満員電車とため息
だんだんと暑くなってきた、5月の終わりのこと。
私は、今日もまた満員電車に揺られていた。
家の最寄り駅から学校の最寄り駅まで、3つの駅を挟んだ、そう長くない道のりだが、私は満員電車に揺られていた。
家の最寄り駅は、利用者数の多い、大きい駅だった。
そのため、私は学校へ向かうこの満員電車で、ずっと立ったまま揺られるのが日常だった。
今、家の最寄り駅から二つ目の駅を電車が出発した。
ふと腕時計を見る。
朝のホームルームが始まるまであと40分もある。
余裕だ。私はいつも、余裕をもって家を出ている。
理由は、この電車、良く止まるのだ。
目の前でサラリーマンが口を開けて寝ている。
どれだけ疲れているのだろうか。
こういうときに、やはり社会は、サラリーマンのような働き者たちが一生懸命回しているのだろうと感じる。
ただ、今日は、私はそんなサラリーマンを見て、こう思った。私もそのようにして寝たいと。
今日は定期試験の3日目であった。
定期試験の全日程は4日間。
既に2日分終わっている。
大概の人は、もう半分終わったのだ、と、喜ぶところなのかも知れないが、私は違った。
私は、事前に終わらせる、と言うことが苦手な質だ。
やらなければいけないことを全て直前まで残してしまう。
そのために今、私は昨夜、その前、さらにその前と、日付が変わってしばらくしてから寝ていたため、普通なら感じることのないだろう猛烈な眠気に襲われていた。
はっきり言って疲れていたのだ。
あと2駅分の時間が、私の心を荒らしていく。
早く学校に着かないだろうか、と思う反面、試験が待っている、と考えると憂鬱な気もする。
そんなことを考えることさえ、私を疲れされた。
もう立っているのがつらいな。そう思っていた。
そんなことを考えていると、ようやく学校の最寄り駅の1個手前の駅に電車が到着する。
この駅は、利用者数が少なく、あまり人が降りないのが常だった。
あと一駅で着けるぞ。
そう思ったところ、突然私は話しかけられた。
何事かと思えば、目の前で寝ていたサラリーマンの隣に座っていた青年が、この駅で降りたそうにしていた。
私との位置関係的に、この青年がドアにたどり着くためには、私が少し体をねじって通るスペースを与えてあげる必要があった。
はっきり言って面倒であった。
ただでさえ疲れているのに、その上にこの青年のためにスペースを作らなくてはいけないのか、と思った。
私は何も言わず体をねじり、反らせて、青年がドアまで行けるようにした。
青年が申し訳なさそうにそこを通る。
その時だった。
突然誰かのため息が聞こえた。
私は、あっ、と自分の口を押さえた。
目の前の青年が、先ほどより一層申し訳なさそうにした。
青年は無事に、駅のホームにたどり着いた。そして、電車が再び動き出す。
私はただうつむいて、満員電車に揺られている。
学校の最寄り駅についた。
この駅も、先ほどの駅同様に利用者数が少ない。と言うか、私が通っている生徒が利用者のほとんどである。
ドアにたどり着くためには、目の前に広がる人々の間を縫って進んでいかなくてはならない。
すみません。
そう私が言うと、ドアまでの道が自然と開けた。
私は何も言われず、何も咎められずに電車のドアをくぐった。
ホームに降り立った。私を置いて発車する電車。
ふと空を見上げると、太陽の光が雲の間からさんさんと降り注いでいた。
ずいぶん暖かくなったな。
私はそう言って、1つ大きなため息をついた。