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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
武門の癖に生意気とか言われても困ります
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第三戦、その1

ご報告。

今後、投稿日は、月、水、土に変更したいと思います。

月、水はこれまでと同じ時間帯、土曜は、15〜16時頃に投稿します。

よろしくお願いします。

 必要は発明の母と古代の賢者は言ったそうだが、まさしくその通りだと、今のユーナなら思える。

 高等生との集団戦などという無理難題が浮上した現状、何かしらの対策が必要なのだ。

 相手は何人なのか?

 その持力は?

 使う術式と法式は?

 呪闘士は含まれるのか?

 考え始めるときりが無い。

 しかも、どれ一つとして確かな情報は手元にないのだ。

 そうなると、対策の打ちようがないのだが、それでも何か用意しておかなければならない。試合に勝とうと考えるのならば、だ。


 基本的に、ユーナのスキルセットは後衛向けの構成になっている。これはユーナの持力〈氷結〉が広域励起型に属することから、前衛、中衛よりも後衛に回った方が都合が良かったからだ。裏を返せば、前衛で戦うような状況が想定されていないと言うことでもある。つまり、対人戦など、全く考慮していないということだ。

 ゆえにトーレンドルク戦では苦戦を強いられた。ただ、シュライバー戦も含めて運良く勝ちすすめることができた。これは、本当に幸運だっただけのことだ。

 しかし、ここから先も、それが続くとは限らない。


 ここに至って、ユーナは『あらゆる状況を想定する』のを止めた。起こりうる状況はそれこそ、いくつでも存在する。それに対応することを考えるより、自分に出来ることを整理しておく方が必要だと考えたのだ。


 まずは、今まで培ってきたいくつかの技術。

 〈緋術(ブラティス)〉、〈持力術(ハビリス)〉、〈結界術(シグヌム)〉、〈赤色術(ルボリス)〉、〈符術(カルタエ)〉に〈紋章術(エンブレマエ)〉。それから、基本となる〈詠唱〉。どれも初歩ではあるが、戦う手段にはなる。特に持力術は工夫次第でいろいろと役に立つ。


 それから、トーレンドルク戦で会得した、呪杖によるカウンター攻撃。

 相手が呪杖術士や呪闘士など、接近戦となる時は役に立つ。攻撃力としては強力ではないものの、数発当てれば相手は沈黙するはず(トーレンドルクは3発で沈んだ)。ただし、あくまで相手の攻撃があって初めて成立する技なので、攻撃手法としては積極性に欠ける。


 そして、シュライバー戦で思い付いた技。

 これは強力だから、うまく使えば一撃で相手を沈黙させられる。しかし、使いどころが難しい。隙が大きい上に、接近しないと効果がない。逆を言えば、試合の相手側に大きな隙を作ることができれば使い所はあるわけで、どうやってそれをつくるかが問題となる。これには、思い当たる術があった。


『ムルム』については、こっそりと使うことを考えている。


 一つは『風壁』。

 複数人が相手の試合では、呪杖や緋剣を振り回されたり、緋針の投擲を受けたりとひっきりなしに攻撃されることになる。その全てを重い呪杖で防ぎきるのはほぼ無理である。しかし、幾分かを『風壁』で防いで貰えるなら、その分の余裕を攻撃に回せる。


 それから、前々から思いつきだけはあったものがある。

 〈氷結〉で水を凍らせる時、形を自在に作ることはできないか、と言うことだ。例えば、緋針のように長い棒状のように氷を生成すれば、それは立派な武器になる。

 今のユーナにできるのは、水で濡らした手を勢い良く振って、飛んでいく水飛沫を凍らせて氷礫にする程度だが、これをただの礫ではなく、先を尖らせることが出来れば、攻撃力はぐんとあがる。

 しかし、そのためには、持力の緻密な制御が必要となり、成功した試しはなかった。

 そこに『ムルム』の力を加えることで、氷を尖らせることが出来はしないか。

 ユーナは、本人に訊いてみることにした。

 紙の上にインクで記された答えは、

『可能です』

 だった。


『ムルム』には、『風壁』の他に、精緻な空気の制御が能力として備わっている。彼女の話では、氷の形成過程で空気の流れを応用して、望む形に氷を作り出すことができるとのことだった。

 これはユーナにとっては朗報だった。この運用方法は、攻撃としては弱いものだが、牽制として使うには十分効果が期待できる。

 試しに手を濡らして壁に向かって腕を振り抜くと、複数の飛沫が氷となって飛び、壁に止めた紙を貫通し、さらにその後ろの壁に当たって鈍い音を立てた。氷の形成過程を目で追いかけるのは無理だったが、壁を見ると、小さいながらも穴が空いている。成功と言って良さそうだった。

 この方法は、考え方を拡げれば、いろいろと応用が利きそうだ。


 そして最後に、『レイピア』。

 ユーナが持つ、唯一の対人戦闘技術である。

 純粋に剣術ではあるが、緋鋼製レイピアを用いるなら、試合で使うことに問題は生じない。手元に『緋剣携帯許可証』があるので、呪猟士がなぜ持っているのかと追及されても言い逃れは可能。

 しかし、緋剣を贈ってきたボルケン教官の思惑がはっきりしないので、これは封じ手とせざるを得ない。

 それでも、どうしようもなくなった時には--。

 ユーナは、覚悟を決めることにした。



 翌日、争奪戦3日目。

 午前2コマ目の実技のために、ユーナは修練場に向かった。するとそこには、いつもからは考えられないほどの人だかりができていた。実技の見物人な訳が無いので、間違いなく争奪戦絡みだろう。


「来たぞ!」と誰かが叫ぶと、群衆全体が騒ぎ出した。その中から数人の男子が歩み出る。手に手に呪具を持ち、あからさまな敵意をユーナに向けてきた。その中でも最も気性が荒そうな男が口を開く。

「昨日は友人が世話になった。と言えば、判るか?」

「判りますけど……」


 シュライバーをけしかけたのはあなた達でしょ?

 昨日の戦いは正当なもので恨まれる筋合いはないから。

 あなた達のメンツなんて知ったことではないし。

 高等生が複数人で中等生一人に挑むのは恥ずかしくないわけ?

 などなど、いろいろ言ってやりたかったが、この連中は、聞く耳を持っているように見えなかった。


「じゃあ、一戦、お願いしようか」

 群衆が、高等生達とユーナを中心に取り囲む。一様に固い表情でユーナを睨んでくる。全員が高等生達のお仲間なのだろう。

 輪の中に残った高等生は、3人。

 呪杖が1人に緋針が1人。そして残る1人が符。おそらく、呪杖と緋針が前衛で、符が後衛の役割分担になるはずだ。

 ユーナはカバンを置き、そこから水筒を取り出した。そして右手を水で濡らす。それから呪杖を左手に持って前に出る。レイピアは、少し迷ったが腰に佩いたままにした。

 高等生達も準備を終えたようだった。案の定、呪杖使いと緋針使いが前に立っている。


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