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第七話

 千尋のいる教室に顔を出すと、変わらず彼女は浮いていた。話しかける者はおらず、すでに視線を送って陰口をする者もいない。彼女を除け者にする、という意思だけが形骸化して、関わることを断絶する行為だけが残っているようだ。

 すぐにでも声をかけたい衝動を抑えて、俺は廊下から教室を見渡す。目当ての人物はすぐに見つかった。ベランダに面する本棚の上の花瓶に水を入れたのだろうか、彼女は花瓶を置いて、振り返ったところで俺と目が合う。千尋の友人、里山だ。

 俺は他の人に気付かれないように指先だけで手招きをする。気付いた里山は一瞬戸惑いを浮かべるが、すぐにこちらへ足を向けた。それを確認すると、俺の所へ来る前に、教室に背中を向けて廊下の窓を見る。彼女の気配が背中に来たのを察すると、俺は脇を通すようにして後ろにいる里山に一枚のメモを渡した。一連の行動は他の生徒には気付かれていないだろう。俺はそのまま何も言わずに自分の教室に向かった。

 自分の教室の廊下で、例の女子三人組が談笑しているのを見かけた。話しかけようと近付いただけで、嫌悪感丸出しの、まるで害虫でも見るかのような顔をされる。

「何?」

 三人組の一人が、俺に話しかける。今日学校へ来て、中島以外と交わす初めての会話だ。

「あ、ああ。今日、お前らにどうしても聞いてほしいことがあるんだ。放課後、部活のあとでいい。教室にこれないか?」

 三人は視線を合わせて目だけで会話をしているようだ。

 たのむよ、と念を押すと、三人はため息混じりに了承した。

 里山と、この女子三人組。彼女達の誤解を解いて、協力してもらおうと俺は思ったのだ。


 昼休みの次の授業は国語だった。授業中、音読をしろと先生が俺を指名した。当てられたのは今日の日付と俺の出席番号が同じだったからだ。よくあることだが、この空気の教室で音読をするのは気が進まない。それでも指名されては仕方がない、と俺は教科書を持って立ち上がる。

 そして一音目を読み上げたところで呼吸が止まった。

 周りの生徒が一斉に筆箱を落としたのだ。不意を突かれて驚く。俺が指されることを予想して、昼休みの間に打ち合わせでもしていたのだろう。先生も驚いたようで、どうしたのかと顔を上げている。筆箱を落とした生徒たちは反省の色も無いわざとらしい言葉で謝罪を口にした。数人が笑いをこらえ切れずに半ば吹き出すようにして小刻みに震えている。

 提案したのは誰だか知らないが、数人が一斉に落としたのは彼らも予想外だったようで、どうやらそれが可笑しかったらしい。

 前方に座る佐伯の、嫌な笑みが目に入る。俺はそれを一瞥すると、異様な量の咳払いの中、音読を済ませた。

 結局その日、中島以外に話しかけてくる者はいなかった。


 放課後、部活へ向かうと、部員たちまでもが気まずい雰囲気に包まれていた。表面上では取り繕っているものの、明らかに態度がいつもと違う。進んで話しかけてくる者もいない。

 当然、士気も上がらずプレイも噛み合わない。教室でのことよりも、それが部活にまで及んでいることが辛かった。やるせなさが満ちてきて、苛立ちが沸き立つ。

 俺は耐え切れず、逃げるように部活を早めに切り上げた。俺がいることによって、他の部員や後輩達の士気まで下がっているような気がした。

 更衣室で制服に着替え、教室に向かう。

 早めに切り上げたせいで、しばらく退屈な時間を過ごすことになった。



 そして、日差しが赤く染まり始める頃、四人の女子が教室に入ってきた。




続く。

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