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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
武門の癖に生意気とか言われても困ります
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大人たちの思惑+後日談

 翌日、勝敗が決し、優勝はレオンハルトが勝ち取った。2位と3位が呪闘士専攻の高等生、4位がユーナが占めた。中等生が優勝したのは実に数十年ぶりのことだ。

 これほどの力量があるなら、二年連続でレオンハルトが優勝していそうなものだが、昨年は参加していなかったそうだ。

 ニキアは果敢に1位から3位に挑戦したが、退けられた。いかにレオンハルトが化け物じみているかが判る。

 これにて、争奪戦は終了した。

 後は、上位に残った館生の披露式が残っているだけだ。

 しかし、ユーナにとっての問題はここからだった。

 その日、寮にいたユーナの元に書状が届いた。

 それは正式のもので、『出頭要請』だった。だが、何故か指定された場所はボルケン教官の私邸だった。


 翌日、仕方なくボルケン邸を訪れる。ドアをノックすると、前回と同じようにメイドのおばあさんが現れ、指示があったのか、何事もなく中に入れてくれる。

 応接室に通される。

 そこには男性が二人いた。

 一人は、この家の主、ボルケン教官。

 もう一人は、数度、どこかで見かけたことがあるような気もする。だが、誰なのかはすぐには思い出せなかった、

 髭を生やしたこの初老の男性は、鋭い目つきでユーナを見る。と思ったら、急に柔らかい表情に変わって、

「そこに座りなさい」

 とユーナにソファを勧めた。

 ユーナは、それに従った。

 メイドのおばあさんが姿を現して、男性二人には珈琲のおかわりを、ユーナには紅茶とケーキを置いて出ていった。

 どちらかというとユーナは珈琲派なのだが、女子の飲み物というと紅茶というイメージがあるらしく、どこに行っても紅茶を飲まされる。特に嫌いな訳ではないので、構わないと言えば構わない。それに珈琲派と言っても、たっぷりの砂糖とたっぷりのミルクは必須なので、そうなるともう珈琲と呼んで良い代物なのか判らない。


「まあ、食べなさい」

 初老の男性が勧めてくる。言われるまま、ユーナはケーキにフォークを突き刺して欠片を作り、口に運んだ。果物の甘さが引き立つ。お店のものではなく、おばあさんが作ったもののようだった。

「まあ、飲みなさい」

 さらに初老の男性は紅茶を勧める。

 この男性から、一種、抗いがたい何かを感じ、ユーナは、従って紅茶を口に含んだ。

 そこで、この男性が誰かを思い出す。しかし、すぐにはそれを言わず、男性の出方を窺う。

「争奪戦、4位入賞おめでとう。賞賛を贈らせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「呪猟士専攻の中等生女子が4位に入るのは、どのくらいぶりだったかな、ボルケン君」

「はい、俺……私が教官になってからは一度も無かったかと」

「そうか、ずいぶんと久しぶりのことだな」

「はい」

「それで、」と男性はユーナに視線を移し、

「緋剣は、役に立ったかな?」

 と笑顔になる。しかし、その目は笑っていない。

 ユーナは背中に冷たいものを感じつつ、

「役には立ちましたけど、どうしてあたしに下さったんですか? スティクトーリス館長」

「当然の疑問だ」

 館長は頷いた。


「ボルケン君から既に聞いているものと思っていたのだが。言ってないのか?」

 館長はボルケン教官に向き直る。

「新たな呪猟士専攻への転向者を探していたことは話しました」

「『辻斬り』をやってまで、な」

 この館長の一言に教官は、度胸の座った人物には珍しく、かなり狼狽した。目が泳いでいる。

「な、何のことでしょうか」

 それでも教官はとぼけようとする。

 館長は、ふっと唇に笑みを浮かべた。

「何も処罰しようというのではない。やり方の是非は確かにあるが、ボルケン君の思いは私も理解できる」

「恐れ入ります」

 教官は汗を拭きながら答えた。

「と、言うわけだ、ユーナ・オーシェ君」

 館長の考えはボルケン教官と同じだと、言いたいらしい。

 しかし、はぐらかされた感覚がある。

 館長の思惑を読み取ろうと、ユーナは館長を見る。しかし、その表情からは何も判らなかった。十数年しか生きていない小娘が、齢50を超えるであろう老獪な男性に敵うはずがない。

