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009 加護。プルプルは選ばれたオムニスライム

4/22 8:22 今更ながらに言語に関する台詞を僅かに追加。

「あっ、コノエナカヤさん。先行していた傭兵団です」


 ゴブリンの村を出てから一時間弱。舗装されていない草原を車で森沿いに時速60キロ少々で走っていると、前方に武装したゴブリンたちが2台の荷馬車を連れて移動している所に出くわした。

 それを窓から身を乗り出して指さすのはゴブリナのアーシェさんだ。艶のある灰色の髪が風にさらされて乱れに乱れているが、顔に吹き付けられる風を物ともしていないのは流石に強靭な肉体を持つモンスターと言った所か。


「おいおいほんと速えなこの車って奴は! 強行軍の先発にもう追いついたのかよ!」

「ぐがー……ぐがー……」


 アーシェさんの声に答えたのは、後部座席で手付として渡した緊急避難セットをいじくり回していたホブゴブリンのゼツエイさんである。後部座席にはもう一人、クルオさんと言うハイオークが居るのだが、緊急避難セットの保存食をたらふく食べてお昼寝中だ。


「停まりますか?」

「お願いします。これならコノエナカヤさんがおっしゃったとおり、こちらが先に到着するでしょうから」

「おおーい! ハレタナー!」


 気を回して車を止めるかアーシェさんに聞いてみるも、ゼツエイさんが向こうに手を振ってしまったのだから停まらない訳にもいかない。私はそのまま先行していたゴブリンの傭兵団の傍まで車を走らせると、若干警戒した様子で進行を停めていた彼等のそばに車を停車させた。

 するとゼツエイさんが体を乗りだしている窓から外に飛び出す。その際に腰後ろに差していた短剣の柄がゴリッと車体を擦った事に少々イラッときたが、車の高価さや修理の面倒さを知らないゼツエイさんを咎めても仕方がないと割り切った。


「ゼツエイ様?! どうして此処に! それにその馬の無い馬車は一体……」

「うはは、凄いだろ! 自動車って言うらしいぜ! あの兄ちゃんの物だ!」


 ……様? 先行していたゴブリンさん達の中でもゼツエイさんと同じホブゴブリンらしき傭兵がうろん気な目でこちらを見てくる。

 あのゼツエイさんを様付した理由は気になるが、異世界では完全に不審物であろう自動車の中でふんぞり返っている場合では無い。私はアーシェさんが外に出れるように助手席のドアを運転席のスイッチで開いて車のキーを抜くと、自分も車外に出る。プルプルさんとお昼寝中のクルオさんはお留守番だ。


「初めまして。ゼツエイさんにコボルトの村までの護衛を依頼をさせて頂きました近衛仲弥です」

「……む。これは丁寧な挨拶を。私の名はハレタナ。グリーンガーデン村の衛士長補佐をしております」


 グリーンガーデン村? ひょっとしてゴブリンの村の名前だろうか。そう言えばコボルトの村の名前も知らないなあ、自分。

 それにしてもこのハレタナさんを含め、先行組の傭兵たちは実に強そうだ。使い古された革と金属の鎧に、腰には剣を差して手には槍を持っている。ゴブリンと言う事で体は私よりも小さいが、如何にも歴戦の勇士らしくて格好良い。


「ハレタナさん、先行ごくろうさまです」

「おお、アーシェ殿か。ゼツエイ様だけだと心配でしたが、貴女が一緒であれば無用でしたな」

「ふふ。お昼寝中ですがクルオさんも一緒ですから大丈夫ですよ。それと――」


 十数人の中で自分だけ人間であると警戒されるかと思ったが、社会人として後ろ指を指されない態度とアーシェさんの謎の信頼感によって警戒心は霧散したようだ。

 私は現状とこれからの行動をハレタナさんに説明するアーシェさんの後ろで、ゼツエイさんと話している他のゴブリン傭兵へと視線をやった。


「ぼっちゃん、あんまりヤンチャしねえでくださいよ」

「そうですぜ。ぼっちゃんに何かあったらおれらが村長にぶっ殺されちまいやすから」

「なにかもなにもねえ! それに傭兵してんだからとーちゃんもそこまでしねえよ! ……多分」


 ううむ。話を聞くにどうやらゼツエイさんはグリーンガーデン村の村長の息子らしい。あの村は小さな街と言っても過言では無い文化的な場所である事を考えると、結構良い所のお坊ちゃんなのかもしれない。

 あの子供っぽい傍若無人な態度からすれば納得ではあるが。


「――ふむ。いささか信じられぬ話ですが実際にそれを目にしたのだから信じぬ訳にもいきませんな。ではアーシェ殿たちは今日中にウッドテール村に入り警護にあたると言う事で心積もりをしておきましょう」

「はい。私も未だに半信半疑ですが、実際に太陽がほとんど傾かないわずかな間でハレタナさんたちに合流できてしまいましたからね。恐らく中天頃には向こうにつくと思います」


 おっと、どうやら話は終わった様だ。アーシェさんと話をしていたハレタナさんとか言うホブゴブリンが私を鋭い眼で見てくる。警戒の色はもう無いが、地球の日本ではまず見る事の無い戦士の視線に私の心が沸き立った。

 ……いかんいかん。昔の悪い癖が出てしまったようだ。


「お主、コノエナカヤと言ったな。後ろの馬の無い馬車の事など聞きたい事や言いたい事はあるが、自主的にウッドテール村の救援をしている事には感謝する。それとどうかゼツエイ様に無茶をさせないように頼む。傭兵を対象に言う言葉では無いがな」

「はい。心得ました。とりあえず私たちはハレタナさんたちが到着するまでの警備に留めますので」

「うむ。貴殿は人間の割には話が通じるな。ではくれぐれも頼んだぞ」


 人間の割には、か。この世界にも人間は居る様だけど、ファンタジー物の定番である中世貴族みたいな奴等じゃ無い事を祈っておこう。まあせっかく異世界に来たのにわざわざ人間が居る場所に何て行くつもりは無いが。ニート(青年実業家)だからな!

