第69話 え、パパが勇者!? 契約書より「自分に嘘つかない」理論で商業都市のルールを書き換えたー!?
到着してまだ日も浅い神崎家ともっふるは、まず街の様子を掴もうと、市場を歩いていた。
亮「うわぁ〜、活気あるなぁ! 王都とも全然違う感じだな」
あんな「そうだね。商業都市って感じがする。パパ、迷子にならないでよ?」
亮「大丈夫! 今日はちゃんとついていくから!」
みゆ「その言葉、三回は聞いた気がするけど」
もっふる「ピィ♪」
のんびり歩いていると、果物の山の脇で、人の声が鋭くなっているのが聞こえた。
二人の商人が向かい合い、互いに一歩も引かない様子だ。
片方は「約束した量を渡したはずだ」
もう片方は「そんな話は聞いてない」と譲らない。
口約束が原因らしく、周囲の人々も遠巻きに様子を窺うだけで、誰も間に入ろうとしない。
亮は荷物を抱えたまま、素直に足を止めた。
亮「へぇ、大変そうだな」
あんな「……関係ないよね、私たち」
もっふる「ピィ……」
なのに、なぜか周囲の視線が神崎家に集まる。
あんなとみゆは同時に目を合わせた。
みゆ「巻き込まれ率、100%」
商人たちの目が、期待するように、こちらへ向いた。
一人の商人が、助けを求めるように近づいてきた。
亮「え、うち関係あるの……? まあ、手伝えることなら」
亮は二人の間に割って入り、穏やかに双方の言い分を聞いた。
焦る様子も、裁くような顔もなく、ただ真剣に耳を傾けている。
「先に言ったはずだ」
「そんな金額は聞いてない」
どちらも譲らない。
亮「うーん、どっちが正しいかは分からないよ」
商人たち「?」
亮「でもさ、どっちかが相手の為じゃなくて、自分のために誤魔化してない? それって、自分に嘘をつく事だよね。儲けより先に、自分の心がチクチクしてないかな。それって、せっかくの商売が楽しくなくなっちゃうと思うんだよな」
言葉が、市場の空気に静かに染み込んでいく。
集まっていた人々も、いつの間にか息を呑んで聞き入っていた。
亮「俺はさ、契約書は大事だと思う。けど、人としての信用はもっと大事だと思うんだよな。自分を裏切ってまで手に入れた金って、重たいだけじゃない?」
市場全体が水を打ったように静まり返り――その直後、
割れんばかりの拍手が沸き起こり、人々が感銘を受けたように頷き合った。
「自分に嘘をつかない……。なんと深い商人の真理だ」
「この御方、ただ者ではないぞ……!」
あんな「来て早々また目立ってる……」
みゆ「パパは、パパだから」
もっふる「ピィー♪」
亮は照れくさそうに呟いた。
亮「そんな大したこと言ったつもりないんだけどな」
揉めていた二人は、互いに顔を見合わせ、少し気まずそうに頭を下げた。
「……自分に嘘、か。へっ、損得ばかり考えて、商人の魂を忘れるところだったぜ」
話し合いで決めることになり、
亮「よかったよかった。じゃあ、俺たちはこれで」
家族は荷物を抱えて歩き出す。
背後で、まだ拍手がぱらぱらと続いていた。
通りがかりの人たちが振り返り、温かそうな目で見ている。
亮「やっぱりいい街だな。みんな話せば分かる人ばかりだ」
あんな「……来て初日からやらかしてるんだけど」
みゆ「まだ街を一周もしてないのに」
もっふる「ピィ♪」
だが、市場の端で、一人の男がじっと神崎家を見つめていた。
笑顔ではなく、ただ静かに、値踏みするような目で。
その視線は、誰にも気づかれず、家族の背中に刺さるように残った。
こうして――
曖昧な契約の揉め事に触れ、神崎家は街の信用の重さを少しだけ知った。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
また静かに波紋を広げていく――!
領主の館への招待でスローライフ終了の危機!?
温泉の利権をあっさり捨てたパパが、領主の娘を「弟子」として即決受け入れ!
「親バカ」全開の暴走に、あんなとみゆの師匠生活が強制スタート!?
次回、第70話 え、パパが勇者!? 温泉の権利より「親バカ」優先!?
パパの安請け合いが、神崎家に新たな嵐を巻き起こす!




