第二章 黒い肉の饗宴と這いずる狂気
【第二話 第二章 あらすじ】
神々による容赦なき精算の波が迫る中、舞台は陽の光すら届かぬ「地下三千メートルの暗黒」へ。
地上での凄惨な刈り取りを逃れ、暗闇の底へと生き延びた生き残りたち。 しかし、そこにいたのは生存を喜ぶ人間ではなく、膨張する欲望と復讐心によって変貌を遂げた「不気味な異形の大群」だった。
眠れる古生龍の肉を貪り喰らい、神々へ反逆するための狂気の宴を繰り広げる彼ら。 その血と肉が飛び散る地獄の最底層で、ただ一人、四つ足で異彩を放つ少女・ミナ。
血走った牙がミナの細い首を狙って襲いかかるとき、自我を捨て去った彼女の存在が巻き起こす「あまりにも異質な現象」とは——?
喰うか喰われるかの圧倒的狂気と、静寂の無が交錯する、息をのむ死闘が展開する!
同じ刻。かつて「東京」と呼ばれていた樹海の、地下三千メートル。
そこは陽の光など永遠に届かぬ、粘着質な不快な熱気と腐肉の匂いが充満する地獄の最底層であった。
「喰えぇぇぇッ! 喰って喰って喰い尽くせぇぇぇっ!!」
生臭い暗闇の中で、咆哮が響き渡る。
地表からの惨劇(刈り取り)を奇跡的に逃れ、地下深くの深層坑道へと逃げ延びた「混入者」たちの残党が、狂乱の宴を繰り広げていた。
彼らはもはや人間の姿を留めていなかった。
体長五メートルを超えるトカゲのように反り返った背骨、関節が逆方向に折れ曲がった不気味な四肢、そして背中からは黒く硬化した骨の棘が群生するように突き出している。
混入者たちの首領である巨躯の男——ガロウは、両手に握った岩石の破片で、目の前に露出した「巨木のような太さの赤く脈打つ肉の筋」を狂ったように叩き割り、そこから溢れ出る生温かい泥のような体液に顔をうずめていた。
その肉の筋こそ、数億年の眠りにつく超絶規模の古生龍の筋膜そのものであった。
「ヒヒッ……美味い……美味いぞぉっ! 地上の神どもは俺たちを『家畜』として刈り取ろうとしたが、この地の底の親玉の肉を喰えば、俺たちの体の中に龍の力が満ちていくんだよぉっ!」
ガロウの背中が劇的に隆起し、黒いウロコが皮膚を突き破って生え揃っていく。
龍の灼熱の血潮(溶岩成分を含んだ超高濃度の生体エネルギー)を直接貪り喰らうことで、彼らは神々の追撃すら返り討ちにする異形の怪物へと変貌を遂げていた。
「ガロウ様! 足元からまた『脈動』が来ます!」
手下の混入者が叫ぶ。
ドクン…………ドクン…………
地底の奥深くから、重い重低音の振動が突き上げてくる。
彼らが龍の筋膜を傷つけ、その肉を喰らうたびに、龍の体内で蠢く巨大な心臓が不快そうに身震いを起こしているのだ。
「構うな! もっと深く掘れ! 龍の心臓に達するまで喰い散らかせ!」
ガロウは唾液と血を撒き散らしながら醜く歪んだ顔で笑った。
彼らは知性を捨てきれず、むしろ「喰う」という圧倒的な欲望と、自分たちを追い詰めた世界への猛烈な復讐心によって正気を失っていた。彼らの目的は、龍の肉を貪り尽くして己が新たな「神」となること、そして龍を強制的に狂乱させて目覚めさせ、天上界ごとすべてを粉々に破壊することであった。
だが、その血と肉が飛び散る惨劇の空間のすぐ隣——龍の筋肉と骨が複雑に交差する「静寂の空洞」に、ひとつの影が佇んでいた。
四つ足で地に身を預ける少女、ミナ(20歳)であった。




