第59話 え、パパが勇者!? まだ何も始まってない……よね?
翌朝。
亮は、昨夜よりも格段にふかふかになったベッドの上で、大の字になって目を覚ました。
亮「……ふぁ〜あ。なんか、昨日の夜から急に部屋が広くなった気がするけど……寝心地最高だったなぁ」
あんな「気がする、じゃなくて本当になったの! パパ、ベッドの端から端まで転がってたよ!」
みゆ「……分析。パパの睡眠効率、通常の300%を記録。環境の過剰な最適化に対し、完全に適応」
もっふる「ピィー♪」
亮「いやあ……平和だなぁ」
亮はふかふかの椅子に深く腰掛け、満足そうに鼻歌を漏らす。
あんな「……パパ」
亮「えっ!?」
みゆ「……」
もっふる「ピィー♪」
卓上で転がるもっふるは、今日もご機嫌だ。
亮「ほら見て。何も起きてないし、誰も騒いでないし」
あんな「それが一番怖いの。嵐の前の静けさっていうか、街全体がパパに気を使ってるっていうか……」
みゆ「……噂、視線、周囲の対応。すべてが“何か大きな事があった後”のような動きをしています。観測データに強い偏りを感じます」
亮「考えすぎだって。僕たち、今日は何もしてないよ?」
あんな「昨日もそう言ってた」
亮「……あれ?」
三人の会話は、どこか噛み合っていない。
だが、それでも食卓には笑い声がある。
――それが、神崎家の日常だった。
亮「でもさ」
亮は少しだけ真剣な顔になる。
亮「やっぱり、お米食べたい」
あんな「このタイミングでそこ!?」
みゆ「……安定のパパ。思考の優先順位が揺らぎません」
もっふる「ピィ!」
亮のあまりにいつも通りの発言に、空気はふっと軽くなった。
亮「よし、旅行しよう!」
あんな「旅行? ……それ、聞こえはいいけど、実態はただの当てもない旅になりそうじゃない?」
みゆ「……パパの言う『旅行』の定義には、高確率で『トラブルの自己誘発』が含まれます。実質的には、サバイバルを伴う放浪旅と推測」
亮「二人とも、人聞きが悪いなあ。あくまで旅行だってば!お米を探す、スローライフ旅行!」
あんな「その二つの言葉を混ぜるのが、そもそも無理あるんだって」
みゆ「目的地にお米が存在し、かつ平穏が維持される確率――0%」
もっふる「ピィー♪」
亮「あはは、そんなことないって。よーし、明日、出発だ!」
もっふる「ピィー♪」
こうして――
神崎家は新たな一歩を踏み出す。
お米を求めるだけの、気ままなスローライフ旅行。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が 、
波乱と炊き立ての予感を連れて、地図にない地平へと道は続いていく。
王都の太陽(娘)が消える!?
パパの気まぐれ「お米探し旅行」でギルドがまさかの崩壊危機!
屈強な冒険者たちが号泣し、ライバルたちが毒づく、神崎家史上もっとも「大げさな」旅立ち!
次回、え、パパが勇者!? 王都から太陽(娘)が消える!? ギルド激震の号泣見送りとライバルたちの遠吠えー!?
果たして、伝説の「お米」は見つかるのか……!?




