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クラスメイトの顔と名前は覚えよう




休日。俺は今日発売のゲームを買うために、早起きしてゲームショップに向かっていた。


時刻は午前五時。まだまだ辺りは暗い。空は微かに白んできた程度だ。眠気眼をこすり、フラフラと歩きだす。


「……よお、八柱。やっぱりお前もか」


「……柳田じゃないか」


道端を欠伸をしながら歩いていると、ばったり柳田に会った。眠そうな顔で片手を上げて、こっちに歩いてくる。俺はニヤリと笑い柳田と合流。そして二人でフラフラと歩きだした。


「……やっぱり、初日から買うよな」


「……ああ。まったくだ」


軽く言葉を交わしながら、ゲームショップに向かって歩き続ける。眠いのであまり会話はしない。眠気でぼんやりとした頭で歩きだす。それでも、俺達はこれから買うゲームの事を思いウキウキしていた。


「……やっぱりこんな時間でも並んでる人はいるんだな」


「……まあ、人気だから。しょうがないさ」


「……おとなしく並ぶか」


ゲームショップに来ると、こんな早い時間にも関わらず長い列ができていた。


ぼんやりと二人して突っ立って並ぶ。眠い。凄まじく眠い。気を抜けば立ったまま眠ってしまいそうだ。


寝てしまわないように、俺達はもごもごと互いに口を動かす。


「……朝早いのにみんな良く並ぶよな」


「……ああ、凄いよな。一体どんな奴か想像もつかないよ」


「……ん?でも、前のほうにうちのクラストの山本がいたぜ」


「……へえ、山本ってどんな奴だっけ」


のんびりと前の方を覗く。


いたのは私服の大学生風の人やスーツを着たサラリーマン。忍者。若いお姉さん。目を擦る子供等。高校生男子の姿を見かける事はできない。



……あれ、忍者?



「……なんか忍者がいるんだけど」


「ああ、あれが山本君だ」


「マジで!?」


思わず叫んでしまった。


見間違いじゃないかと目を擦る。だが、やはり忍者だ。身に纏った黒装束、頭は頭巾を被り目元だけが覗いている。履いている足袋の色も勿論、黒。隠密行動の忍者がなぜゲームを買いに?いや、そもそもクラスメイトがなぜ忍者の格好をしているのかと突っ込むべきなのか?


こんな感じで頭を悩ましていると背後からハイテンションな声。


「おや!八柱に柳田じゃないか!」


「お、高木か。全然気付くかなかった。おはよう」


柳田が軽く手を挙げて挨拶していた。後ろを振り返るとそこにはジャージを着た坊主頭の(少年である俺が少年というのも変だけど)少年がいた。良く焼けた額には汗を滲ませ、息をきらしていた。知らない顔だ。柳田の知り合いだろうか。


柳田と談笑し始めた高木。やけに高いテンションだなぁー、運動部かなーと思っていると重要な事に気づいた。


……ん、まてまて。この高木って奴、俺の名前も呼んでなかったか。しかも一番始めに。


まさか知り合い、と思い高木を観察する。身振り手振りを交えながら楽しそうに柳田と話す高木。肌と対象的に真っ白な歯が光る。よくよく聞ければこの高木という男、会話の中に俺も入れていた。爽やかスポーツマンスマイルって奴を俺にも向けているし、こちらも見て話している。


嫌な予感がした。冷や汗をかきながらも俺は口を開く。


「あっ、そうだ!再来週の校外学習の話なんだけどさ……」


「おおっ!確か水族館だっけ!小学生かよって感じだけどスゲー楽しみだな!」


「俺達三人は同じ班だったよな、仲良くやろうぜ」


「そ、そうだな」


さも当然の様に話す二人。そんな二人に俺は笑いながら応えたが、内心は地震に表すなら震度五ぐらいで揺れていた。


同じクラス。しかも校外学習の班まで同じ。この砕けた感じから俺達の仲はだいぶ良いのだろう。そんな奴の顔と名前を忘れるとは。いったい俺の脳みそはどうなっているんだ。


そんな風に悶えていると遠くから呼び声。


「おーい、みんなー、おはよー」


「ん、なんだ?」


「同じクラスの宮崎だよ。おーい、おはよー」


「み、宮崎?」


宮崎。誰だそれは。全然聞き覚えがない。しかし、二人の様子を見るにやはり同じクラスらしい。こちらに歩いてくる宮崎?を見るが、やはり全然知らない顔だ。ふんわりとした茶色い髪にくりくりとした目。身長は低い。このショタっ子は誰だい?と青空に問い掛けたくなる。


「いやー、やっぱり初日から買うよね」


「まったくだ。というかこれ以上待ちきれないしな」


「今回のは凄いんだろ、モンスターとか全部新しい種類になるらしいじゃないか」


「へー、そ、そうなんだ」


「僕的にはパッケージに出てくる奴がミソと見たな」


「雷を操るらしいな。前作のティ○レックスポジションだろう」


「雷か。PVを見たがなかなか強そうだったぞ。なんか動きも速かったし」


「わ、わあー。スゴイネー」


入ってきては直ぐに会話に溶け込む宮崎。耐えられない。気まずい。気まず過ぎる。なんだこの和やかな雰囲気は。なんだこの仲良し会話は。そして、なんだこの疎外感は。


「あ、八柱じゃないか」


また背後から新たな声。だが、俺は振り向かなかった。俺は東の空を見つめ、ゆっくりと上ってきた朝日を見ながら思う。


……ああ、もう、好きにしてくれよ




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