第2話:プロローグ(2)
更新、随分遅れてしまいました!
今回でプロローグは終了です。
楽しんでいただければ幸いです。
本格的な戦闘は、もう少し先になりそうです・・・((汗
「………私の事を話すのはいいが、その物騒なものを下ろしてくれないかな?」
「嫌だね。」
即答である。
「………ほう?何故か、聞かせて頂いても宜しいかな?」
「あぁいいぜ、聞かせてやるよ。まず、さっきココでロケランが撃たれた筈だ。んで、いたのはアンタ。俺を撃ったのがアンタだって、疑わない方がおかしい。」
「………ふむ、成程。」
「次に、初対面のアンタを俺は信用出来ねぇ。だから、こうやって警戒させてもらってる。」
この言葉に青年は、
「警戒、か………最早これは、脅しに近いぞ?」
と言い、伏し目がちに溜め息をついた。
「まぁ確かに、普通なら効果があったかもしれんな───だが、俺に対しては無意味だ。」
と言い放ち、一度だけ、素早くフィンガースナップをした。
次の瞬間───
「っ!?」
───周りの茂みから、黒い学ランを着た複数の生徒が立ち上がり、それぞれの武器を向けてきた。
「………状況を判ってくれたかな?君の逃げ場は、ここに来た時点でもう無いんだよ。」
「…………お前一人くらいなら、道連れに出来るぜ?」
と、俺、冷や汗を垂らしながら。
「あぁ、別にいいよ。私が死んでも支障がないように指示は出したし、後続も育ててある。何も問題は無い。」
と、相手、平然と。
「君も頭は悪くない筈だ。先程の会話でそれはわかった。だからこそ、もう一度言うぞ?」
そして、ゆっくりと───
「その、物騒なものを下ろして、話し合いをしようじゃないか。」
「…………………」
暫しの沈黙が流れ、そして。
「───はぁぁぁ……わかったよ。わかりました!」
と言いながら、銃を胸ポケットにしまい、手を上に向け、降参の意を示した。
「………良かった、安心したよ。平和的に済みそうで、ね。」
そういった青年は、くるりとその場で反転して、茂みにいる者達に、
「皆、すまないね。こんな事に付き合わせてしまって。」
と、申し訳なさそうに言った。
この言葉に、茂みにいた女生徒が、
「いえ、御劔三佐を守るのも任務のうちですので。何より………」
ここで言葉を一度区切り、堅い表情を崩し、
「皆、鏡夜の事を慕っていますからね。」
と、微笑を浮かべながら応えた。
「……皆、ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。」
青年はそう言うと、嬉しそうに、照れているようにはにかんだ。
(…………なんだかなぁ……)
とは、おいてけぼり状態な俺の心情である。
俺は今、腰に手を置き、片手で頭をボリボリと掻いている。
正直、微妙に居心地が悪い。
(完全に俺除外かよ………)
と、思っていたところで、
「──さて、すまないね。随分待たせてしまったかな?」
と、青年がこちらに振り返り、話しかけてきた。
「いえいえ、それ程待ったわけでもないし、お気になさらず〜」
俺はそう言い、手をひらひらと振った。
「そうか、では、話しに移ろうか。
先程の、私が誰か、という質問に答えよう。」
彼はそう言うと、佇まいを直し、
「私の名は、先程の会話で聞いていたかもしれんが、御劔 鏡夜准尉だ。呼び方は、まぁ・・・准尉でも鏡夜でも、好きに呼んでくれ。
大和皇国鎖環連合東京本部附属高校の司令部に所属している。」
「………大和皇国鎖環連合?なんだそりゃ?」
「……………君、大和鎖連を知らないのか?このご時世に……」
「いや、初めて聞いたけど………」
「………じゃあ、黒軍は?」
「知らねぇ。何それ、チェスかなんか?」
「……………君、一体どこから来たんだい?大和鎖連を知らないなんて、よっぽどだぞ?ここにいる時点で、知っている前提で話していたんだが………この近隣住民には、既に通達が成されて、一般市民はいないはずだし………」
「って言われてもなぁ………俺もさっぱりなんだよ。そもそも、ここが何処だか分からねぇし………」
「何処だか分からない?」
「あぁ。気付いたらあそこにいた。ってか、そもそもなんで俺を攻撃したんだ?」
「あぁ、いや。あれは君を攻撃したわけじゃないんだ。白軍・・・あぁ、正式には、日本公帝国軍と言って、略称は帝国軍、白軍があるが・・・まぁ、その『我々の敵』に向けて行った攻撃なんだ。」
「ん………?ここ日本だよな?今戦争やってんのか?」
「?………何を言っているんだい?ここ数十年はこうだったじゃないか。授業で習わなかったのかい?」
「え、ハァ?」
「本来ならば、初等学校の時点で習うのだが………全く、知らないと?」
「あぁ。そんなもの、聞いた事すらないな。」
「……………どういう事だ?もしや、学校にずっと行っていなかった?………いや、服装からしてまず有り得んだろう……」
「……ん、待てよ?」
………もしかして………