 館長は、そんなユーナの反応に興味を持ったらしく、じっとユーナを見つめてくる。

 ユーナはというと、館長との睨み合いに根負けして目を逸らした。

「呪闘士専攻に転向するつもりはないかね?」

 突然、館長が切り出す。これが今日の本題になるだろうとは、ユーナも予想していた。

「光栄なお話とは思いますが、ご遠慮させていただきます」

 ユーナは、用意しておいた言葉ではっきりと答えた。

「そうか、それは残念だ」

 館長は、あっさりと引き下がった。

「それはそうと、君の名前、『ユーナ・オーシェ』とは偽名なのだそうだね。本当の名前は『ユナマリア・アルア・リーズ』、つまり武門貴族のご令嬢というわけだ」

 ユーナはぎくりと肩を揺らす。

 嫌な予感がした。

 入館に当たっては、養父ザツィオンが裏でいろいろと手を回し、リーズ領の農民の娘という設定を使うことになった。つまり、十八頭領会も欺いていることになるので、偽名のことを指摘されるのは、かなりまずい。まして十八頭領会の長でもあるスティクトーリス館長に知られてしまっては、最悪の場合、強制退学もあり得る。

「いいえ、ユーナ・オーシェは本名です。子供の頃から、この名前で生きてきました」

 しれっと言ってみた。

 嘘には少し真実を混ぜると本当らしくなるという。確かに子供の頃、ユーナは『ユーナ・オーシェ』として生きていた。名前が変わったのはリーズ家の養女になった時からだ。だから、それとなく真実味がある発言になったはずだとユーナは考えた。

 ただ、相手は老練の男性である。小娘如きの嘘を見抜けないとも思えない。

 しかし、館長は、またも、

「そうか。ただの噂に過ぎなかったか。これは失礼した」

 と引き下がった。

 ユーナには館長の思惑が全く判らなくなった。

 館長は珈琲を一口飲む。

「オーシェ君、農民の子供である君がどこで、どういった事情で争奪戦を勝ち抜けるだけの剣術を身につけたのか、私には想像も出来ないが、君の実力は、呪闘士になってこそ発揮されるものだと思う。それは、()()()も同じ考えなのではないかな」

「お父様は、そうは言いませんでした」

「ほう! では、お父上はどう言ったのかね?」

「好きなようにすれば良い、と」

「好きなように、か。だが、それは領民が決められることではないはずだがね」

 ユーナは、はっとした。どうやら館長の鎌かけに引っかかってしまった。

 平民出身の館生のほとんどは、領主に見出され、領主の命令で、領主の資金を使って学館に通っている。それは領主である貴族にとっては投資であり、慈善事業ではない。学館を卒業した平民出身の術士は帰参し、領主の配下で働くことになる。つまり館生は、何かしらの責務を負って学館に通っているのであって、ユーナが言うように『好きなように』ふるまえる立場には無い。

 逆に『好きなように』などと言えるのは、リーズ侯爵本人以外にあり得ないのだ。

 全くの失敗だった。

 館長は、ユーナがリーズ家の者ではないと、言葉では否定したが、内心ではそうではないと確信している。だとすると、経歴を詐称しているユーナは『強制退学』に処されても文句は言えないことになる。

 館長が、ふっと笑みを漏らす。核心めいたことはほとんど言っていないのに、その顔が何もかも見透かしているように思えた。

「君は自由に学館生活を満喫することが出来る。君はリーズ家にとって()()()()()のようだからね。だとしたら、呪闘士専攻になることも自由なのではないかね?」

「それは、そうかもしれませんけど……」

「繰り返しになるが、君ほどの剣術使いを呪猟士専攻のままにしておくのは惜しいのだよ。ボルケン君から聞いているように、我々は呪闘士専攻の底上げを考えている。そのために力を貸して貰えまいか」

