断章【2】
物語には直接関係のない日常パートです。読み飛ばしても構いません。
俺が石田に告白された日から遡ること6年前。
町内の空き地で、ひとりうずくまっている少女を見つけた。俺は近づいて声をかける。
「どうしたの?」
顔を上げた少女は、数年前に家のとなりに引っ越してきた菅山 千尋だった。
「コウタ君が、わたしのかみをひっぱったの……」
涙でぐしゃぐしゃになった顔でそう言った。手には綺麗な色をした髪飾りと、それに絡まるように巻きついた髪があった。
「かみの毛、ぬけちゃった……」
千尋は、髪飾りを引っ張られたことよりも、ちぎれた髪にショックを受けて泣いているようだった。千尋は綺麗な髪をしているため、自分でもそれを気に入っているのだろう。
「またあいつらか」
俺はそう言って千尋の頭を撫でた。
「オーケー。待ってろ。おれがぶっとばしてきてやる」
コウタというのは、この辺りでも評判のいじめっこである。
泣いたままの千尋をそのままにして、俺は走った。コウタはすぐに見つかった。別の空き地で、仲間達と木に登って遊んでいる。向こうが気付いた。
「おー。何してんの? 一緒にあそぼうぜー」
俺は返事をせずに近づいて、木の下からコウタを見上げた。
「ちひろの仕返しにきた」
俺はそれだけ言うと、頭上にあるコウタの足を掴んだ。
「ちょちょちょ! まて!」
焦るコウタに構わず、俺はその足を引っ張る。
「おちる! おちるって! おちああああ!」
断末魔の響きとともに、コウタが地面に落下した。くふぅ、と息を漏らして背中を押さえてのたうつ。仲間達が木の上から固まったまま見下ろしていた。
俺はコウタの苦痛に歪む表情を見届けると、立ち上がる前にその場から走って逃げた。
千尋の待つ空き地に戻ると、彼女は泣くのをやめて、空き地の端で花を摘んでいた。この季節によく咲く、小さな白い花だ。
「よう」
声をかけて振り向いた千尋の両手には、溢れんばかりの花が握られている。
「仕返し、してきたよ」
俺は誇らしげに言ったが、千尋はきょとんとした顔をした。
「それで?」
「え?」
「それで、コウタくんのかみの毛はどこにあるの?」
辺り一面に咲く白い花と、手に持った花束。その風景によく映える千尋の笑顔。
俺は、苦笑いしか出来なかった。
物語には直接関係のない日常パートです。




