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雨の振る中、私は庭に繰り出す。
自分の中から湧き上がる恐怖を抑え、何とか自我を保ち、雨でぐちゃぐちゃになった花壇を目指す。
花壇の中はもう泥になっていて、数々の花は地に倒れてしまっている。
その中に一つ。まっすぐに立ったまま黄色く主張する花がある。
タンポポの花は存外丈夫な花だそうだ。
雨の中でさえ、アスファルトの上でさえ咲き。年をまたいで咲き続ける。
足元で諂いながら、害もなくそこに笑い続けるのだ。
タンポポの花を地面から引き抜き、家の中に戻る。
小さな瓶にそれを入れ、キャンパスの前におく。
私は独りで生きていく。もうお前に怯えるのはこりごりだ。
せめてもの供養として、お前の好きなこの絵と一緒に私の傍から消えてくれ。
そう心の中で繰り返しながら、黄色の絵の具を手にとる。
地面から離れたタンポポは、それでも尚、瓶の中で生きようとしていて、その憎らしさがやはり梓に似ているような気がした。
意識はふわふわと浮かぶ。
その浮遊感は、夢の中のようだ。それでもはっきりとしている意識で今の状態が分かる。
桜が表に出ているのだ。
紫を追い出してしまってから、おそらく数日がたった。
私は依然として外には出れずに、この意識のプールの中で沈んでいる。
きっとこれは私に与えられた罰なんだろう。
たかが、二人目の人格がでしゃばったから。あまつさえ紫を利用しようとしたのだから。
ここは一つ、祈る神もいないが、懺悔したいと思う。そうすれば綺麗にここから消えてなくなれるような気がするから。




