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ティレリエン・メア 〜学館の陽は暮れて〜  作者: 西羅晴彦
武門の癖に生意気とか言われても困ります
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サロンへの突入

 サロンは日曜の午後に開かれるのが一般的。信心深い人は日曜の朝はミサに参加するから、そういう人に配慮している。

『水の会』は、学術派に属するサロンなので、紅茶や珈琲、軽食やケーキなどが供され、それと共に談笑するのが趣旨となる。このため、ユーナは昼食を抜くことにした。昼ご飯の後に甘いものというのは、クリスではないのだから、さすがにカロリーの摂り過ぎになる。

 ちなみにサロンには、学術派の他に武闘派というタイプがあって、こちらは拳で語り合う系のサロンだ。

『水の会』の会場は大聖堂を超えて、さらに東に行った住宅地の中にある『ローゼンフェルス館』だった。その名の通り、ローゼンフェルス家が所有する館だが、寮ではない。アドルフィーネが会の主になってからは、もっぱらこの館で開催されているらしい。

 ユーナは『ローゼンフェルス館』の扉の前に立って深呼吸をする。ここから先は、敵地のつもりで覚悟しておく必要があった。


 重厚な造りの扉をノックする。4回。出迎えてくれたのは、執事とおぼしき壮年の男。

「ようこそ、ユーナ・オーシェ様。こちらへどうぞ」

「ありがとう」

 澄まして答える。てっきり『ユナマリア』と呼ばれるかと思っていたのだが、その辺は気を遣ってくれているらしい。

 通されたのは、広い談話室。ソファとテーブルがいくつか置かれ、テーブルの上には軽食が用意されていた。男子は立っていて、女子はソファに腰掛けている。みんな、館生の制服姿だ。ドレスにしなくて良かったとユーナは胸をなで下ろした。

 さて、そこまで周囲を観察し終えたところで、ユーナは自分も観察されていたことに気づいた。

 いつもの敵視ではなく、興趣を含んだ視線。あえて例えると、珍しい動物を見ているかのような。それはそれで失礼な話だが。

「ユーナ・オーシェ様がお着きです」と執事に紹介される。

「お招きいただき、光栄です」

 とりあえず、ユーナは外向きの笑顔で挨拶した。

 すると、細身の男が一歩近づいて挨拶を返してくる。

「ようこそ、水の会へ。私はヴィルヘルム・エルリヒと言います。高等二年です。当会では、事務的な仕事を仰せつかっています」

 儚げな——ユーナ流に悪く言えば、影が薄い——雰囲気をまとった年上の男性だった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「どうぞ、こちらへ」と勧められたのは、数人の女子が集まっている一画。

 空いていたソファに腰を下ろすと、すぐに社交辞令が始まる。ユーナの右前に座る女子がまず口を開く。

「こんにちは、私はローザ・ヴィーゲルと言います。中等三年です」

 肩までの栗毛、茶の瞳の彼女は、一見してユーナより年下だった。学館は年齢による学年制度ではないので、こういうことも起こることがある。雰囲気は、都市部に住む上流平民を思わせるが、どこかおどおどしたところがあって、視線があちこちに動く。落ち着きがないのではなく、緊張しているようにも見てとれた。案の定、サロンに参加してまだ日が浅いとのことだった。

 次に挨拶してくれたのは、琥珀色の髪に碧の瞳で、そばかすの女子。

「私はマリア・リーファです。高等一年です。それから、こっちが……」

 とマリアと名乗った女子は隣に座る、同じ髪色、同じ瞳の色、同じそばかすの女子に手のひらを向けた。

「エリザベト・リーファです」

 あまりにも二人が似ていたので、「お二人は姉妹ですか?」とユーナが訊くと、

「双子です」と二人が一緒に微笑む。その表情も似通っていた。二人の言葉には訛りがあった。なるべく標準語で喋ろうとしているようだが、そこかしこにアクセントの違いが出ている。ユーナはその訛りがどの地方のものかまでは判らなかったが、二人のどことない垢抜け無さから、田舎の方の出身なのだろうと判断した。

 そして、これが一番大事なことなのだが、三人ともユーナに対する偏見は無い様子だった。

 そのことに、まずは安心する。

 メイドがティ・カップに紅茶を注いでくれた。ユーナはそれを手にとって口を湿らせるように一口含んだ。

 そのあとは、専攻はどれだとか、どの寮に住んでいるとか、出身地はどこかとか、とりとめも無い話で花が咲いた。

 そうして時間を過ごしていると、次第に人が増えて行き、ソファも埋まっていく。男子達は立ったままカップを手にしながら思い思いに会話を楽しんでいるようだ。


 大方人が揃ったと思われたころ、()()()はヴィルヘルム・エルリヒを伴って、談話室に姿を現した。女子と言うより、女性と表現するのが相応しい。

 アドルフィーネ・ローゼンフェルス、その人だった。

 彼女にはユーナも何度か会ったことがある。外見がものすごく豪華な人というのが第一印象で、二度目以降もそれは変わらない。どう豪華なのかというと、まとっているオーラがそもそも違う。人の視線を釘付けにするような、一度会ったら二度と忘れられないような。どんよりとした曇りの日でも、彼女の周りだけは陽光に満ちている。聖堂に置かれた神像には後光や天使の輪っかが付いているが、あれをそのまま背負っているみたいというのが相応しい表現だろうか。

 外見は、髪は縦ロールの金髪。着ているものは館生用の制服であることは変わりないが、そこかしこに宝飾品が見え隠れする。こんなことを言うと、趣味の悪いおばさんのように思われるかも知れないが、そういうごてごてしたパーツを品良くまとめるセンスが彼女にはある。


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