第七話:一振り一殺のオートコンボ
「大樹海ダンジョン」から帰還した数日後。俺は再び冒険者ギルドの門を叩いた。
カウンターに無造作に放り出したのは、大量の魔石と、中ボスから剥ぎ取ったレア素材の山だ。
「お、おい……アサシン一人の稼ぎじゃねえぞ、これ……!」
以前、俺を「暗殺者のギルドへ行け」と追い払おうとした受付の男が、驚愕で声を震わせる。アサシンは魔獣相手には非効率――そんなこの世界の常識を、俺の「接ぎ木コンボ」は根底から破壊していた。
「報酬はすべて、この街の在庫にある『スキルの書』に換えてくれ。金なら足りるはずだ」
一冊で馬一匹が買えるほど高価な『スキルの書』を、俺はまとめ買いする。宿屋のベッドに座り、古の知恵が詰まった書物を紐解く。
今回俺が目をつけたのは、未就職の【魔法使い】のツリーにある特殊な「枝」だった。
『パッシブスキル【魔力共鳴】を接合しました』
このスキルは、自分の持つパッシブのうち、奥義以外の一つを指定してその効果を倍増させるという極めて戦略的な能力だ。
「……選ぶのはこれ一択だ。――【影の叡智】を指定」
『【影の叡智】をスロットにセット。効果が2倍に上昇します』
アサシンの基本スキル【影の叡智】。本来は「1回の攻撃が2ヒット」になるものだが、倍増したことで「1回の攻撃が4ヒット」へと跳ね上がった。
俺は動作を確認するため、街の外の演習場へと向かった。ターゲットの木像を前に、腰の短剣を抜く。
「ふっ!」
たった一度、短剣を横に薙ぐ。
直後、空中に四つの斬撃が同時に刻まれた。
そして、4ヒットごとに自動発動するモンクのパッシブ【気脈の咆哮】が、「たった一振りの動作」で条件を完全に満たし、爆発的な衝撃波を放出した。
(シュシュシュパッ、ドォォォォン!!)
一度振るだけで、斬撃の後に轟音と共に岩をも砕く衝撃が炸裂する。
アサシンの手数が、モンクの破壊力を100%引き出す「一振り一殺」のオートコンボ。
これまでの俺は、衝撃波を出すために二度振る必要があった。だが、今の俺は「ただの素振り」さえもが回避不能の必殺技へと昇華されている。
(……もし、この【魔力共鳴】を【春虫秋草の胞子】に適用していたらどうなっていたか)
ふと、そんな考えが脳裏をよぎる。胞子の増殖速度が2倍になれば、魔獣を数秒で苗床に変える壊れスキルになるだろう。だが、俺はあえてそれを選ばなかった。
理由は単純だ。胞子の強化は、あくまで「大地に足をつけた状態」での供給量に依存する。対して、短剣のヒット数増加は、場所を選ばず、敵を選ばず、俺の「暗殺者としての基本性能」を絶対的なものにするからだ。
「まずは、自分自身の『手』を最強にする。……絡め手は、その後の話だ」
俺は砕け散った木像を背に、静かに短剣を鞘に収めた。
不遇職と笑った連中が、この一振りに耐えられる道理など、もはやどこにも存在しない。




