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外道アサシンのスキル接合無双  作者: 曇りクモ


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第十六話:不協和音の共鳴

【深淵の亡霊アビス・レイス】を討伐した直後、セレナは膝をつき、激しい喘鳴ぜんめいと共に自身の左腕を強く抑えていた。その指先からは、制御しきれない白い火花――高純度の魔力がパチパチと漏れ出し、周囲の草木を無差別に焦がしている。

 カイルは無言で歩み寄り、自身の掌に【常闇の胞子】を纏わせて彼女の肩に置いた。

「なっ……何をするの、貴様!」

「動くな。君の魔力密度が高すぎて、身体が内側から焼けている。僕の胞子で魔力を吸い出す。……無駄なエネルギーを捨てるのは、僕の主義ポリシーに反するんでね」

 カイルが胞子を介して過剰な魔力を整理させると、セレナの荒い呼吸が次第に整い、肌を焼く痛みが引いていく。同時に彼の脳内に「植物」としての彼女の図面が流れ込んできた。

「……バカな。セレナ、君の心臓……いや、左胸の深部にあるのは『植物の核』か」

 セレナは目を見開き、戦慄した。公爵家の中でも当主と数人の術者しか知らないはずの最高機密を、この男は触れただけで暴いたのだ。

「……な、なぜそれを。そうよ、私はヴァランティーヌの血を土壌にして植え付けられた、人型の温室。その『第三の心臓』が吸い上げる膨大な魔力が、私の人間としての器を焼き切ろうとしているの。父様から手渡されたこの『抑制剤』を数日おきに飲まなければ、私は臨界を迎えてしまうことに……」

「なるほど。植物の生存本能を魔力増幅器として利用したわけか。……だが、君が持っているその『抑制剤』。今すぐ見せてみろ」

 カイルの鋭い指摘に、セレナは怪訝な顔をしながらも、首から下げた精巧な銀の小瓶を差し出した。

 カイルは小瓶を奪い取ると、足元に生えていた雑草にその液を一滴垂らした。

 次の瞬間、雑草は異常な速度で膨れ上がり、数秒で一メートルを超える巨木へと変貌したかと思うと、自身の成長速度に細胞が耐えきれず、ドロドロに腐り落ちて自壊した。

「……あ……」

「抑制剤? 冗談はやめてくれ。これは核を無理やり活性化させる『促成肥料』だ。君の父親は、君を助けるつもりなんて微塵もない。君が神樹の雫に辿り着き、希望を抱いたその瞬間に……最大火力で自爆するように設計された導火線を握らせたんだよ」

 目の前で起きた植物の末路は、セレナが最近感じている「身体が内側から壊れていく感覚」と酷似していた。彼女の左腕には、血管ではない翠色の導管が、樹木の根のように浮かび上がっている。

「公爵家の狙いは、君の自爆でこの階層の『魔力結界』を破壊し、その後十年の安全な採掘利権を得ることだ。そのために、わざわざ『出来損ない』の僕を婿という名の証人(生贄)に選んだ。……双方にとって完璧なウインウインだよ」

「……なぜ貴様が、我が家の『採掘拠点』の計画まで知っているの?」

 セレナの問いに、カイルは絶縁した父――王国騎士団長から奪い取った、血の跡が残る書簡を突きつけた。

「父を叩きのめした際に奪った王室軍機密だ。そこには、君の輿入れと引き換えに、騎士団が大樹海の『第四層・特定エリア』に駐屯地を築く計画が記されていた」

「駐屯地……? あそこは魔物の巣窟で、維持なんて不可能よ」

「ああ、今のままならな。だが、この書簡には『特定座標における極大魔力の放出後、周辺の魔素供給が120ヶ月停止する』という予測データが添えられていた。……君という『爆弾』の爆発規模と、その後の魔物発生停止期間。すべて計算済みだったんだよ」

 カイルは書簡を見せたあと焚き火に投げ込んだ。

「実家の騎士団長にとっても、邪魔な次男を始末して、爆発後の採掘利権を公爵家から分けてもらえる……これを読んだ時、反吐が出たよ」

 沈黙が、重く隠れ家を支配した。セレナは父の慈愛に満ちた表情を思い出し、それを目の前の腐り落ちた草の残骸と重ね合わせた。自分が「救い」だと信じていた薬が、自分を最も効率的な場所で爆発させるための肥料だった。

「……あ、あはは。そう、そうなのね。父様は、私が無様に逃げ出さないように、確実に爆発するまで私を『生かして』おきたかったわけだわ……」

 彼女の瞳から光が消え、代わりに底知れない屈辱と、殺意が灯る。

「……勝手な話だ。僕は他人の計画通りにされるのは嫌いでね」

 カイルは小瓶を彼女に返し、淡々と繋いだ。

「カイル……一つだけ約束しなさい。もし私が魔力に呑まれて壊れそうになったら、その時は貴様が……その気味の悪い草で、私を絞め殺して。他人に利用されて爆発するぐらいなら、貴様殺されるのはまだマシだわ」

「……善処しよう。だが、君を殺すのは、君からすべての価値を収穫した後だ」

「相変わらず、可愛げのない男ね。……ふふ」

 セレナは膝を抱えて目を閉じた。互いに世界から「廃棄」されたことを確認し合ったその夜、二人の間に流れる空気は、確かに寄り添うような「重奏」へと変わり始めていた。

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