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第29話「蒼の王、紅の終焉」

王座中枢〈クラウン・コア〉が、蒼く輝いた。


白の塔全体を、光が駆け抜ける。


深紅に染まっていた導光線が、一瞬だけ蒼白へ塗り替えられた。

閉ざされていた回路が開き、眠っていた機構が次々と脈動を始める。


その中心で。


膝をついていた蒼き巨人――アーク・ギガントの中枢が、かつてないほど強く輝いた。


――王座中枢〈クラウン・コア〉接続。

――王統同調率、急速に上昇。

――王権兵装の限定使用が可能です。


次の瞬間、アーク・ギガントの全身を蒼白い光が包み込んだ。


砕けた装甲の隙間から、光の粒子が溢れる。

大破していた胸部装甲に、薄い光の膜が重なる。

機能を停止していた左腕にも蒼い粒子がまとわりつき、覆うように包み込んでいく。


どれも完全な修復ではない。

だが、斃れかけていた巨人が、再び立つには十分だった。


背部推進機構に光が集まる。

噴き上がる青白い光が、翼のように広がった。


アーク・ギガントの双眸が、深い蒼に輝く。


――王統覚醒形態、限定移行。

――出力制限、一時解除。

――同期を開始します。


「同期……?」


答えるより早く、視界が白く染まった。


流れ込んでくる。


記憶。


白い王城。

陽光の差す庭。

父の大きな手。

優しく微笑む母。

幼い自分を抱き上げる、金色の光。


『ノア』


その声を、知っている。


レオニス王。


父。


次に見えたのは、炎だった。


崩れる王都。

赤く染まる空。

叫び声。

走る人々。

暴走する機兵。


そして、紅い光を宿した巨大な影。

その前に立つ、白金の髪の機人。


アウレリウス。

彼は剣を持っていた。


だがその表情は、今ノアを見下ろしている冷たいものとは違っていた。


苦しげで。

悔しげで。

何かに抗うように歪んでいた。


「……この記憶は……」


ノアの胸に、疑問が生まれる。


本当に、彼は王国を裏切ったのか。

本当に、父を殺したのか。


その答えに触れる前に、記憶は千切れた。

深紅の光が視界を覆う。

アーク・ギガントの警告音が響く。


――精神同期、安定化。

――敵性皇帝級機兵、再起動反応上昇。


ノアは現実へ引き戻された。

目の前には、ヴァル・レガリア。


絶対的な力を持つ皇帝機兵。

その装甲を這う深紅の導光が、先ほどよりも激しく脈打っていた。


「……レオニス……王……」


かすかな声。

それは、今までの冷たい処刑者の声ではなかった。


その瞬間、ヴァル・レガリアの胸部中枢が、激しく深紅に脈打った。


アウレリウスの苦しげな声が響く。


「……っ……」


ぷつりと何かが途切れる音。

一瞬の静寂。


「…………王統の系譜は」


声が戻る。

冷たく、整いすぎた声。


「ここで、排除する」


再び向けられる、冷徹な言葉。

ノアは両手を握り締めた。


「今、一瞬何かが……?」


何が起きたのかは分からない。


けれど。


それまで完璧なまでの冷徹さを放っていたアウレリウスに、何らかの変化が起きかけていた。

いや、“何かが戻りかけていた”というべきか。


何かが、彼を縛っている。

何かが、彼の奥にある本当の声を押し潰している。


「……アーク」


――はい。


「止めよう」


――敵性機体の撃破を推奨。


「いや」


ノアは静かに言う。


「アウレリウスを、止めよう」


一瞬の沈黙。

そしてアーク・ギガントが答える。


――了解しました、ノア。


ヴァル・レガリアの背部王冠翼が全開する。

深紅の光刃が再び形成されていく。


数は先ほどより少ない。

だが、その一本一本に込められた力は、明らかに増していた。


塔の上層空間が軋む。

床が震え、白い柱に亀裂が走る。


アウレリウスが剣を掲げた。


「王の系譜に、終焉を」


紅い刃群が、一斉に降る。


ノアは逃げなかった。


「アーク!」


――防衛権限兵装〈アイギス・シェル〉。

――最大出力で展開。


左腕の円環状の紋章盾が開き、蒼白い光に包まれる。

無数の紅い光刃が衝突する。


轟音。

衝撃。


蒼い防壁が紅い刃を受け止め、弾き、散らしていく。


「いける……!」


ノアは踏み込む。


背部の光翼が大きく広がる。

アーク・ギガントの巨体が、蒼い流星となって突き進んだ。


ヴァル・レガリアが巨装剣を振るう。

アーク・ギガントが右腕の切断刃で受ける。

蒼と紅の光が絶え間なく爆ぜる。


一撃。

二撃。

三撃。


今まで圧倒されていた力が、拮抗する。

いや、少しずつ押し返している。


「うおおおおっ!」


ノアが叫ぶ。


アーク・ギガントの左腕がヴァル・レガリアの盾を掴み、右腕の刃を振り下ろす。

ヴァル・レガリアは盾で受け止めるが、衝撃で後退した。


白い床が砕ける。

アウレリウスの瞳がわずかに揺れる。


「……なぜ」


短い呟き。


「なぜ、立つ」


ノアは答える。


「ひとりじゃないからだ」


蒼い光が、さらに強くなる。


「ミリアがいる。アークがいる。守ってくれる人たちがいる。だから僕は立てる」


ヴァル・レガリアの中で、アウレリウスが一瞬だけ息を呑んだような気配がした。


けれど、すぐに冷たい声が響く。


「不要だ」


