断章【3】
物語には直接関係のない日常パートです。読み飛ばしても構いません。
俺が石田に告白されてから遡ること半年前。
「兄ちゃん、誕生日おめでとう」
その日、妹からの第一声はそんな一言だった。その言葉に、今日が自分の誕生日だったということを思い出す。
「ああ……そういえば」
「もしかして、忘れてた?」
「うん」
信じられない。と言った様子で俺を見る妹。が、すぐに呆れたようにため息を吐く。
「ま、いいけどね。そのほうがサプライズになるし」
「あ? 何のことだ?」
「いいからいいから、早く学校行きなさい」
そう言って制服に袖を通したばかりの俺の肩を押す。
「わかったわかった。……いったいなんなんだ?」
登校を終えた俺は朝練のために部活のロッカー室にいた。ユニフォームに着替えようと自分のロッカーを開けた時、見慣れないテニスシューズが入っているのに気がついた。手に持ったそれはまだ新しく、箱から出したばかりといった印象だ。
それを取り出して、着替えている他のメンバーに尋ねる。
「おい、これ誰か間違えてるぞ」
一番身近にいた同じ学年の木原に言ったのだが、帰ってきたのは返事の変わりに呆れ果てたような視線だった。
「なんだよその顔……誰のシューズだこれ」
重ねた俺の質問に答える代わりに、木原が俺の肩に手を置いた。
「よもや、お前がここまで鈍感だとは思わなかった……」
首を横に振りながら、気の毒そうに言った。
「あ? 何言って……」
「今日は何の日だ?」
「今日?」
「そうだ、今日という日、そしてその日にお前のロッカーに新品のシューズが入っている。ここから導き出される答えはなんだ!」
今日は俺の誕生日……そして新品のシューズ……。
「もしかして、誕生日プレゼント?」
木原は俺の肩から手を離しガッツポーズをした。
「そのとーり! お前の誕生日を知った日からこつこつと部員達で金を貯め、妹ちゃんに足のサイズを聞き、お前の好みに合わせたものを手に入れたのだ!」
「木原先輩、そこまで言わなくても……」
熱く語る木原に後輩が口をはさむが、木原はそれを手で制止する。
「いや! さっきも見ただろう! こいつはサプライズを「誰か間違えてるぞ」で片付ける男だ。全て言ってやらんと俺達のありがたみを噛み締めることができん!!」
ずいぶんな言いようだな。
「いいかよく聞け!」
「いや……」
木原の言葉を遮る。
「ありがとう。宝物にするよ」
俺の発言に満足したのか、木原は振り上げていた腕を下ろした。
「うむ、大事に履きたまえ。それと、妹ちゃんにも礼を言ってやれ」
「ああ」
真新しいシューズを履いて、俺は部活に繰り出した。
物語には直接関係のない日常パートです。




