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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
学館の陽は暮れて
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まえおき

 オーシェというファミリーネームは、術士養成機関、通称『学館』に入学するに当たって使うことにした仮の物である。子供の頃は、確かにオーシェが本当のファミリーネームだった。しかし、その姓は、貴族――それも帝国有数の侯爵家-―の養女となるにあたって捨てざるを得なかった。

 それを学館で名乗ることにしたのである。

 理由は後に回すとして、彼女の今のフルネームは、


『ユナマリア・アルア・リーズ』


 と言う。

 ユナマリアなどというファーストネームは貴族らしい名前に置き換えただけで、新しい家族も親しい友人も彼女のことはユーナと呼ぶ。

 リーズが侯爵家の名前。三百数十年前、この国がまだ帝国を名乗る以前に起こった内乱に際して、多大な貢献を果たした家柄として五大侯爵家に数えられる。

 セカンドネームのアルアとは、土地の名前。貴族はセカンドネームに領地の名を入れるのが慣例となっている。アルアはリーズ侯爵領の北西に位置するこれといった特徴のない中くらいの都市である。


 ところで帝国では、貴族はその出自から武門と術門に分類される。武門貴族とは、騎士(リッター)に代表される武力を拠り所とする貴族のことで、術門とは、術士(ツァウベラー)に代表される魔術を拠り所とする貴族のことをさす。この二つの門閥は、昔から互いに仲が宜しくない。理由は多々考えられるが、単に互いの戦い方が気に入らないという説がある。武門貴族曰わく、術門の連中は不気味な術で人を惑わす、せこい戦い方をする。術門貴族曰わく、武門の連中はがさつで大雑把でスマートさに欠ける。

 どちらの言い分もある意味、的を得ているのでたちが悪い。

 リーズ家は武門中の武門として知られていた。しかし一方で、魔術に対して寛容な珍しい家柄でもあった。


 学館と言うのは、この国の術士養成機関のことで、メーゼンブルグという街にある。

 この街は、帝都から馬車で一日かかる位置にある。街の中央を東から西へメーゼン川が流れ、その南側を旧市街、北側を新市街と呼ぶ。


 ユーナは、この学館に通う術士の卵である。

 専攻は呪猟士(ツァウベルイェーガー)、中等二年。

 武門貴族の娘が術門の最高学府に入学しているのには、それなりの理由がある。いわゆる政略的問題がそれだ。具体的には政略結婚のことで、リーズ家は術門貴族との融和を目指しているといえばおわかりいただけるだろうか。


 そんなわけで、ユーナにはユーナの事情があるのだが、武門のユーナの存在は、術門が大勢を占める学館の中では、要らぬ波風を起こす可能性が高い。

 彼女がオーシェを名乗るのは、そういう理由があった。

 しかし、隠し事と言うのは長く続かないもので、誰に明かした訳でもないのに、彼女の秘密は入館して数ヶ月で知れ渡ることになった。お陰で術門貴族出身者からは嫌われることになった。しかし、自分も貴族の一員の癖に貴族が嫌いな彼女は気にとめなかった。彼女の友人は、ほとんどが平民出身者だったこともある。

 そう、学館は貴族だけでなく、平民にも門戸を開いている。


 学館の生徒のことを『館生』と呼ぶが、この館生は貴族、平民、性の区別なく平等に扱われている。差別的言動は処罰の対象になる。それは制服にも現れていて、胸や肩に付ける徽章以外は男女、貴族平民の差異は無い。生徒でいる間は、女子にはスカートも認められているが、正式な術士の制服は全てスラックスに統一されている。ちなみにユーナはスラックス派だ。


 ユーナがいる国はクヴァルティスと言う。北半球に横たわるティレリア大陸の南西に位置する。建国は大陸の他の国に比べると新しく、六百年前のこと。

 帝政を採用し、現在はヨシュナル帝の御代十五年目に当たる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ファンタジー学園女主人公ものとなるとかなり好きなジャンルです。探偵ものというのも学園ものではありがちですけど主人公が強くなっていく描写もちゃんとあるのかが気になりますね。これから続きを見る…
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