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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
ヴァールガッセンの亡霊
43/664

ユーナ達、白い霊に遭う

 次は鏡の間。

 この部屋は壁にガラスがはめ込まれ、まるで鏡のように周囲を映し出す仕掛けになっている。

 4人が歩くと、それに併せて壁のガラスも映し出すものを変えていく。その中に、先ほどの白い男が佇んでいるのを見つけるのは、そう簡単なことではなかった。


「あれが、仰っていた幽体ですか」

 アンナは、じつくりと観察する。

「そうよ。何か判る?」とユーナ。

「断言できませんが、持力で消滅するタイプのものではないと思います」

「持力で消滅しない、ですって?」

 あり得ないとばかりにランティエが声を上げた。

 その理由をユーナ、クリス、アンナは理解している。しかし、『幽体捕獲』を経験していないランティエには、想定外のことだろう。

「一般的な霊体は、あれほどはっきりした輪郭を持たないと思います。呪的な仕掛けが存在するのではないでしょうか」

「いや、あり得なくはないか。この時代の(わざ)でないならば」

 ランティエは声を低めて小さく呟いた。その声は、ユーナたちに届かなかった。

 白い男がが移動を開始し、また次の扉のを抜けて姿を消した。


 次の赤の間でも、白い男は同じ行動を取った。

「なんだか、どこかに連れて行こうとしているみたいじゃない?」とユーナ。

「そうですね。このまま先に進むと、ホールに続いているはずですけど」とクリス。

 赤の間を通って、緑大理石で装飾されたホールにたどり着く。

 その中央に、白い男は立っていた。4人がそれに気付くと、男はおもむろに貴族風の礼を取り、いきなり姿を消した。

 同時に、前触れもなく天井からぶら下がる2つのシャンデリアと、壁に掛けられた燭台に火が付き、明かりが灯る。4人は暗闇に慣れていた目を庇った。

「これも仕掛けの内なのかな」

 目が慣れたところでユーナは周囲を確認する

「ですけど、これに何の意味があるんでしょう」

 クリスは首を傾げる。

 ふっと、シャンデリアの1つが暗くなる。灯りが勝手に消えた。

 続いて、もう一つのシャンデリアから火が消える。

 今度は窓側の燭台。壁側の燭台。

 ぽつぽつと一ずつ、明かりが消えていき、最後に暖炉の上の火だけが残り、その灯りだけは、いつまで経っても消えなかった。


「行ってみよう」

 ユーナが歩き出すと、みんなが追随した。

 暖炉自体は特におかしなところはない。よく掃除されていて煤や灰もない。問題はその上の棚だった。

 花瓶が2つ、置いてある。そして、そこには色とりどりの花がさされていた。

「これ、どう見ても生花だよね」

 ユーナは近づいて観察する。

「触らないでね」

 心配したランティエが注意する。

「あ、大丈夫です」

 まさか、先ほどの幽体が用意してくれた訳では無いだろう。

 やはり、この館には生きた人間の気配がある。

「確かに不思議ですけど、これに何の意味があるのでしょう?」

「明かりはここに導くためのものだったのでしょうから、何か意味はあるはずです」

 アンナの言い分は尤もだった。だが、何をどれだけ探しても、至って普通の暖炉だ。押せば凹むとか、引けば動くとか、そういう仕掛けは一切無い。

「何なのよ……」

 ちょっとムッとなってユーナが呟いたとき、天井を走る音が鳴る。

「ポルターガイスト?」

 ミシッと天井から音がした。ラップ音ではなく、物理的な音に聞こえた。

 ぱらぱらと木くずのようなものが落ちてくる。そして、


 ばがん。


 破壊音が聞こえたと思うと、何かが落下してきた。

 床にぶつかってまた大きな音が響くかと思いきや、それは静かに着地した。


 それは、白い何かだった。

 物理的な身体を持ち、2つの赤い光を放つもの。

 先ほどの幽体とは、全くの別物。まとう雰囲気が、あまりにも禍々しい。


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