人間の気配がある。
「確かに不思議ですけど、これに何の意味があるのでしょう?」
「明かりはここに導くためのものだったのでしょうから、何か意味はあるはずです」
アンナの言い分は尤もだった。だが、何をどれだけ探しても、至って普通の暖炉だ。押せば凹むとか、引けば動くとか、そういう仕掛けは一切無い。
「何なのよ……」
ちょっとムッとなってユーナが呟いたとき、天井を走る音が鳴る。
「ポルターガイスト?」
ミシッと天井から音がした。ラップ音ではなく、物理的な音に聞こえた。
ぱらぱらと木くずのようなものが落ちてくる。そして、
ばがん。
破壊音が聞こえたと思うと、何かが落下してきた。
床にぶつかってまた大きな音が響くかと思いきや、それは静かに着地した。
それは、白い何かだった。
物理的な身体を持ち、2つの赤い光を放つもの。
先ほどの幽体とは、全くの別物。まとう雰囲気が、あまりにも禍々しい。