 こうして先行組とのやり取りを終えた私たちは再び車上の人となる。


 ――それから小一時間。相変わらず昼寝をするクルオさんと、すぎ去って行く風景を口を開けて眺めているゼツエイさんを後に、私はアーシェさんと話をしていた。

 内容は異世界から来た事に始まる事の顛末である。本来なら信用できない、それこそ顔を合わせて一日しか経って居ない相手に話す内容ではないが。私は過去の経験により嘘が嫌い、と言うよりも嫌悪しているのでごまかしもせず話していた。

 なにせ貧乏生まれの貧乏育ちの中卒だ。それがなんちゃってでも青年実業家なんてやっているのだから色々と苦い経験もしているのである。

 まあ嘘を吐かず誤魔化しもしない結果、社会にうまく適応できず、27歳にして郊外の廃ビルで引き籠り生活をしているわけだが。


「此処とは違う世界、ですか。精霊界や妖精郷とは違うのですよね?」

「ええ。本当に全く違う世界です。文明を持つ者は私のような人間しかおらず、アーシェさんが私の傷を治してくれた魔法……ですか? そんな物も無い世界ですよ。代わりにこの自動車のような科学が発達しているんですけど……はは、そんな世界で突然プルプルと遭遇して本当にびっくりしましたよ」

「この子、プルプルちゃんですか。……オムニスライムのようですけど、転移、それも未知の世界に転移できるなんてすごい加護持ちですねえ」

「……加護?」


 なんか中二病臭い言葉が出て来たな。しかもオムニスライムって、プルプルさんは普通のスライムじゃなかったんですね。うすうすどころか思いっきり気づいてたけど。

 ――ぷるん♪


「あら? ナカヤさんが住んでいる地球…でしたか? そちらには加護は無いのですか」

「ええ、とんと聞きませんね。聞かないだけで実はあった、なんて事はありそうですが」


 超現実主義者の私はファンタジー系のゲームや本などオカルト系は好きでも、その実は全く信じていない。なので今まではまあ空想の中にはあるんじゃない?程度の感覚であったのだが、現実にこうして異世界になんているのだから社会の裏では超能力バトルが繰り広げられていたとしても、もう驚かないだろう。

 加護とはなにか? そう問いかけた私にアーシェさんが膝に抱いたプルプルを撫でながら説明してくれる。


「加護とは世界を管理する精霊神様方や、世界を守護する竜神様方から送られる異能の事です。能力は送られた精霊神様や竜神様の特性によって傾向はありますが、千差万別で同じ物が一つとして無いと言われていますね」

「ははー。プルプルの事は前から凄い凄いと思ってましたけど、いわゆる選ばれた者って事ですかー。凄いんだなープルプルはー」


 ――ぷるぷるん!

 はいはい。美味しい物はコボルトの村、ウッドテール村だっけ?についてからね。その代りに今日の晩御飯はとっておきのステーキ肉を焼いてあげるから。

 ――ぷっぷるー!


「プルプルちゃんの加護は恐らく境界の超竜神、エクスワルド様の物だと思います。かの竜神様の加護を得た者は歴史の中に一人登場するだけですが、その英雄は瞬く間に千の軍勢や万の物資を遠く離れた場所に移動させ、世界の平原の大半を支配していた超獣たちを討伐したと言われています。それを考えれば持って行ける量は少なくとも世界を超えられるプルプルちゃんの方が凄いかもしれませんね」


 お、おお。凄いな。うん、そうとしかよう言わんけど。

 プルプルさんって超レアなのね。今此処では落ち着かないから聞かないけど、プルプルとは一度ちゃんと話をしなきゃいけないな。

 それにしても加護か。本当に定番なら私にも言語の加護とかありそうだな。本当に今更だけど、言葉を話さないプルプルさんとの意思伝達はもとより、アーシェさんたち異世界人と普通に喋れてるし。

 この辺りの事ってどこかで調べれるのかねえ……。


 こうして思わぬところでプルプルの凄さを知る事になった私はアーシェさんと互いの事を話しながら時間を過ごし、いい加減ジッとする事に飽きて騒ぎ始めたゼツエイさんにクルオさんが起こされたところで目的の地であるウッドテール村に到着した。


次回バトル回。次々回が顛末で、次々々回がファーストストーリーの〆。

その後に地球側、主人公のニート(青年実業家)の生活をプルプルさんなどを交えて2、3話使い、次のストーリーに入ります。

地球側にヒロインを作って異世界に持ってくるかどうか思案中。

プロット的には過去の主人公に似た境遇の男の子を考えてますけど。

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