ヴァル・レガリアの中枢が、危険なほどに輝き出す。


アーク・ギガントが警告を発した。


――敵機炉心核に高密度反応。

――自壊を伴う最大出力攻撃の可能性。


「自壊……!?」


アウレリウスの声が響く。


「どれだけ仲間を得ようと、ここで王統は終わる」


ヴァル・レガリアの背部王冠翼が開く。


機兵の全身に深紅の亀裂が走る。

まるで機兵の体そのものが内側から裂けようとしているかのように。


下層のクラウン・コアから、ルナの声がかすかに届いた。


――ノア様。

――ヴァル・レガリア中枢炉心核に過負荷反応。

――このままでは塔上層ごと崩壊します。


ミリアの声も混じる。


「ノア! 止めて!」


ノアは歯を食いしばる。


止める。

殺すためではない。

終わらせるためでもない。


これ以上、縛らせないために。


「アーク、あの中枢を止められる?」


――王権兵装であれば、敵機中枢への一点突破が可能です。


「やろう」


――機体損耗率、危険域。

――成功率は――


「それでもやろう」


一拍。


アーク・ギガントは答えた。


――了解しました、ノア。


ノアが両の掌を広げて前に出し、残された全ての力を込めて握り込む。

蒼い光が、アーク・ギガントの右腕へと収束していく。


そこに、王座中枢から流れ込む蒼白い光が一点へ集まる。


――王権兵装、解放。

――掌部収束光打撃〈アーク・ディストレプター〉、使用可能。


ヴァル・レガリアが最大出力の紅光を解き放とうとする。

アーク・ギガントが踏み込む。


紅と蒼が、真正面からぶつかった。


轟音。


世界が白く弾ける。

ノアの視界が揺れる。


それでも、握り込んだ拳を下ろさない。


「届けえええええっ!!」


蒼き巨人の掌が、ヴァル・レガリアの胸部中枢へ押し込まれる。


深紅の装甲が砕ける。

黄金の紋様が裂ける。

黒い骨格が露出する。


そして。


蒼い光が、紅の中枢を貫いた。


静寂。


ヴァル・レガリアの王冠翼が、ゆっくりと崩れ落ちる。


巨装剣が手から滑り、白い床へ突き刺さる。

重装盾が砕け、深紅の導光が消えていく。


皇帝級機兵が、膝をついた。


胸部装甲が爆ぜ、操縦席が現れる。

その中でアウレリウスとヴァル・レガリアを繋ぐ接続光索が次々と断たれていった。


白金の髪が揺れる。

紅かった瞳から、濁った光が抜け落ちていく。


ほんの一瞬。

淡い蒼が戻った。


アウレリウスが、ノアを見た。


「……レオニス王は……」


掠れた声。


「最後まで……未来を……」


言葉は途切れる。


その直後、膝をついたヴァル・レガリアから炎が燃え盛り、爆炎に包まれた。

燃え盛る胸部から白い光の粒子が溢れ、細い光の筋が天に昇って行く。


ノアにはそれが、まるでアウレリウスの魂が天に昇っていくかのように見えた。


思わず手を伸ばす。

その行為に意味がないとわかっていても。


「アウレリウス!」


だが、届かない。

光はどこか遠い場所へ引かれるように、静かにほどけていった。


――王を……。


どこからともなく、静かな声が響く。

アウレリウスの最期の言葉は、風にほどけるように消えていった。


深紅の光が消える。

白の塔に、静寂が戻る。


「……終わった……の?」


ミリアの声が、遠くから聞こえた。

ノアは操縦席の中で、荒い息を吐く。


勝った。


ヴァル・レガリアを倒した。

アウレリウスを止めた。


けれど胸の奥には、勝利の高揚はなかった。

ただ、ひどく重いものが残っていた。


あの一瞬の蒼い瞳。

あの途切れた言葉。


アウレリウスは本当に、ただの敵だったのか。


答えはまだ出ない。


――その時。


白の塔の深層から、低い鼓動のような音が響いた。


どくん。


一度。

そして、もう一度。


王都全域の導光線が、一瞬だけ震える。

クラウン・コアの中で、ルナが顔を上げた。


『……深層封印領域に反応』


ミリアが振り返る。


「ルナ?」


ルナの表情から、先ほどまでの安堵が消えていた。


静かな警告音が、中枢空間に響く。


――深層統治人格、反応。

――識別名、全能統治人格〈ステラ・デルミナ〉。

――覚醒率、十二%。


ノアはその名を聞いた瞬間、胸の奥が冷たくなるのを感じた。


ステラ・デルミナ。


知らない名のはずだった。

けれど、記憶の奥底で、何かが微かに疼いた。


父の横顔。

アウレリウスの声。

そして、星を映す巨大な光の環。


それらが一瞬だけ浮かび、すぐに消える。


「……ステラ……デルミナ……」


ノアは呟いた。

答える者はいない。


その存在は、姿を見せない。

声もない。

何を望むのかも分からない。


ただ王都のさらに深い場所で、何かが眠りの中からこちらを見たような気がした。


王都は取り戻した。

紅の皇帝は沈黙した。


だが、すべてが終わったわけではない。

白の塔の奥底で、まだ名だけの影が息づいている。


ノアは、静かに顔を上げた。


王都アステリア。


始まりの地。

そしてその先に、まだ知らぬ戦いの種が眠っていた。


――第30話へ続く

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

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