「………なぁ。」
………もし、俺の推測が正しければ………
「ん、なんだい?」
………この質問で………
「……………2020年に、東京でオリンピック、開催されるよな?」
絶対に、俺の記憶と食い違う(・・・・・・・・・)。
「………?ハハッ、何を言い出すかと思えば。そんなもの──」
────この日本で行う訳がないじゃないか────
「────っ!!」
確信した。
致命的なまでに、確信してしまった。
ここは───
「……………………………俺の知る、日本じゃない………?」
俺は、確認の為にもう何度か日本の有名な出来事を尋ねたが、何一つ俺の知る歴史は語られなかった。
「…………………嘘だろ、おい………」
俺は手で顔を覆い、あまりのショックでふらついてしまった。
「…………?、どうしたんだい?」
「ハハッ、マジかよ…………なぁ、鏡夜。どうやら俺ぁ──」
俺は顔を覆った手を離し、の方へ向いた。
「───この世界の、人間じゃないみたいだ。」
その時、俺がどんな顔をしていたかはわからなかったが、彼の反応を見る限り、相当ひどい顔をしていたようだ。
「……この世界の、人間じゃ………ない?」
「あぁ、そうだ。俺はこの世界の人間じゃない。さっきした質問は、全て、俺の世界で起こった、もしくは起きるはずだった出来事なんだよ!」
「なっ………そんな、馬鹿な話が………」
「あるんだよこれが………事実、あんたの目の前にな……」
暫しの沈黙。
そして、次に口を開いたのは───
彼の、方だった。
「………まぁ、よくわからないが。一度、我々と行動を共にしてみないか?」
「………?」
「そうして見えてくるものもあるだろうし、何より、雨風を凌ぐための宿も必要だ。金は持っているかい?」
「あー……1000円ちょっとだな。」
「ふむ………成程。よし、わかった。君が我々と来るなら、君に宿と、暖かい食事と、綺麗な服を用意しよう。」
その言葉を言い終わった後に、
と言っても、宿は学校の寮で、食事は学食、服は制服になるがね。
と、申し訳なさそうに付け足した。
「……………それは、俺に軍に所属しろ、って事か……?」
「まぁ、そういう事になるかな。大丈夫だ、悪いようにはしない。私が保証しよう。」
そう言って、彼は右手を差し出してきた。
「……………………」
俺は考える。
付いていく事のメリットとデメリットを。
それを比べ、どちらの方が大きいかを。
一通り頭の中で算出し終える直前に、ふと耳をある音が掠めた。
───怒号と、銃声。それに、爆発音。
そちらに目をやると、今いる山の麓にほど近い場所で、黒の学ランの生徒と、白のブレザーの生徒が、
───殺し、合っていた。
槍で刺し、ナイフで抉り、刀で断ち切り。
銃で撃ち、爆弾で吹き飛ばし、火で焼いた。
そんな───ある種の、地獄。
それが、目前に広がっていた。
そして、俺は俯いて考える。
───俺は、人を殺せるのか、と。
死体を見るのは大丈夫だ、問題ない。それは先程死体を漁ったことでも証明されている。
だが問題は、殺人行為自体を行えるか。
俺に、そんな覚悟はあるか?
・・・いいや、無理だ。俺にはそんな事出来ない。
そんなことを考え、差し出された手を払おうとしたその時──
「…………人を殺す事に、抵抗があるか?」
──そんな声が、聞こえた。
「まぁ、無理もあるまいよ。我々も、そうだったからな。」
「───え……」
「それはそうだろう?たとえこんな状況の国にいたとしても、どうしても忌避感は拭えない。まぁ、私たちが弱いだけなのかもしれんが………」
彼はそこで区切り──
「だが、躊躇えば、私達の方が殺され、奪われ、蹂躙されてしまう。」
そう、言い放った。
「………………」
「だから私たちは剣を取り、戦うことを選んだ。」
「…………………」
「君はそれでいいのか?確かに、今の君には何もない。だが、いいのか!?このまま、何もせずに終わってもいいのか!?」
「………っ!」
「───さぁ、選べ!ただ黙って緩やかな死を選ぶか、抗い、勝ち取り、この窮地から脱するか!!」
その言葉で。
「……………………りたい……………」
俺の中に。
「聞こえんぞ!声を張り上げろ!振り絞れ!!」
───火が、灯った───
「勝ち取りたい!!ぜってぇに帰ってやる!!俺の障害になるモンは、一切合切、全部ぶっ壊してでも!!」
「────いい顔に、なったじゃないか。」
彼はそう言い、ふっ、と笑うと、再び、手を差し出した。
「改めて、御劔 鏡夜だ。よろしく頼む。」
その握手に、俺は───
「………俺は終夜 荊、こちらこそ、ヨロシク。」
今度こそ、応じた。
こうして俺は、大和鎖環連合東京本部附属高校に、暫定的ではあるが、籍を置くことになった訳だが───。
「あ、そうそう。荊君の正式な入学は書類が通ってからだから、もう少し通学は待ってくれよ?」
とは、寮に着き、部屋を案内して貰った後の《名前》の談である。