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003 救援を求めてゴブリンの村へ

「わんわーん!」

「きゅーん、きゅう~ん」

「きゃんきゃん」


 現在、コボルト村では腹を満たして元気いっぱいになったコボルトたちが遮二無二に走り回っていた。

 プルプルの通訳によると、ここしばらくお腹が空いて動けなかった反動で動き回っているそうな。


 ――昨日、同じ郊外に在る外資系量販店で大量の食糧、主にソーセージや調理済みハンバーグなどの安い加工肉を箱買いした私は、プルプルがこれ以上は無理ーと言う量だけをバギーの座席だけでなく車体も使って積み上げてコボルトの街に転移した。

 その後、生でも食べれるソーセージやパンなどを配り、辛うじて動けるコボルトの力を借りて湯を沸かし、真空パックのハンバーグや缶詰のクラムチャウダー(特大)などを温めてコボルトたちに配った。

 その結果が……これなのだが、いくらなんでも元気になり過ぎだろう。どんだけ強靭な生き物なんだコボルト。

 怪我をしている者もしていない者も関係なくひたすら、本当にひたすらに村の中を走り回っている。自分の尻尾を追ってクルクル回る犬みたいで馬鹿可愛いではないか!

 なお、ちなみに私は、一軒のコボルト宅の軒先に腰かけ、小さな子コボルトを一人確保して膝の上でモフモフしている。もちろん親御さんの許可を得ているので合法(なにが?)だ。


「きゅぅ~ん」

「後は……強獣って奴だけか」


 しかしそれが一番の難題だろう。見た事が無い凶暴な獣であるのがどうしようもなく恐怖感をあおる。これが地球なら猟友会にでも依頼する所であるが、異世界には……あるのだろうか? 私は横でソーセージをにゅるるんと食べているプルプルに尋ねてみる。


「プルプル。強獣って奴を狩る……組織? 助っ人みたいなのは居ないのか?」

「きゅきゅ~ん」


 ――ぷるる ぷるぷるぷるる

 へえ、傭兵協会というのがあるんだ。どんなの? 此処にも来てくれるのかな。

 ――ぷる…… ぷるぷるぷるぷ ぷるぷる?

 そっか、この辺りには無いのかもしれないか。そうだな、あればもう助けを呼んでるか


「きゃぅぅん……」

「わんわんわん」


 おや? お爺ちゃんみたいなコボルトが話しかけてきた。何を言ってるのか解らんけど。

 ペコペコしてるので礼を言っているのは解るんだけど、時折私の足の辺りを……おっといかん、コボルト幼女を昇天させてしまうところだった。

 私のモフモフで痙攣し始めていたコボルトちゃんを解放してそっと寝かせると、プルプルに目配せして老コボルトの通訳をしてもらう。

 ――ぷる……

 ほうほう、やっぱりお礼か。食料をありがとうございますと。

 なら丁度良い。プルプル、ついでに一番近い傭兵協会がある場所を聞いてくれるか?

 ――ぷる! ぷるぷるぷる ぷるぷるぷるる ぷるぷるぷるぷるぷるぷぷ?


「わんわ~ん わおんわんわんわ~」


 ――ぷる……

 なるほど。此処は新しい村で傭兵協会が遠く、一番近いところでも昼夜を問わず移動しても3日はかかる場所にあるゴブリンの村か。

 普通の旅程だと一週間と少しと言った距離。これは確かに助けを呼ぼうにも傷ついて食料も無い状況だと難しい距離だな。

 今も村の中を走り回っているコボルトたちを見ると、見かけよりもかなり早く走っているが元々の体が人間の子供ほどだ。人間の大人が走る速さよりも少し速いくらいで、国体選手とかよりは遅いくらいだ。

 つまりは急いで歩くのを人間の大人が歩く速度と同じとしたら……ええと、丸三日72時間に時速4キロを×て……端数を切って280キロと言った所か。日本の様に舗装されている道路での移動では無いからもっと短いかも知れないが。

 しかしコボルトの村に食料の蓄えが全く無い事を考えると助けを求めるに行ける距離では無いだろう。

 ……此処は乗りかかった船か。私のジープなら一日で移動できる距離だ。しかし燃料の事を考えれば200キロほどでガス欠になる。ガソリン携帯缶のデカいのを三つも買えばギリギリ行けるか?

 取りあえず行ってみるか。コボルトさんたちには悪いけど、ゴブリンの村とか超胸熱だし。コボルトが友好的なんだから襲い掛かってこないよね?

 私は考えた事をプルプルに伝え、それを老コボルトに説明して貰う。

 ――ぷるぷる……


「わおん?! わんわん、わんわんわんわん!」


 うわなにをするやめろ! プルプルの話を聞いた老コボルトが私にしがみ付いてペロペロしてきた。

 俺にはそんな趣味は無い! 落ち着いてくーくー寝ているコボルト幼女にされるんなら受け入れるが、テメエは駄目だ! このやろっ!