「レオンハルト・リッツジェルドはどうなんですか? 彼も呪猟士専攻で、大剣使いです」

「もちろん彼にも転向を要請している。彼ほどの逸材を放っておく理由はない」

「だったら、彼が転向すれば、それで足りるのではないですか?」

「我々は君という人材が欲しい。我々は欲張りなのだよ」

 ユーナは迷った。きっぱりと断ってやりたかっだが、『強制退学』という言葉が頭にちらついて離れない。素性を偽っていることを知られている以上、退学はあり得ない話ではない。館長の要求を呑まなければ、その切り札を切られる可能性が残っている。

 ユーナを躊躇させたのは、その事だった。だが、館長の言うがままになるのも嫌だった。ユーナには呪猟士専攻でいたい明確な理由がある。

「少し考えさせてください」

 この場では、そう言うのが精一杯だった。


 今年度の銀鷲徽章争奪戦で活躍した館生を讃える式典は、その二日後の午後にに開催された。場所は集議堂。

 中等生からは、1位のレオンハルトと4位のユーナ、残る2位、3位、5位は高等生が招待された。この順位決めは、獲得した徽章数によるものだ。

 集議堂の一番奥まったところに段が置かれ、そこに5人が並んで立つ。その段上を見上げるのは200人はくだらない数の館生や街の住民たち。今年は中等生による番狂わせがあった所為か、集まった人数は多い方だという。

 段上には、傲岸不遜な笑みを湛えるレオンハルトと、いずれも不服そうな表情の3人の高等生、それから、どこかびくびくした様子のユーナ。

 ユーナは、大勢の前で目立つのは基本的に好きではない。


 ジーン・ノルキス・エルマイアという術門貴族にして十八頭領会に名を連ねる女性が現れて、司会を始める。

 まずは、1位から5位までが順に紹介される。

「今年の優勝者は、レオンハルト・リッツジェルド、中等二年、呪猟士専攻」

 歓声と怒号が同時に巻き起こる。恐らく、彼を讃える中等生が歓声で、彼をやっかむ高等生が怒号なのだろう。だが、それほど悪い雰囲気ではない。高等生たちも本気で怒っている訳ではなさそう。

 当のレオンハルトと言えば、そんな観衆の反応などどこ吹く風で、傲慢とも思える態度を取った。

「レオンハルト・リッツジェルドには、呪闘士専攻への転向が予定されている」

 騒ぎを抑えた後、エルマイア女史はそう付け加えた。

 ユーナは驚いてレオンハルトを見た。彼は眉一つ動かさない。転向の要請を受け入れたと言うことだろうか。

 確かにレオンハルトは大剣を使い、呪闘士専攻の高等生すら退ける力量を持っている。しかし、呪猟士専攻であることに誇りを持っているようにユーナは思っていた。それを簡単に投げ捨ててしまうということが信じられなかった。

「では、リッツジェルド。一言何か」

 促されたレオンハルトは、一歩前に出て口を開く。

「今回は然程の苦も無く優勝することができた。これは、我が技量が他者に勝っていたことも要因だと考える」

 相変わらず、人に喧嘩を売っているとしか思えない態度と発言だ。

「しかし、理由はそれだけではないように思う。つまり、呪闘士専攻生の弱体化だ。それも目を覆わんばかりの惨状だ。そうでなければ、若輩者の私が優勝者となるはずなどないのだ」

 珍しく、謙遜を混ぜた表現。

「さて、その上で、呪闘士専攻に転向する件だが、」

 ユーナは、レオンハルトが受諾するつもりなのだと思った。強い自分レオンハルトが転向することで、呪闘士専攻生全体の底上げを図る。傲慢だが現実的な事を考えているに違いないのだ。

 しかし、実際は違った。

「私は転向するつもりなど無い。冗談ではない。我が家門をなんと心得ての要請なのか、理解に苦しむ。我が家門こそ、〝武帝〟マルティヌス陛下の御世から続く呪猟士の家系である。代々の当主はこれを誇りとし、職務を遂行してきた。それなのに当代当主たるこの身が転向したとあっては、先祖の不興を買うことは必定である。ゆえに、私が呪闘士になることはけして無いと、ここに宣言する」

