第十七話:共生(シンビオーシス)の調律
隠れ家の外では、大樹海特有の夜霧が深く立ち込めていた。
カイルは、セレナから没収した「促成肥料」の小瓶を焚き火に投げ込んだ。青白い炎が上がり、彼女を縛っていた偽りの希望が灰へと変わっていく。
「これからどうするつもり? 肥料がなければ、私は遠からず内側から弾け飛ぶわ」
セレナの声には、もはや怯えはなかった。カイルは淡々と、手入れの行き届いた短剣を鞘に収めながら答えた。
「毒で誤魔化すのは終わりだ。これから、君の『核』を直接メンテナンスする。……セレナ、この壁に手を置け」
カイルが指し示したのは、隠れ家の壁――否、「防衛植物:要塞樹」の主幹だった。
この拠点は、鉄の硬度を持つ「鋼鉄樫」をベースに、絞め殺しの茨を接ぎ木して構築した植物だ。
「……君の植物の核にあるのは、スキル【無尽蔵の光源】か。……しかも、二つの核を無理やり一つに癒着させてある。だから一個しかないはずのスキルが二重に存在し、暴走しているんだ。必要以上に、君の器を焼き切るほどの魔力を生成するためにね」
「二重……? 私、そんなこと……。一つに繋がっているようにしか、感じなかったわ……」
「植物の性質を悪用したんだろう。だが、癒着面には必ず『境目』がある。セレナ、君を殺そうとしているその余分な核……僕が『剪定』させてもらう」
カイルは固有スキル【接ぎ木】を発動し、彼女の首元に掌を当てた。
カイルの意識が、彼女の体内で不自然に絡み合った「二つの核」の境界線を捉える。カイルはその癒着した『継ぎ目』を、精神的なメスで鮮やかに切り離した。
「……っ、あああああッ!?」
セレナの絶叫と共に、強引に引き剥がされた「片方の核」を溢れ出し膨大な魔力とともにカイルの手を通じ、拠点の中心核である要塞樹へと流し込まれた。
カイルは間髪入れず、奪い取ったその「もう一つの核」を要塞樹の深部へと接ぎ木する。
拠点が眩い極光を放ち、周囲の防衛茨がセレナの魔力を受けて白銀の硬度へと変質していく。
「……ハァ、ハァ、……胸の疼きが、消えた……?」
「癒着を解いて、一つを拠点に移植したからな。……だが、初めて人間から核を丸ごと間引いたんだ。後続の状態が気になる。今日から毎日、しばらく僕が君の状態を観察する」
カイルは、要塞樹が「セレナから奪った核」を永久機関として自律稼働させ始めたことを確認した。
「観察? 貴様、私を実験台にするつもり?」
「実験台ではなく、僕のスキルのさらなる可能性の探求だ。不本意だろうが、僕の許可なく倒れることも、勝手に死ぬことも許さない」
カイルの瞳に宿るのは、慈悲ではなく、未知の可能性に対する「技術者としての執着」だった。セレナはふっと、本日初めての心からの笑みをこぼした。
「……相変わらず、可愛げのない男ね。」
【無尽蔵の光源】:周囲の魔素や日光、さらには自身の生命力を触媒として、理論上無限に近い魔力を生成し続ける。