 何とか最後の一線べろちゅーを回避した私は老コボルトうっちゃり、一度住処に戻って用意してくるから、明日再度訪れるまでにゴブリンの村に行く道案内コボルトを一人用意しておくようにとプルプルに伝えて貰い、その日は地球に帰った。


    ◆


「さて、これからまた食料を買いに行って。その後で給油とガソリン携帯缶を買いに行かないとな。うう~ん、ちょっと金の消費が激しいな」


 ――ぷる?

 お金無いの? 部屋に戻り、外出の用意をしている私の独り言を聞いたプルプルがそう聞いてきた。


「いや、この程度じゃあ収入を上回る事は無いよ。ただ私は生まれも育ちも貧乏でね、あまり無駄遣いと言うのをしないんだ。まあ今回みたいなのは無駄の内には入らないから良いんだけどね」


 ――ぷるる~

 世知辛いね~って? プルプル、君、ほんとにスライム? スライムってお金とか使うのかね。

 ――ぷるぷぷ!

 使うよって? これは失礼しました。スライム差別でしたね。以後気をつけますので今日の所はこの付け届けでもらった伊○のハムを丸々一箱で……

 ――ぷるん♪

 ふっ、ちょろいな。プルプルが機嫌良く○藤のハムを吸収?している内に私はタクシーを呼び、食料の買い出しに出る。私は必要以上の慈善事業はしない性質だが、流石に今回のコボルトさんたちのような非常事態は別だ。

 まあ稼いだのは良いが使い道の無い金が銀行に結構な額で貯まっているので、これから稼ぐ分を異世界探検に使うのも良いだろう。

 プルプルの運べる量を考えて食料品を買い込んだ私は、家である廃ビルに戻るとジープに乗りかえて近くの有人ガソリンスタンドへと向かう。もちろん車の少ない道を通ってだ。

 法定速度内でしか走れないジープで国道を走ると、“法定速度を護らない普通の車”に煽られるからね。


    ◆


「きゃい~ん?!」


 何処までも続く草原にコボルトの悲鳴が響き渡る。アクセル全開で疾走するバギーは少々の悪路に入ったせいで酷く揺れ、時折大きな石に乗り上げては大きく跳ねる。助手席に乗っているコボルトはそのたびに悲鳴を上げるのだ。

 まあどう見ても車なんて無さそうな世界だ。あっても馬車だろうが、地面に近く直接風を浴びているせいで体感する速度は馬車よりも遥かに上だし、そもそも馬車の時速が10キロほど、早くても20キロほどらしいので普通に2倍の速度である。

 初めて乗るなら悲鳴を上げるのも止む無し。これが窓付きの普通自動車ならまた別だったろうが。


「プルプル! 方向はちゃんとあっているか、ゴブリンの村まであとどのくらいか聞いてくれ!」


 風で聞こえにくいので叫ぶようにコボルトの膝の上に居るプルプルに声をかける。

 ――ぷるる? ぷるぷる……


「きゃい~ん! きゅううん、きゃい~ん!」


 ――ぷるん!

 方向は森の外側を走っていれば間違わない、残りの距離は解らないけど、見覚えのある岩を通り過ぎたからもう三分の2の距離を走ってる、か。

 今日は長距離を走ると言う事で朝早くこちらの世界に訪れていた。それが今は日が昇り切って落ち始めた時間。バギーに付けている電子時計を見ると4時間ほど経っていた。

 距離メーターを見ると180キロほど走ってるな。ガソリンもそろそろ底をつく、此処で給油と休憩をするか。

 そう決めた私はバギーを森から距離を取るように斜めに走らせ、パッと見で一番平らになっている場所に停車させる。

 森など自然が強い場所にはコボルト村を襲った強獣と言う存在が多く住んでいるらしく、あまり近くでじっとしていると時折襲われるそうだ。

 今回のコボルトの村の様に、少し離れていてもはぐれ強獣に襲われる事が多々あるらしいが。


「コボルトさんは今の内に休んでて。私は給油をしてしまうから」

「きゃうん……」


 ――しかし、そんな事を考えていたのが悪かったのだろうか。三本目のガソリン携帯缶の蓋を開けた時、地面にへたり込んでいたコボルトさんが大きな鳴き声を上げた。


「きゃおーん!!」


 ――ぷるぷるぷぷぷっ!

 そしてプルプルの強獣だよ!と言う強い警戒の意志が伝わって来た。

 驚いた私はガソリン携帯缶を倒してしまい、中身がこぼれているのを慌てて起こしながら森の方を見た。

 ――居た。其処に居た。それは確かに強い獣の名に相応しい巨体の獣だ。人間では決して持ちえない強靭にしてしなやかな巨体。陽光を飲み込む漆黒の毛皮は遠目からしても固く、爛々と輝く金色の瞳が私たちを確りと捉えている。

 それは虎。黒い虎。しかも地球の虎の2倍はあろうかと言う正真正銘の化け物だった。


仲弥のモンスターメモ


コボルト(暫定)


成体で1m20㎝ほどの二足歩行犬。短毛種が多く、モフモフしているのは子供か老犬がほとんど。

性格は温厚で人懐っこい。小さな見た目に反して強靭な生命力をもっており、戦いは苦手だが少量の食料で長く活動が出来ると燃費がすこぶる良い。

臆病だが粘り強い、所謂農民根性の持ち主。……狩猟種族らしいけど。

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