第九話
それから二週間くらいは同じような日々が続いた。
話しかける者はおらず、陰口は続き、教科書も何冊か使い物にならなくなった。
部活もうまくいかないし、後輩達も空気を察したのか以前のように接してはこなくなった。
家でも家族と会話することが少なくなった。母さんにも心配された。妹は俺が何かに悩んでいるのだろうと話を聞きにきてくれることがあったが、なんでもないといつも追い返した。
しかし、虐めが始まって一ヶ月程過ぎると、徐々に良い兆しが見え始めた。
何気なく千尋の教室を覗くと、里山、女子三人組以外のほかの生徒達が千尋に話し掛けているのを見ることが多くなった。
俺のクラスでも一部の生徒達は今までのように接してくれるようになった。
部活でも、少しずつわだかまりが消えていっているのを感じて、俺は少し安心した。
それでもクラスの半分以上は授業の妨害をしてきたし、陰口や無視をする者はたくさんいたが。
そして今、俺は部活を終えて教室へ向かっている。
廊下を歩いているとき、教室から男子の笑い声が聞こえた。嫌な予感に胸がざわつきつつも教室をのぞくと、今まさに男子生徒が俺の机を蹴り飛ばしているところだった。4人の面子はバスケ部の連中のようだ。
「何してるんだ」
俺の声に、彼らは一瞬動きを止めると、こちらを振り向いた。とても友好的とは思えない笑顔を携えている。中に佐伯はいないようだ。
「何してんだよ」
「行こうぜ」
くり返した俺の質問に答えることなく、誰かが言った。その声に応えるように、彼らはぞろぞろと俺の脇を通って教室から出て行く。静止の言葉を掛けたところで無駄だろう。彼らが教室から出たのと同時に、自分の机に向かう。
蹴り飛ばされて傾いた机を元に戻そうと持ち上げた時、机の中から何かが落ちた。床に転がったそれを最初に見たときは木の葉か何かだと思ったが、正体を知って唖然とした。
カマキリの死骸だった。
「ごめんな。俺のせいで」
校舎裏、簡素な墓の前で、そうつぶやいた。
「何してるの?」
聞き慣れた声に振り向くと、里山が立っていた。
「墓作り」
そう応えた俺の足元に視線を落とすが、答えの意味が分からないようで首を傾げた。頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。
「お前こそ、どうしてここに?」
余計な詮索をされる前にこちらから質問する。
「え? えぇっと、部活が終わって帰ろうと思ったら、校舎から見えたから……」
おどおどしたようにうつむきがちにそう答えた。いつもの里山だ。いつかの放課後の教室での里山が嘘のようだ。
「そうか。千尋は一緒じゃないのか?」
「千尋ちゃんは、今日は部活出てないみたい」
「部活の人達とはまだうまくいってないのか……」
「ううん。そうじゃなくて、画材が汚れちゃったから家で綺麗にしてくるって言ってた」
「なるほど」
汚れるのが前提の美術画材だ。そういうこともあるのだろう。しかし、部活間際にいきなり帰って綺麗にするのもおかしな話だ。
「で、お前はいつまでそこにいるんだ?」
突っ立っている里山に視線を送る。特に用事があるようには見えなかったのだ。
「うぇ!? ああ、あのですね」
なぜ敬語だ。
「い、一緒に、帰りませんか?」
絞り出すように言った一言に苦笑しつつも、俺は置いてあった鞄を持ち上げた。
「ああ」
続く




