007 アクシデント? 頼もしきモンスターさんたちとの出会いは転移事故
4・20 一から書き直し
キャラクターとストーリー自体には変更なしです。
「ゴー、プルプル!」
一般ピーポー的日本人としては最大限の装備品を身に着け、黒い虎に破壊されたバギーの代わりに購入したオンオフロード車に乗り込んだ私の視界がグニャリと曲がる。
しかし不快感は驚くほどに無い。視界が曲がると言っても全てが曲がる訳では無く、あくまで周囲が、であるからかもしれない。
今日は何時もよりも重く大きな物、前回までのバギーと比べれば10倍はあるだろう車を転移させるからか異世界に転移するまでの時間が長く。大丈夫だろうかと何時もより多く震えているプルプルに視線をやった。
「きゃああ!?」
「うおわっ!」
「なんだべー?!」
そこで突然聞こえてきた聞き慣れぬ声、いや悲鳴。慌ててフロントガラスから外を見てみれば、そこから覗いたのは昨夕に私たちが転移してきたゴブリンの村の空き地と、その中空を吹っ飛んでいく三人のモンスターたちの姿だった。
……え? やっちゃっ……た?
ゾッと心胆寒からしめた私の思考は走馬灯を見るかのごとく世界を遅く見せ、小さなモンスターと言うか女の子がゴロゴロと地面を転がって行く姿を、革鎧と剣と言う軽戦士風のゴブリンが転がった先の家壁で頭を打ち付ける様を、姿をハッキリとは確認できなかったモンスターが空き地の隅に置かれていた大きな壺の中に頭からはまっている姿を認識させた。
「う、ううっ?」
「つつつ、一体何が起こった」
「ふがもが」
――ぷ、ぷっぷるっぷ……
やっちゃったってプルプルさん……。
このたび目出度く、いやいや全くめでたくないのだけれど。プルプルが行う転移の先に物が在った場合はソレが弾き飛ばされると言う結果を身を持って知る事になった私は、顔を真っ青にして車から飛び出した。
「大丈夫ですか!?」
そんなわけねえだろ。なんて自分でも思った言葉が口からついて出るのは仕方が無い事であろう。
経験しないにこしたことがないが、事故った人間が口にする一番多い言葉が正にソレだろうから。
「あうう、一体なにが……」
「つつつ……、何だってんだぁ?!」
「ふがーもがー」
フラフラとしながらも立ち上がる女の子と、頭を押さえて飛び跳ねる様に起き上がったゴブリン。そして逆さまに足をジタバタとさせる三人を見るに大きな怪我は無い様だ。
良かったあぁぁ。と安心して見てみれば、三人のモンスターの内の紅一点は私が知る数少ない人だった。
艶のある灰色の髪と言う変わった髪色のミドルヘアー。大きな瞳は緑色で、幼く柔和な顔は褐色肌。そして何より人間と同じ位置に在る大きな獣耳が可愛らしいその人は、昨日私の傷を魔法で治してくれたゴブリナのアーシェさんだった。
「アーシェさん?」
「え、あっ? コノエナカヤさん!」
「なんだアーシェ、知り合いかって……おお、依頼主さんか」
「もがーふがー」
胡乱気な目をしていたアーシェさんは私の顔を確認して瞬きする。その言動にゴブリンさんも険しくしていた顔を和らげ、しかしその目線は私を素通りして後ろの車に釘付けになった。
「おおお?! な、なんだこりゃあ!? さっきまでこんなの無かったぞ! ひょっとして転移で持ってきたのか! なんだこれえ!?」
「ちょ、ちょっとゼツエイさん!」
声でけえ! 叫ぶように驚きを口にしたゴブリン、アーシェさんが言うにゼツエイさんはダダダッと車に駆け寄り、目を皿のようにしてボンネットに顔を近づけた。
私はそれを諌めようと声を上げたアーシェさんに目礼を一つ送り、一人ふがもがと逆さまになっているモンスターさんを助けに走った。助けないって事はアーシェさんたちの知らない人なのかな? それとも単純に忘れられてるとか? ははっ、まさかね。
「あの! 引っこ抜きますからじっとしていてくださいね!」
「ふがっ? もがー」
壺から出ている大きな尻に向かって声をかけると、ジタバタとしていた太い足が止まった。
こりゃあ抜くのに力が要りそうだ。私は気合を入れると想像通りにかなりの重量が有るモンスターさんの体に手を回し、全力で引っこ抜いた。
「んんしょっと!」
「ぷはあっ!」
モンスターさん自身も壺の縁に手をついていた事からスポンと音がするような勢いで体を引っこ抜けた。私は想像したよりもさらに重く大きな体を肩で支えるようにして地面におろし、目の前にそびえ立った巨体のモンスターさんに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。体は大丈夫ですか?」
「んあ~? だいじょうぶだぁ~。オレ、カラダはガンジョウだかんなぁ」
モンスターさんが私の頭の上でニガリと凶悪に笑った。
……うん、うん。怖ええよっ?!
