第四話:市場の「雑草」と外法の「接ぎ木」
しばらくダンジョン攻略を休んだ俺は、街の市場を散策していた。そこで俺の目に留まったのは、薬草屋の隅に安値で放置されていた、乾燥した植物の種子のような素材――『春虫秋草』だ。
「……待てよ。こいつ、前世の冬虫夏草に似ている……けど菌類ではなく植物だ。」
俺は【接ぎ木】の保有者として、無意識にその植物のポテンシャルを「鑑定」していた。
この世界の住人にとっては、ただの「虫に付く気味の悪い雑草」に過ぎない。だが、俺の目にはその背後にある「スキルの構造」が透けて見えた。
(スキル自体の説明は別にスキルの対象を限定していない。しかも維持系のスキル。なら単に『燃費が最悪』なだけで、一般植物自身の出力じゃ魔獣のHPを削りきる前に燃料切れを起こすから、虫にしか寄生できなかったん可能性がある。俺が無限の魔力を注ぎ込めば――こいつは魔獣を喰らう『死神の草』に化けるぞ)
もし、この仮説が正しいなら。
植物としての出力を、俺が外付けのエンジンとして肩代わりしてやれば……。
「……試す価値はある。【接ぎ木】発動。春虫秋草のスキルを、俺のアサシンツリーに接合」
『持続スキル【春虫秋草の胞子】を習得・接合しました』
俺は街の外へ出ると、検証を開始した。
鍵となるのは、世界樹のスキル【大地の拍動】だ。
接地している限り魔力と体力が超高速で回復し続けるこのスキルは、いわば「無限の魔力供給源」だ。俺は、胞子が魔獣の生命維持システムを乗っ取る「臨界点」に達するまで、大地から汲み上げた魔力をバイパスのように注ぎ込み続ける。
(ブワッ……!)
俺の掌から放たれた翠色の霧が、現れた大型魔獣「ブラッドコング」を包み込む。
(ガ、ア……ッ!?)
コングの悲鳴。胞子が肉体に根を張り、瞬く間に新芽が吹き出す。
(やはりな。通常ならここで増殖が止まるところだが、【大地の拍動】で魔力を注ぎ込み続ければ、胞子は枯れることなく相手の強靭なHPを食い破っていく……!)
俺が「肥料」を与え続けることで、弱小植物だった胞子は、猛烈な勢いでコングのバイタルを侵食。やがて、コングのHPが30%を切ったその時だった。
『個体名:ブラッドコング。HP30%以下を確認。――「半植物化」を完了しました』
脳内に響くアナウンスに、俺は確信を得た。
仮説は証明された。半植物化が完了した瞬間、侵食した胞子は魔獣の生命力そのものを「土壌」として掌握し、自立稼働を始めたのだ。もはや俺の魔力供給は必要ない。
「これで、お前は俺の【接ぎ木】の正式な『対象』だ」
俺は変わり果てたコングに手を触れる。本来、俺の固有スキルは植物からしか能力を奪えない。だが、強引に植物へ「書き換えて」しまえば、魔獣の力も「枝」として扱える。
『【接ぎ木】対象:半植物化ブラッドコング。パッシブスキル【剛力無双】を抽出・接合しました』
脳内でパキィィィィン!と快音が響く。
成功だ。魔獣の筋力増幅パッシブが、俺のアサシン・ツリーに直接繋がった。
「さて……仕上げだ」
俺は操作権を得たコングを敵の群れへと突っ込ませる。混乱する魔獣たちに向け、俺は短剣を二回振るった。
【影の叡智】で4ヒット。さらに【気脈の咆哮】が誘発される。
(ドォォォォン!!)
「気」の衝撃波が、コングの足元で怯む魔獣たちを粉砕した。
操作中の魔獣をデコイにして攪乱し、その隙に俺は次の獲物を探す。これが、俺が完成させた禁断のスキル獲得サイクルだ。
【大地の拍動】の超高速回復で、胞子が臨界に達するまで魔力を強制供給。
胞子が相手のHPを30%以下まで吸い尽くして「半植物化」させ、自立操作権を得る。
肉体が崩壊する前に【接ぎ木】を行い、有用なパッシブスキルを「永久に」奪う。
「不遇職だの呪われた職だの……。これほど自由に、世界を編集できる職業が他にあるか?」
俺は半植物化した魔獣が崩れ落ちるのを冷ややかに見つめ、新たな「枝」を求めて森の深淵へと足を進めた。
【現在のビルド:外法接合型アサシン】
・【影の叡智】(アサシン):1振りが2ヒット
・【気脈の循環】(モンク):全ステータス常時増幅
・【気脈の咆哮】(モンク):4ヒットごとに衝撃波発動
・【大地の拍動】(世界樹):魔力・体力超高速回復
・【春虫秋草の胞子】(植物):対象を半植物化(HP30%以下)し、能力を奪う
・【剛力無双】(魔獣):純粋な物理破壊力の底上げ




