第72話 え、パパが勇者!? 暗いからって爆破はマズいですよ!? 弟子の「照明用ファイアボール」で洞窟ごと埋められたー!?
一行はコボルトの巣とされる洞窟の前に立っていた。
ひんやりとした静寂が漂う入り口を前に、亮が拳を突き出す。
亮「ここかー。よし、いざ突入ー!」
あんな「……そのテンションが一番不安なんだけど」
みゆ「号令係、復活」
あんな「定番は嫌な予感しかしない」
ベアトリス「師匠たちについて行きますわ!」
もっふる「ピィー!」
洞窟の中は、外とは打って変わって真っ暗だった。
あんな「うわ……真っ暗だね」
みゆ「罠に注意」
亮「明かりが欲しいなぁ」
ベアトリス「任せてください!」
あんな「えっ、ちょっと待っ――」
みゆ「待った」
ベアトリス「《燃え盛る火球よ、我が敵を討て――ファイアボール》!」
ドォォン!!
ベアトリスの放った火球は、明かりどころか天井に直撃した。
轟音と共に天井が崩れ、大量の土砂が通路を塞いでしまう。
ガラガラガラッ!!
亮「通路が……塞がった……」
あんな「ベアトリスちゃん、先走らないでね……!」
ベアトリス「す、すみませんですわ……! 明かりにしようと思ってですわ……」
みゆ「パパより天然。ある種、才能を感じます」
亮「いやいや、一生懸命やった結果だよ! やる気があるのは素晴らしいことだぞ!」
あんな「そうなんだけどね……あ、この甘やかし方、パパだわ」
みゆ「パパだね」
もっふる「ピィー♪」
ベアトリス「これ……どうします? もう一回燃やして爆破しますか?」
あんな「待って!!余計に埋まるから!」
みゆ「任せて」
みゆは崩れた土砂にそっと手をかざす。
みゆ「《アース・アシミレーション》(大地同化)」
崩れた土や石が、振動も音もなく、
まるで地面に吸い込まれるように沈んでいく。
あんな「……すご……」
みゆ「通れるよ」
ベアトリス「さすがみゆ師匠! どうやったんですか? 今度教えてください!」
みゆ「別にいいけど、師匠ではない」
道が開けた瞬間、奥から十体ほどのコボルトが姿を現した。
あんな「来たよ!」
ベアトリス「私、行きますわ!」
あんな「今度は大丈夫だよね?」
みゆ「……」
もっふる「ピィー?」
ベアトリスは剣を振りかざし、コボルトへ踏み込んだ――が。
カキィーン!
後ろから金属音が響いた。
鋭い衝撃が腕に伝わり、盾がわずかにしなる。
亮「うおっ!? あっぶな……!」
亮の目の前、地面にベアトリスの剣が転がっていた。
ベアトリス「ごめんなさい、ごめんなさい」
みゆは無言で剣を拾い上げ、刃を軽く指で弾いた。
みゆ「……まだ力の入りすぎ」
あんな「パパ! その盾は?」
亮「ダンジョンで手に入れた盾!」
みゆ「ナイス」
亮「ふふふ、備えあれば憂いなし! 勇者とは用心深さだよ!」
あんな「たまたま」
みゆ「そう、たまたま」
ベアトリス「さすがですわ……勉強になりますわ!」
亮「そうだろーそうだろー!」
そんなやりとりをよそに、コボルトたちは余裕の表情でこちらを見ていた。
みゆ「ベアトリスちゃん、遠慮はいらない。火の魔法を」
ベアトリス「いいんですか?」
みゆ「大丈夫」
ベアトリス「分かりましたわ!《燃え盛る火球よ、我が敵を討て――ファイアボール!!》
ドォン!!
ぎゃーー!!
特大の火球がコボルトの群れに直撃し、次々と引火して燃え尽きていく。
亮「おおー! すごい!!」
ベアトリス「ありがとうございます♪」
もっふる「ピィー!」
あんな「みゆ、何かしたでしょ?」
みゆ「内緒。これで少しは自信がついたと思う」
あんな「……優しいね、あんたも」
さらに奥へ進むと、少し広めの広間に出た。
周囲には松明が灯され、先ほどより明るい。
そして――
そこには十体以上のコボルトが待ち構えていた。
あんな「今度は任せて。ベアトリスちゃん、剣で行くよ」
ベアトリス「はいですわ!」
あんな「その前に……おまじない!」
あんなはベアトリスの剣を握る手を、そっと両手で包み込んだ。
あんな「大丈夫だよ」
その一言で、ベアトリスの肩から余計な力が抜けていく。
ベアトリス「……はいですわ!」
あんな「行くよ!」
ベアトリス「はいっ!」
ベアトリスはまるで覚醒したかのように、
次々とコボルトを切り伏せていく。
あんな「ラスト、ベアトリスちゃん!」
ベアトリス「はいですわ!」
みゆ「完璧」
三人は顔を見合わせ、晴れやかな顔で手を合わせた。
あんな&みゆ&ベアトリス「イェーイ!」
亮「パパの出番は?」
あんな「さっき盾で防いだじゃない」
みゆ「……号令係」
もっふる「ピィー!」
任務を終え、ギルドで報告を済ませた後、
宿屋で夕食を囲んだ。
あんな「ねぇ、みゆ。あの時、何したの?」
みゆ「ちょっと結界を張っただけ」
あんな「あの一瞬で!?」
みゆ「うん。火力が強いから、広がらないようにコボルトを中心に」
あんな「だから次々と燃えたんだ……!」
亮「ん? どうした?」
あんな「何でもなーい! ほらパパ、お肉冷めるよ!」
みゆ「です」
もっふる「ピィ♪」
――こうして、
ベアトリスの初任務は、誤爆と覚醒が入り混じる波乱の幕開けとなった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
ますます賑やかに加速していく――。
商人ギルドで莫大な利権をあっさり放棄!?
温泉の権利より「永久無料」を取るパパの規格外すぎる無欲さが炸裂!
さらに領主の娘まで「娘」に認定し、まさかの「美人三姉妹」が爆誕!?
次回、第73話 え、パパが勇者!? 神崎家に新たな家族が加入!? 「美人三姉妹」爆誕で、あんなとみゆのツッコミが追いつかないー!?
パパの親バカが加速して、家族の絆(と騒ぎ)はさらなる高みへ!




