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第四話

 校門を出る時まで、周りの視線が痛かった。全ての人が、俺達を蔑んでいるように感じられた。

 しばらく会話をしながら歩く。暮れかかった夕日に照らされて、彼女の白い肌と、それとは対照的な漆黒の髪が輝いた。思わず目を奪われる。

 やはり、見た目は良い。と、再認識させられる。


 そして、以前一緒に帰った時に、喧嘩をした道に差し掛かった。俺はふと思い出して、彼女に尋ねた。

「なんであの時あんなに怒ったんだ? 確かに俺にも悪い所はあったけど、お前があんなに怒るなんて、未だに理解できない」

 彼女は前を向いたまま聞いている。

「別に、いいじゃない。どうでも……」

「そっか」

「そうよ」

 あの時とは違って、落ち着いた様子で言う彼女に、それ以上言及はしないことにした。

「そういえば、おじさんおばさんに会ってないな」

 話題を変えることにした。前と同じ話題だが、気になっていることは確かだ。千尋は黙ったまま歩き続ける。

「もう三年くらいになるかな。おじさんの料理、久しぶりに食べたいな」

 相変わらず黙ったままの千尋。様子がおかしいことに気付く。

「おじさん元気?」

 構わずに、返答がないので質問をすると、千尋が立ち止まった。

「どうして今さらそんなこと聞くの?」

 空気が変わる。触れてはいけないものに触れてしまった気がした。そして俺は思った。あの時、千尋が急に感情的になったのは、石田関連ではなく、この話題のせいだったのかもしれない、と。

「え、いや、気になって……」

 うろたえる俺に、千尋は冷たい視線を送る。

「そう。でも、もう遅いわ。お父さん、もういないもの」

「え?」

「離婚したのよ、つい最近。知らなかったの? 家、となりなのに」


 千尋の言葉に、動揺が膨れ上がる。三年前、家に遊びに行っていた頃は本当に仲が良さそうで、離婚だなんて思いもしなかったからだ。

「そんな……。だってあんなに」

「仲が良さそうに見えた?」

 千尋に言葉を遮られる。

「全然仲良くなんてないわ、昔から。あの人たちは世間体を気にしてるだけのピエロよ。外では良い顔して、家では喧嘩ばかり」

 俺は黙って聞くことしか出来ないでいた。

「お母さんは家ではずっと私に冷たかったし、離婚したあとも八つ当たりの毎日。お父さんだけは昔から優しくて、ずっと信じていたけれど、結局は浮気して逃げたわ」

 言葉が出ない。純粋な衝撃に打ちのめされそうになる。

「お父さん。最低なのよ? 女の人にはみんな良い顔して、たくさんの人と関係を持ってた。お母さんが探偵を雇って調べたの」

 笑っちゃうわ。と、千尋が苦しげに笑みをこぼす。

「お母さんも酷いわよね。探偵まで雇って夫を調べるなんて……。お父さんは結局、慰謝料だけ置いてどこかに行ったわ」

 そこまで言うと、千尋は何かを耐えるように黙ってうつむく。俺はどうしていいのか分からなくなっていた。

「今、おばさんはどうしてるんだ?」

「知らない……」

 そう言うと、千尋は地面にうずくまって肩を震わせ始めた。

「知らないよ、もう……」

 嘘泣きでないことはすぐに分かった。なんて声をかけたらいい。気の利いた台詞を、俺は持っていなかった。

「そうか。大変だったな」

 口から出たのは、そんな月並みな言葉だった。

「でも、辛かったなら俺に言ってくれればよかったのに……。一応、付き合いは長いんだしさ」

 うずくまる千尋に手を伸ばす。が、すぐに手を強くはたかれる。

「言ったわ! 何度もあなたに相談しようとした!! なのにあなたは無視してたじゃない!!」

 突然大声を出した千尋に、俺は手をはたかれた状態で固まる。

「あなたは友達と遊ぶことに夢中で私のことなんか見てなかったじゃない!!」

 泣きじゃくる千尋には、正気が感じられない。完全に落ち着きを失っている。

「ご、ごめん。でも、俺もまだ小さかったし、遊びたい盛りだったんだ。無視してたつもりなんてないよ……」

 実際、千尋からは今までそんなことを聞いたことはなかった。それに、俺の家族でも話題には上がらなかった。本当に知る由もないことだ。

 「言い訳なんていい! お父さんみたいなことしないで!!」

 そう言われて、俺はただ黙ることしか出来なかった。





 嗚咽を漏らす千尋が落ち着くまで、俺はとなりに座り続けた。周囲の視線など、もうどうでもよくなっていた。











続く

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