ステータスは平凡だが、小枝を振ったら森が割れた
神によると、どうやら死んで異世界転生したらしい。
草原の真ん中で目が覚めた。
「……チュートリアルの場所かな?」
青い空。
どこまでも続く草原。
見たことのない山。
少なくとも、日本ではない。
神様の説明はずいぶん簡単だった。
死んだ。
異世界へ転生する。
あとは好きに生きろ。
以上。
剣もない。
魔法の杖もない。
伝説の武器もない。
せめて何か能力くらいくれてもよさそうなものだが。
「ステータス……とか?」
半信半疑で呟く。
すると目の前に、半透明の板が浮かび上がった。
――ステータス――
STR:12
VIT:10
AGI:11
INT:9
特殊スキル:なし
「…………普通だな」
何度見ても普通だった。
むしろINTが少し低い気さえする。
「異世界転生って、もっとこう……最強スキルとかあるんじゃないのか?」
何もない。
本当に何もない。
まあいい。
せっかく二度目の人生をもらったんだ。
無理して魔王を倒す必要もないだろう。
「適当に街を探して、適当に働いて、のんびり暮らすか」
そう決めた直後。
近くの茂みが、
ガサッ。
と揺れた。
しばらく茂みを見つめる。
何かいる。
「……動物か?」
できれば、そうであってほしい。
転生してまだ十分も経っていない。
さすがにもう戦闘は早い。
そう思った直後。
茂みから、小さな影が飛び出した。
緑色の肌。
尖った耳。
子どもくらいの背丈。
手には錆びた短剣。
「……ゴブリンだよな?」
一匹じゃなかった。
もう一匹、茂みから出てくる。
「いやいやいや」
カズキは一歩下がった。
「最初の敵がゴブリンって、王道すぎるだろ」
「ギギッ!」
当然、話は通じない。
二匹とも完全にやる気だ。
逃げるか。
戦うか。
「武器くらい用意しとけよな!」
周囲を見る。
剣なんてない。
あるのは石と草。
それから。
「……これなら」
足元に木の枝が落ちていた。
カズキはそれを拾った。
もちろん、頼りない。
少し太めの、ただの枝だ。
「学校帰りに遊んだ伝説の剣士ってか」
枝を構える。
ゴブリンたちも、じりじりと距離を詰めてきた。
「ギギッ!」
先に動いたのは一匹。
短剣を振り上げ、そのまま飛びかかってくる。
「うわっ!」
反射的に、枝を振った。
本当に軽く。
追い払うくらいのつもりだった。
次の瞬間。
ドンッ!!
空気が爆発した。
「……は?」
目の前にいたゴブリンが消えた。
もう一匹もいない。
それどころか。
ゴブリンたちの後ろにあった茂みも。
木も。
そのさらに奥まで。
一直線に、吹き飛んでいた。
地面には長い跡が残り、土煙がゆっくりと舞い上がっている。
カズキの足元だけは、不思議なくらい何ともない。
手にしていた木の枝は――
粉々になっていた。
「…………」
手を見る。
前を見る。
もう一度、手を見る。
「……え?」
しばらく固まったあと、カズキは小さく呟いた。
「異世界のゴブリンって……風船か?」
もちろん、そんなわけがない……よな?
たぶん……。
カズキはもう一度、吹き飛んだ森を見る。
一直線に木が消えている。
どう考えても、ゴブリンだけの問題じゃない。
「……いや、俺か?」
手のひらを見る。
特に変わったところはない。
ステータスも、さっき見た通りだった。
STR12。
普通。
少なくとも、森を吹き飛ばす数字には見えない。
「何か隠しスキルでもあるのか?」
もう一度ステータスを開く。
STR:12
VIT:10
AGI:11
INT:9
特殊スキル:なし
変化なし。
「分からん」
考えても答えは出そうになかった。
このままここにいても、爆音を聞きつけた別の魔物が寄ってくるかもしれない。
「とりあえず、ここから離れるか」
カズキは森の外へ向かって歩き出した。
武器もない。この世界のことも何も分からない。
まずは街道か街を見つけて、人に会わなければ。
「……頼むから、次は普通であってくれよ」
そんなカズキのささやかな願いは、数十分後にあっさりと打ち砕かれることになる。




