第三話:世界樹を接ぐ者
「……さて、まずは軍資金と『枝』の調達だな」
実家を追放された俺が次に向かったのは、地表に巨大な垂直の穴が口を開ける「大樹海ダンジョン」だった。この迷宮の最下層には伝説の【世界樹】が鎮座していると言われ、各階層のボスからもその魔力を分けた『世界樹の枝』が稀にドロップするという。
エルフの聖地にも世界樹の本尊があるらしいが、今の実力で行くのは自殺行為だ。まずはこのダンジョンで実利を稼ぐのが定石だろう。
俺はダンジョン近郊の街へと入り、冒険者ギルドの門を叩いた。
だが、窓口にギルドカードを提示した瞬間、空気は一変した。
「職業は……『アサシン』? 悪いな坊主、うちは魔獣退治の真っ当なギルドだ。暗殺関連の依頼なら、裏通りの怪しい店でも当たってくれ」
受付の男は俺をゴミを見るような目で見つめ、鼻で笑った。
この世界においてアサシンは、魔王が人間同士を殺し合わせるために作った「対人専用職」と蔑まれている。魔物相手には非効率で、その職を持っているだけで犯罪者予備軍扱いされるのがこの世界の現実なのだ。
「……別に暗殺の依頼を探してるわけじゃない。普通にダンジョンへ潜るだけだ」
周囲の冷たい視線を無視し、俺は淡々と手続きを済ませてダンジョンへと向かった。
――大樹海ダンジョン一階層。
湿り気を帯びた空気の中に現れたのは、硬い外殻を持つ「アイアンビートル」の群れだ。普通のアサシンなら、細い短剣では殻に弾かれて詰む相手だが、俺には【接ぎ木】したモンクのパッシブがある。
「試してみるか」
俺は腰の短剣を抜いた。
その瞬間、モンクのパッシブ【気脈の循環】が発動し、全身を「気」の激流が駆け巡る。
本来、モンクはその絶大な力を得る代わりに、武器・防具を一切装備できないという厳しい制約を神から課せられている。だが、俺のメイン職業はあくまでアサシンだ。
「……アサシンの『軽めの防具と鋭い武器』を装備したまま、モンクの爆発的なステータス増幅だけを享受できる。まさにルールの穴だな」
一歩踏み込み、短剣を一振りする。
アサシンのパッシブ【影の叡智】により、一瞬で二つの火花が甲虫の殻に散る。さらにもう一振り――。
(ガキィィィン、ドォォォォン!!)
4ヒット目に到達した刹那、モンクのパッシブ【気脈の咆哮】が炸裂した。
短剣の鋭い斬撃に、大岩をも砕く「気」の衝撃波が上乗せされ、ビートルの硬い殻を内側から木っ端微塵に粉砕する。一撃で倒せぬなら、二振りで「必殺」を叩き込むだけ。それが俺のスタイルだ。
「最高だな。防御を固めたアサシンが、モンクの破壊力で暴れ回る。これこそ【接ぎ木】の真骨頂だ」
俺はそのまま止まることなく中層まで突き進み、行く手を阻む中ボス「トレント・ガーディアン」をも瞬殺した。バラバラに砕け散った木屑の中から、一つだけ淡く光る小枝が転がり落ちる。
「これか……『世界樹の枝』」
本来は市場で高値で取引される超レア素材だが、俺にとってはただの金目当ての道具ではない。これは「スキルの苗木」なのだ。
俺が小枝に手をかざすと、脳内のスキルツリーが歓喜するように共鳴を始めた。
『【接ぎ木】対象:世界樹の枝。パッシブスキル【大地の拍動】を抽出・接合します』
【大地の拍動】(世界樹):地面に足がついている限り、魔力と体力が超高速で自動回復する。
(ドクン、ドクン……!)
接合した瞬間、大地から吸い上げられた膨大なエネルギーが足の裏から全身へと供給され始めた。これでもう、魔力切れもスタミナ切れも恐れる必要はない。
「手数」のアサシン、「増幅」のモンク、そして「無限リソース」の世界樹。
相性最悪と言われた不遇職は、今や神の設計図を超越した「究極の個体」へと進化しつつあった。
「……次は、どの枝を繋ごうか」
俺は溢れる魔力を感じながら、さらに深く、暗い迷宮の深淵を見据えた。
【現在のビルド:無限供給型アサシン】
・【影の叡智】(アサシン):1振りが2ヒット
・【気脈の循環】(モンク):全ステータス常時増幅
・【気脈の咆哮】(モンク):4ヒットごとに衝撃波発動
・【大地の拍動】(世界樹):接地中の魔力・体力超高速回復【NEW】
⇒ コンボ:武器を2回振るだけで必殺衝撃波が確定発動。消費したスタミナと魔力は大地から即座に補填される。




