第67話 え、パパが勇者!? 領主様が勝手に大混乱!? ただの温泉掘りが国家級の隠密作戦に誤解されたー!?
グラーディオ領主館。
執務室の窓からは、商業都市特有のざわめきが、遠く低く響いていた。
重厚な机の前に立つ男は、その報告書から視線を上げ、ゆっくりと息を吐いた。
セルディオ・グラーディオ。
王国第三の都市グラーディオを治める領主であり、グラーディオ家当主。
彼の前には、いくつもの簡潔な報告が並んでいる。
「……水源を"掘り当てた"?」
「しかも、温泉……?」
低く、独り言のように呟く。
⸻
ミルナ村。
長く干ばつに悩まされていた小さな村。
そこに現れた"旅の一行"が、半日もかからず水を確保し、結果として、温泉まで湧出したという。
セルディオは眉をひそめた。
「魔術師団の介入記録は?」
「ありません」
「王国騎士団は?」
「不在です」
報告は、淡々としている。
だからこそ、異常だった。
「では……何者か?」
「はい、冒険者です。登録は、Fランク。神崎亮と記されています」
――Fランク。
その文字を、セルディオは指でなぞるように見つめた。
「……Fランク、か」
⸻
商業都市において、情報は価値だ。
価値ある情報ほど、速く、正確に集まる。
そして、すでに動いている。
「温泉の話を聞きつけ、商人たちが接触を始めています」
「……早いな」
セルディオは、窓の外へと視線を向けた。
商人たちが動く理由は、単純だ。
水。温泉。それは、金になる。
だが――。
「掘っただけで、水と温泉が出るなど……偶然で済ませられる話ではない」
彼は、椅子に深く腰を下ろし、両手を組んだ。
Fランク。
家族連れ。
旅の途中。
にもかかわらず、王都での記録、大会での動き、そして今回の"結果"。
それらが、一本の線で繋がっていく。
「……なるほど」
セルディオの口元に、わずかに苦笑が浮かんだ。
「力を誇示しない」
「立場を求めない」
「功績を管理しない」
――あえて、だ。
「……神崎殿」
静かに、名を呼ぶ。
「Fランクに身を置きながら、世界に歪みを生まぬよう、均衡を保っている……」
誰に聞かせるでもなく、彼は、そう結論づけた。
「聖人、か」
⸻
重い沈黙が、執務室を満たす。
商人は、金を見る。
貴族は、力を見る。
だが、セルディオは――意図を見てしまった。
「……厄介な方が、この都市に足を踏み入れたものだ」
しかし、その表情は険しくない。
むしろ、どこか敬意すら滲んでいた。
「グラーディオ家としては……静観、だな」
書類をまとめ、机に置く。
神崎亮。
その名は、まだ表に出ていない。
だが確実に、この商業都市グラーディオの歯車の一部に――知らぬ間に組み込まれつつあった。
セルディオは、最後にもう一度だけ呟いた。
「……何者だ、本当に」
その問いに答える者は、この部屋にはいなかった。
――そして、その空のさらに清らかなる場所。
女神は、穏やかな微笑みを浮かべていた。
ふふ……あの家族は、本当に退屈という言葉を知らないのですね。
王都での慌ただしい日々を離れ、ただ平穏を求めて歩き出したはずの旅路。
けれど、彼らが一歩踏み出すたびに、世界は知らぬ間に救いの光で満たされていくのです。
懐かしい村での再会を喜び、隣村の困りごとを「ついで」のように解決してしまう無自覚な優しさ。
最強の力を持ちながら、今回はその力に頼ることなく、ただ誰かの力になりたいという純粋な想いだけで、枯れ果てた大地に清らかな泉を呼び込みました。
たとえ剣を振るわずとも、その真っ直ぐな心が人々を救い、乾いた心を潤していく……。
「勇者」としての真価は、力そのものではなく、その歩みの先に生まれる笑顔にこそ宿るものなのでしょう。
彼らが残した温かな足跡は、今や都市の賢者たちをも動かし始めています。
さて……次はどんな日々を紡ぐのでしょう。
予期せぬ再会と、新たな出会いが待つ賑やかな街でも、あの家族ならきっとまた、心地よい風を吹かせてくれるに違いありません。
光が揺れ、風がそっと雲を散らす。 その微笑みは、どこまでも慈愛に満ちて優しかった。
こうして――
神崎家の知らぬところで、商業都市の権力者たちが静かに動き始めていた。
だが、当の本人たちは――温かい食卓を囲み、笑い声を上げているだけだった。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、知らぬ間に世界を動かし始めている――!
第六章『誤解編』を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
相変わらず神崎家 周りは騒ぐけど関係ない!?
次なる章は遂にお米の情報を得られるのか? スローライフは?
神崎家の「やらかし」は、次元を越えて加速する!
次章、新天地での「ぱぱやら!」ぜひお楽しみに!
あんな「……パパ、本当に大丈夫?」
亮「大丈夫だよー。お米の情報も、そのうち集まるって!」
みゆ「定番フラグ炸裂」
あんな「これからの神崎家を、⭐⭐⭐⭐⭐で応援してくれたら嬉しいです!」
みゆ「ブクマもポチッと。――パパの“やらかし予防”」
もっふる「ピィー♪」




