第三章 緑の山
夏休みが終わり僕は家に戻った。もちろんギイーンを連れて。僕の部屋でギイーンはおとなしくしていた。
封印されていた期間が永かったせいだろうか。一日の大半のギイーンは眠っていた。
お父さんにはギイーンは見えなかった。
ギイーンはこの時代、この世の何者でもなかった。ギイーン自身も自分が何なのかわからないでいた。
たまに近くの川に行って水面を眺めていた。
「森に帰りたい…。」
ギイーンが小さな声で言った。
僕は何とかギイーンを励まそうと思った。
「ギイーンの住んでいた所に今度の週末行ってみようよ。」
ギイーンは精霊に戻りたがっていた。一度捨てた昔の自分に。
僕は少しでもギイーンの役に立ちたかった。絶望の悲しみから救ってあげたかった。悪事を働いたギイーンは森には戻してもらえないのか。罪は消えないのか。僕はしきりに考えたが答えは出てこなかった。ずっと一人でいたギイーン。その姿は、僕のお母さんの姿に重なった。いつも一人だったお母さん。いつの日か心の病気にかかっていた。
僕は持っていたおこずかいをはたいて新幹線に乗りギイーンの故郷に向かった。電車を乗り継ぎおばあちゃんの家から更に三十分行った山に向かった。
駅前は想像よりはるかに観光地化が進み賑わっていた。
僕達はモノレールで頂上まで登った。そこも観光地化され道はある程度整備され山登りコースになっていた。更に進むと、子供達が水辺で遊ぶ声が聞こえてきた。
小川の周りに木で作られた椅子とテーブルが置かれていた。そこでたくさんの人がお弁当を食べたりしていた。
ギイーンが話していた静かな森ではなくなっていた。
僕は言葉も出ずそこに立ち尽くしていた。ギイーンは僕の横をすうっと通り小川の水に手を入れた。僕もギイーンの後の続き小川に手を入れた。
冷たい水の感触は無表情で、ギイーンの住んでいた森の小川にある生命の音は何も聞こえなかった。魚も虫達も姿を消していた
ギイーンの大好きな苔の生えた石は消えていた。
小川の流れの音も人の声でかき消されていた。
「ギイーン、ごめん。こんなつもりじゃなかった。」
「ヒカルのせいでは無い。私がここに住んでいてもいつかはこうなっていたんだから。」
心なしかギイーンの瞳が潤んでいた。
白いギイーンの手が水の中にある小石をどかした。すると小さなカニが出てきて慌てて違う小石の影に隠れた。ギイーンは小さく微笑んだ。
僕はそんなギイーンの横顔を見つめた。精霊だったギイーンはどんな姿だったんだろう。きっと綺麗だったんだろうな。
哀しげなギイーンを見ながら僕はそんな事を考えていた。こんな時になんて事考えているんだろうと僕は自分の頭を叩いた。
僕は何とかギイーンが精霊に戻れないものか必死に図書館に通って調べた。しかし、そんな方法はどんな本にも書れていなかった。
僕はお小遣いが貯まると決まってギイーンを連れ色々な山に登った。探してあげたかった。ギイーンの住んでいた場所と似ている所を。