第八話:アサシンの「価値」と、エルフの打算
大樹海ダンジョンの深層から帰還した俺は、宿の一室で自身の内面――「スキルツリー」と向き合っていた。
手元には、冒険者ギルドで得た報酬をすべてつぎ込んで買い占めた『スキルの書』がある。俺は迷わず使用し、蓄積されたSPを「既存スキルの強化」へと注ぎ込んだ。
(……まずは『幹』を太くしなきゃ話にならない)
【接ぎ木】という固有スキルは万能ではない。土台となる俺自身の「アサシン」としての実力――つまり『幹』が強くならなければ、接ぎ木した『枝』を支えきれず、その重荷で木そのものが折れてしまう。
さらに、接合された枝そのものをレベルアップして強くしなければ、その先にさらなる枝を接ぐことも叶わないのだ。
俺は、これまで獲得した「枝」を自分の肉体に馴染ませるべく、レベル上昇のログを脳内に響かせる。
『指定スキルのレベルが上昇しました』
【影の叡智】: Lv.4
【気脈の循環】: Lv.3
【気脈の咆哮】: Lv.3
【大地の拍動】: Lv.2
【春虫秋草の胞子】: Lv.2
「……よし。これで、より太い枝を接げる余裕ができた」
接ぎ木された他職のスキルは、習得した瞬間は細い小枝に過ぎない。だが、こうしてSPを注ぎ込み、俺という個体に同化させることで、初めて「本来の性能」を発揮し始めるのだ。
翌日、俺が再びギルドを訪れると、そこには異質な空気を纏った一人の女性が立っていた。透き通るような銀髪と、長く尖った耳。エルフの聖域から来たというセレナだ。彼女は俺を「不浄なアサシン」として軽蔑していたが、その瞳には切実な色が混じっていた。
「世界樹のお告げによると……あなたの『接ぎ木』という固有スキル。植物の性質を、別の個体に強引に定着させるものですね?」
彼女たちが守る世界樹は今、魔王軍が放った【共生型の呪毒】に侵されていた。
この呪いは、世界樹の血管そのものに化けて増殖するため、浄化魔法を使えば世界樹の生命力まで一緒に削り取ってしまう。エルフの聖魔法では手出しができない「詰み」の状態だった。
「呪いの枝を切り離せば、本体が枯れる。……でも、あなたのスキルなら、呪いの枝を切り離した瞬間に、別の生命力(魔獣の枝)を身代わりに繋いで、本体を延命させられるはずです」
彼女たちは俺を英雄として招いているのではない。エルフが忌み嫌う「汚れ仕事」を平然とこなす暗殺職であり、かつ「植物の理を捻じ曲げる異質な外科医」として、俺を利用しようとしているのだ。
「……いいだろう。依頼を受ける」
聖地への旅の間、俺は移動中もスキルを磨き続けた。
【大地の拍動】で大地から得られる豊富な魔力を使い、『春虫秋草』の胞子を何度も魔獣に試す。
「……よし、レベル上がったので得たSPでスキルレベルを上げないと。」
【春虫秋草の胞子:Lv.3】。
以前よりも胞子の浸透速度が上がり、魔獣を半植物化させた後の生存(操作)時間がわずかに延びた。
エルフたちは俺を「道具」として見ている。だが、彼らは知らない。俺にとってこの依頼は、世界樹という「神話級の台木」に触れ、呪いごと究極の『枝』を刈り取るための、絶好の機会であることを。
「待ってろよ、世界樹。あんたの呪いを剪定して、代わりに俺の『支配』を植え付けてやる」
俺は薄く笑い、翠色の障壁を纏いながら、聖なる森の奥深くへと足を進めた。




