第五話:姿なき捕食者(プレデター)
「アサシンは不意打ちの一撃こそが命。だが、一度攻撃すれば姿が露見し、脆弱な身を晒すことになる」
それが、この世界の学舎で教えられるアサシンの「限界」だ。
だが、俺に言わせれば、その常識こそが限界だった。
俺は今、大樹海ダンジョンの深層――人型魔獣「ハイ・オーク」の小隊が巡回する通路に潜んでいる。
ハイ・オークは高い防御力と集団連携を誇り、普通のアサシンなら一撃離脱を繰り返すしかない難敵だが、俺は短剣を抜くことすらしなかった。
「……まずは、【春虫秋草の胞子】展開」
俺は【隠密】を使う前に、あらかじめ翠色の胞子を周囲の空気へと漂わせた。
今の時点では俺の姿は見えているが、ここからが本番だ。
「次に――【隠密】。そして、【大地の拍動】(リチャージ)接続」
俺の体がスッと空気へ溶け込み、視覚的にも魔力的にも完全に消失する。
通常のシステムなら、ここで攻撃スキルを放てば即座に【隠密】は解ける。だが、この胞子はすでに『発動済み』の持続スキルだ。俺が今やっているのは、ただ隠れたまま、呼吸するように魔力を胞子へ送り込み続けているだけ。
(システム上、これは『能動的な攻撃アクション』じゃない。ただの状態維持だ……!)
「グ、ガ……ッ!? な、なんだ、この霧は!」
ハイ・オークたちが異変に気づいた時には、すでに遅い。
透明な俺が横を通り過ぎるだけで、無限の魔力(肥料)を注ぎ込まれた胞子が、猛烈な勢いで奴らの強靭な肉体へと根を張っていく。
剣を振る必要も、呪文を唱える必要もない。
俺はただ【隠密】を維持したまま、敵の群れの中を静かに歩くだけでいい。
俺が歩いた後には、断末魔を上げる間もなくHPを30%まで削られ、翠の蔓に全身を拘束された魔獣たちが立っていた。
彼らの瞳からは生気が消え、代わりに奇妙な翠の光が宿る。
『個体名:ハイ・オーク群。半植物化を確認。――全個体の制御権を掌握しました』
脳内に響くアナウンス。
俺が【隠密】を解いて姿を現すと、さっきまで俺を殺そうとしていた魔獣たちが、一斉に俺に向かって跪いた。
「よし……。一歩も動かず、一度も刃を汚さずに全個体を『配下』にできたな」
敵を殺し尽くすのではなく、生かしたまま「植物」として自分の支配下に書き換える。
これこそが、アサシンと接ぎ木の力を掛け合わせた俺だけの支配術だ。