 言うだけ言ってレオンハルトは一歩退いた。

 集議堂は静まり返っていた。皆、呆気に取られていた。栄誉ある呪闘士専攻への転向を拒否したのだから仕方がない。

 そんな中、エルマイア女史は、さすがの年の功で、狼狽することもなくレオンハルトの発言と静寂を完璧に無視して司会進行を続ける。

 女史が2位の高等生の名前を告げる。湧き上がる歓声は少なかった。

 しかし、ユーナの耳にはもう届いていなかった。

 レオンハルトの発言の衝撃があまりにも大きかった。

 古い術門貴族の家系であることに誇りを持ち、微塵も揺るがず、自分の意見を包み隠さずに述べる彼の姿は、羨ましかった。

 できることなら、自分もそうしたい。本当の自分を偽って日々を過ごすのは、もう嫌だった。


 それは、自分の誇りのために。


「4位、ユーナ・オーシェ。中等二年、呪猟士専攻。オーシェにも呪闘士専攻への転向が計画されている」

 いつの間にか、自分の番が回ってきていた。

 ユーナは一歩前に出る。

 今から言おうとしていることには、かなりの覚悟が必要だ。恐らく、受けるのは怒号だけではないだろう。これまで以上に拒絶されるかも知れない。

 それでも言いたいことを言うのだ。

 ユーナはふっと息を吐き、それからすうっと吸い込んだ。

「多分、ここに居る多くの方がご存じのことと思いますが、わたしの名前は『ユーナ・オーシェ』ではありません」

 そのユーナの言葉を聞いた観衆は、水を打ったように静かになった。

「わたしの名前は『ユナマリア・リーズ』。五大侯爵家リーズの娘です。武門の家柄の人間が、どうして魔術に関わろうとしているのか、疑問に思っている方も多いでしょう。実際、そのせいで様々な誤解を生んでしまいました。この点はお詫びいたします」

 ユーナは観衆を見渡す。今のところ目立った反応は無い。

「皆さんは術門貴族と武門貴族の間に確執があることはご存じでしょう。これはいつ始まったかもわからない古い因習のようなものです。誰もそのことを不思議に思わず、この因習に囚われて二つの門閥は今もいがみ合っています。今では貴族だけでなく、術士と騎士が争う事態にまでなっています」

 ユーナは、ここで大きく息を吸い込み、声を張り上げる。

「わたしの父、リーズの当代当主であるザツィオンは、この状況を打破したいと考え、わたしを学館に入館させました。ご存じのように、我が国は、北はゲイルゴーラ、東はセツェンと国境を接し、外交は均衡を保っているものの、いつ崩壊してもおかしくない状況なのです。これに対処するには術士と騎士が協力する必要があります。門閥に囚われ、クヴァルティスの中だけでいがみ合っている場合ではないのです。わたしは、その融和のためにここに居ます。力が足りず、その役に立っているとは、とても言えませんが……」

 ユーナは、ここで一呼吸置いた。

「ですが、わたし個人の考えは少し違います。もちろん、融和を進めることはわたしの使命だと思っています。でも、わたしは呪猟士になりたい。そしてクヴァルティスの人々の生活を守りたい。それも貴族としてではなく、一人の私人として。これは、兵士である呪闘士ではなく、呪猟士だからこそ出来ることだと思います」

 ユーナはさらに声を大にする。

「だから、わたしは呪闘士専攻への転向は拒否します」

 しばらく、集議堂は静まり返ったままだった。

 やはり、受け入れては貰えないのだろうか。

 ユーナは、観衆の反応を見守るしかできない。

 不意に、誰かが手を打った。それは拍手になり、次第に広がっていく。

 そして、集議堂を大きく包み込んだ。



 後日談

 皇帝陛下に謁見するために帝都を訪れたザツィオン・リーズは、術士になるべく奮闘している娘の姿を一目見ようと、その足でメーゼンブルクに赴いた。

 娘が呪闘士に推挙されたという話は、すでにザツィオンの耳にも届いていた。そして、娘がそれを大勢の前で拒絶したということも。

 娘が呪闘士ではなく、呪猟士の道を進みたいという意志を持っていることは、何度もやり取りしている手紙の中で知っていた。娘が呪闘士になれば、政治的に有利な面も出てくると踏んではいたが、ザツィオンは、それ以上に娘の思いを大事にしてやりたかった。