多分恐らくきっと、気持ち良く笑ったのであろうモンスターさんの顔を見て私は目を見開いた。
ゴブリンよりも深い緑色の堅そうな肌をグニャリと歪めて笑うその顔は、鬼。緑色の大鬼だ。
ギョロリとした大きな黒い瞳。子供の頭を一飲みにできそうな大口からは牙が下から二本延び、頭髪の無いツルリとした頭と眉はひとえに厳つい。
アババババ殺される~と恐々とする私に、そのモンスターさんがキョトンとした極悪な顔で声をかけてくる。
「だいじょうぶだか、あんちゃん? どっかイテェだか?」
「あ、いえ、ダイジョウブデス」
おっといかんいかん。人を見た目で判断してはいけない。モンスターだけど。いやモンスターだからなおさらか。
私は厳つ過ぎる見た目に反して随分と親しみやすそうな雰囲気をしている……オーガ?さんの目をしっかりと見た。……うん、意外とと言えば失礼なのだろうが、凄く優しそうな目をしている。
「本当に申し訳ありませんでした。私は近衛仲弥と言います。お怪我などがありましたら必ず、今は無銭なのでいかんともしがたいですが、補償をさせて頂きますので」
「ムセン~? ホショー? よくわかんねぇけど、きにすんなぁ。ああー、でもあんちゃんがコノエナカヤだか~。オレはクルオっていうだ、ハイオークだぁ~」
オーク? オーガじゃなくて? ああなるほど。ゲーム的なオークじゃなくて古いファンタジー風のオークなのか。モンスターと言えばゲームよりも書物の知識が浮かぶ私としてはしっくりくる話ではあるな。
「あの、コノエナカヤさん?」
「おおアーシェもぶじだったかー」
「あっと失礼しましたアーシェさん」
一人フムフム納得していた私の背後からかけられた声に振り向くと、そこには可愛らしい顔を困惑の表情を浮かべるアーシェさんが居た。
やっぱりと言うかクルオさんとは知り合いなようだが、だったら私よりも先に助けろよと思ってしまうのは傲慢だろうか?
「すみません、ゼツエイ、私の仲間がその――」
「うおお?! なにすんだこのスライム!」
――ぷるっぷー!
アーシェさんの言葉を遮るその声に振り向けば、扉が開いた車から延びる半透明の緑色に巻き付かれて宙に浮かぶゴブリンの姿があった。
ああいや、プルプルさんのお怒りの声を聞くに、勝手に車に入ろうとしたゴブリンさんを止めてくれているらしい。
なんか出だしから混乱してるなーと考えた私は、仕切りなおす為にアーシェさんにお願いした。
「おはようございますアーシェさん。色々とお話しすることが有りますのでいったん落ち着きましょうか」
仲弥の探検道具メモ
オンオフロード両用車(パ○ダクロス)
中古車センターで購入したお高めの軽自動車。車高が普通自動車よりも高く、ジープなどオフロード車よりも低い。車体も軽自動車ほどでワゴン車よりもコンパクト。
見た目の格好良さもあり、自然の多い異世界でも使えると購入に踏み切った。
僅か3日で廃車となったバギーとは比べ物にならない利便性で仲弥のお気に入りとなり活躍するが……