第十八話:影の要塞、蹂耙(じゅうりん)の園
「……伏せろ、セレナ!」
カイルの声が響くと同時、隠れ家を真空の刃が切り裂いた。
現れたのは、全身を銀の隠密装束で包んだ王国騎士団所属の暗殺部隊「木漏れ日の影」。彼らは「魔力感知」だけではなく、「気配」を消す技術にも長けた古参の斥候だ。
「――団長の懸念通り、生かしておくには惜しい才能を身につけたようだな、カイル」
リーダー格の男は、カイルを蔑むように吐き捨てた。
「貴様を殺せば、団長直々の推薦により、我ら暗殺部隊もやっと王国直属として認められる。これ以上、騎士の連中に日陰者扱いされずに済むのだ。……悪く思うなよ。」
カイルは動じない。淡々と、要塞樹の主幹に触れ、内蔵された【無尽蔵の光源】から溢れる魔力に狙いを定めた。
「……【常闇の胞子】を発動」
要塞樹自らが生成する膨大な魔力を餌に、黒い胞子が繁殖し始めた。カイルはあえて剣を抜かず、男の言葉を受け流すように口を開く。
「……やつがそんな言葉を。なるほど、君たちのその浅ましい功名心が、僕を殺すための信管というわけか。だが、残念だったな。やつは約束果たすつもりなどない。最初から、ここで僕に殺されることも計算に入れている。失敗すればそれまで、成功すれば目障りな次男が消える。どちらに転んでも、彼は手を汚さずに済むんだから」
「黙れ! 貴様に何がわかる!」
逆上した男が地を蹴る。だが、カイルは冷徹な眼差しで、宙を舞う胞子の密度が「臨界」に達したのを確認した。
「……胞子の数が揃った。ではまたいつか。」
「――【等価共有】、発動」
『配下(胞子)の全ステータス20%を本体へ集約。』
「――『影傀儡』、要塞樹に向けて発動」
カイルの指先が動き出すと同時に、鋼鉄樫の隙間に接ぎ木された「絞め殺しの茨」が、爆圧と共に解き放たれた。
「なっ……がはっ!?」
暗殺者たちは、自分がなぜ死ぬのかも理解できなかった。カイルとの会話に意識を割いている間に、鋼鉄樫の隙間から飛び出す影を纏った茨。要塞樹に蓄えられた膨大なエネルギーを食肉植物の繊維が一気に消費して放つ。
要塞樹はただの木じゃない。外殻は鋼鉄樫だが、その節々には、獲物の振動に反応して爆速で収縮する『食肉植物』の導管を接ぎ木してある。地面から伝わる震動は、彼らにとっては極上の餌の合図だ。もっともそれは操られていない時の話……
暗殺者が放った刃は鋼鉄樫の樹皮に弾かれる。カイルは本体のスピードを活かし、【飛び影】で胞子から胞子へ転移。要塞樹が「重機」のように敵を拘束・圧殺する合間を縫い、回避に専念する敵の喉笛を、カイル自身の短剣が最小限の力で確実に断ち切っていく。
わずか数分。要塞樹の圧倒的な質量による蹂躙と、カイルの精密な「剪定(暗殺)」の組み合わせにより、王国の精鋭たちは成す術なく森の土へと還された。




