第二話:自動で噛み合う最強のパッシブ
森へ追放されて数刻。俺の前に、この界隈の主とも言える巨大な魔獣「アイアンボア」が立ち塞がった。全身を硬質な鋼の体毛で覆った、まさに動く鉄塊。通常の暗殺者なら、刃が通らずに踏み潰されて終わる相手だ。
だが、今の俺は無力なアサシンではない。
「試運転には丁度いい……。来いよ、鉄の豚」
咆哮と共に突進してくるアイアンボア。俺は回避すら必要ないと判断し、無造作に右手の短剣を振るった。
(シュパッ、シュパッ!)
軽やかな斬撃音が二度、夜の森に響く。
これこそがアサシンのパッシブスキル【影の叡智】の効果だ。「一回の攻撃につき、自動的に二度のヒット判定を発生させる」という、手数を倍化させる能力。
一振りで二回、二振りすれば計四回。本来は非力なアサシンが少しでもダメージを稼ぐためのスキルだが、俺がモンクから奪い取った「枝」と組み合わさることで、それは凶悪な化学反応を引き起こす。
(ドォォォォン!!)
短剣を二回振った直後、アイアンボアの巨体が内側から爆発したように弾け飛んだ。
鋼の毛皮など紙切れ同然。致命的な衝撃波が魔獣の五臓六腑を粉砕したのだ。
「……計算通りだ。一回振るだけで2ヒット、二回振れば『気脈の咆哮』が確定で発動する」
モンクのパッシブ【気脈の咆哮】は、4ヒットごとに「気」による追加の大ダメージを自動発生させる。本来、武器を持てないモンクが苦労して手数を稼いでようやく発動する奥義だ。
だが、アサシンの【影の叡智】という加速装置を通せば、短剣をたった二回振るだけで、その必殺条件が100%満たされてしまう。
アサシンの「手数」と、モンクの「増幅」。
すべてがオートマチックに連鎖し、ただの基本攻撃が「回避不能の必殺技」へと変貌を遂げていた。
【レベルが上昇しました。SPを獲得。】
脳内に響くファンファーレ。俺は死体の傍らで、懐から大切に保管していた一冊の古びた本を取り出した。
これは、俺が幼い頃に亡くなった母の形見だ。「いつかあなたが道に迷ったとき、きっと助けになるから」と遺された、バルトフェルト家でも限られた者しかその存在を知らない秘蔵の書。
「……見ててくれ母さん。俺は、俺のやり方で強くなる」
それは『スキルの書』。
一冊で馬一匹買えると言われるほどの高価なマジックアイテムだ。通常の人間が使えば、自分の職業のスキルレベルを微増させる程度のものだが、俺にとっては意味が違う。
この書物は、レベルアップ以外でSPを獲得できる唯一の手段。つまり、金さえあれば、俺のスキルツリーを強化し、【接ぎ木】できる「枝」のスロットを際限なく増やせるということだ。
俺は迷わず書物を使用し、溢れ出すSPを【接ぎ木】の拡張へと注ぎ込む。
「このSPで、次はどの枝を接ごうか……」
俺の視線の先には、月光を浴びて淡く輝く『世界樹の枝』があった。
エルフの聖地から流れ着いたとされる霊木。本来なら崇拝の対象であり、誰も傷つけることなど考えもしない。
だが、【接ぎ木】という名の通り、俺はこの固有スキルで「植物」からも能力を貰える。
(世界樹の生命力、そして魔力の超回復……。それをこのアサシンのツリーに挿し込んだら、俺は文字通り『不死の暗殺者』になれるはずだ)
バルトフェルト家が誇る騎士道?
一人一職という神のルール?
そんなものは、俺という巨大な「キメラの大樹」を育てるための肥料に過ぎない。
「面白くなってきた。……世界中から最強の枝をかき集めて、俺だけの究極のツリーを完成させてやる」
俺は砕け散ったアイアンボアを一瞥もせず、次なる獲物——そして次なる「枝」を求めて、森の深淵へと足を踏み出した。
【現在のビルド:自動連鎖型アサシン】
・【影の叡智】(アサシン):1振りが2ヒット
・【気脈の循環】(モンク):全ステータス常時増幅
・【気脈の咆哮】(モンク):4ヒットごとに大ダメージ
⇒ コンボ:短剣2振りが、絶大な衝撃波へと自動変換される。