 それどころか、小さい頃は人見知りが激しかった娘(この認識は父親の贔屓目であって事実とは異なる)が、公衆の面前で同等と意見を述べたことが嬉しくさえあった。

 それはそれとして、娘の呪闘士への推挙には、裏があるとも理解していた。要は、娘は政治的なプロパガンダに利用されかけたのだと。結局、その目論見は娘の拒絶で破綻した訳だが、娘を利用しようとしたことは許容の範囲を超えている。文句を言ってやらないと気が済まない。


 その首謀者は、察しがついている。


 ザツィオンは、メーゼンブルクに到着すると早々にその人物の館へ向かった。同時に娘にも来るように使いを出した。

 首謀者であるスティクトーリス公爵は、悪びれもせずザツィオンを迎え入れた。公爵にも、ザツィオン来訪の理由は判っているはずだが、そんな素振りはおくびにも出さない。相変わらずの腹黒さだとザツィオンは思った。

 応接室で珈琲を供されたがザツィオンは手を付けず、

「今日、俺が来た理由は判っているな? ティクロー」

 ザツィオンは公爵を呼び捨てにする。二人は年の差があったが古い知り合いで、友人と呼ぶべき間柄であるが、公には反目しあっていると思われている。

「はて、何のことか、とんと判らんな」

「ぼけるにはまだ早いぞ、ティクロー。まあ、惚けるならそれでも良い。だが、俺の娘を利用しようとしたのは許せん」

「目的は同じではないか。方法が違うだけで」

「それはそれ! これはこれだ!」

「ふむ」と公爵はつまらなそうに頷いてから言葉を続ける。

「まあ、思惑はほぼ達成出来た。お前の娘は政治は判らないが、国を取り巻く状況は良く理解しているようだ」

「それは勿論、俺の娘だからな!」

「だから、儂としては気分が良い。どんな文句でも余裕の気持ちで聞いてやるぞ」

「俺の娘を政治的道具に使うな。あの子には、できる限り望みを叶えてやりたいのだ」

「親バカだな。……しかし、状況がそれを許さんのだ」

「……良くないのか」

 公爵は頷いた。

「セツェンとは、良くも悪くも関係を維持しているが、ゲイルゴーラが、な」

「あの国では好戦派が台頭しているとは聞いている」

「耳聡いな。その通りだ」

「戦になれば、たとえ呪猟士であっても、借り出される可能性はある、か」

「できれば避けたい所ではあるが、そうも言ってはおれんだろう」

 その時、ノックがあり、現れたのはザツィオンの娘、ユナマリアだった。

 その姿を目ざとく見つけたザツィオンは、ソファから立ち上がり、

「おお! わが娘よ! 息災であったか?」

 両腕を広げてユナマリアに歩み寄る。

 ユナマリアは、抱きつかれそうになるのを身を翻して躱し、

「お()()さまも、お元気そうで何よりです」

 と笑顔を見せる。

 もう一度ザツィオンはユナマリアに抱きつこうとする。今度はユナマリアも観念したのか、父親にされるままだった。

「少し痩せたのではないか? ちゃんと食事は取っているか? 悪い奴に関わってはいないだろうな? その時は父に言うのだぞ、たとえ公爵であろうと、我が剣にかけて黄泉に蹴落としてくれるからな!」

 なぜ公爵なのかユナマリアには判らなかったが、当の公爵閣下はさすがに気づき、一言、感心を込めて呟いた。

「親バカだな」

「本当に、つらいことはないか?」

 父の問いに娘は答える。

「ええ、大丈夫です」

 満面の笑みをたたえて。


 武門の癖に生意気とか言われても困ります。  了


続けて次のシリーズを投稿します。

タイトルは『ヴァールガッセンの亡霊』です。

ユーナ主人公ですが、クリスが主体の話になります。

お付き合いいただけると幸いです。


あと、活動報告へのコメントでいいので、感想をお願い出来ないでしょうか。

話が面白くない方向に行ってるとか、このキャラが良いとか、ご意見頂きたく。

よろしくお願いします。


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