第53話 え、パパが勇者!? スローライフ開始一分で強制連行!? 王城で皇女様とガチバトルー!?
女王蜘蛛グラントを討伐したことで、空を覆っていたどす黒い霧が、嘘のように晴れていく。
包んでいた異常な結界が解け、異常な魔力反応も薄れていった。
だが、倒された木々は元には戻らない。
荒れた森が元の姿を取り戻すには、きっと時間が必要だろう。
ガルド「しかし……不思議だったよな。急に動きが鈍くなって」
ブロス「あれがなかったら、正直やばかったです」
ガルド「ああ、命拾いした。……亮さん、あんなさん、みゆさん。お礼を言わせてくれ。あんたたちが来なけりゃ、俺たちは今頃蜘蛛の餌だった」
セリナ「……ま、とりあえず、お礼だけは言っておくわ。とりあえずよ!」
リュシア「助かったのは事実だしね」
ミレイア「感謝はしますわ。ええ、感謝“だけ”は」
不器用な感謝を口にする《紅蓮の輪》と、改めて頭を下げる《蒼流の連》。
ブロス「本当に助かった」
亮「いいんだよ、みんな無事で。よーし、じゃあ帰ろー!」
あんな「賛成!美味しいもの食べたい!」
みゆ「虫は嫌い。即刻離脱」
もっふる「ピィー♪」
紅蓮の輪と蒼流の連が胸を叩く。
「帰りは任せろ! 俺たちが守ってやる!」
その言葉通り、神崎家はVIP待遇で無事に帰還した。
ギルドマスター・ガリオスへの報告を済ませ、ようやく一息ついたギルドのロビー。
亮「さぁー、明日からスローライフだー!」
あんな「嫌な予感しかしない!」
みゆ「パパのフラグ構築完了です」
もっふる「ピィー!」
ギルド中に笑い声が響く中、ガリオスは去りゆく神崎家の背中を、複雑な眼差しで見つめていた。
翌朝。宿屋の爽やかな陽光の中で、亮は大きく伸びをした。
亮「よーし、スローライフ一日目だー!」
だが、その宣言から一分も経たないうちに、部屋のドアが重々しくノックされた。
コンコン。
使いの者「突然の訪問にて失礼いたします。私は第一皇女レオニア殿下の命を受け、お迎えに上がりました。……神崎亮殿でお間違いございませんか?」
亮「はい……そうですが……」
あんな「パパー! 今度は何したのー!?」
みゆ「最速のスローライフ終了」
もっふる「ピィー」
使いの者「亮様、並びにあんな様、みゆ様、そしてそちらの獣魔様もご一緒に、城へとお招きするようにとの仰せにございます。既に馬車を宿の前に待機させております。何卒、皆さまご一緒にお越しいただければと存じます」
あんな「私たちも? パパのトラブル病が伝染したのかも!」
みゆ「それは迷惑。ヒールでは回復しない」
亮「今回は何もしてないぞ…」
使いの者「さあ、こちらへ。皆様を無事にお連れすることが、私の務めにございます」
宿を出ると、王家の紋章が入った、目も眩むような豪華な馬車が停まっていた。
あんな「この馬車、揺れないね」
みゆ「パパの車の運転より静か」
亮「いやー確かに静かだな」
みゆ「高度な振動制御魔法の付与を確認。王都の技術です」
亮「さすが王家の馬車だー」
もっふる「ピィー♪」
到着した王城は圧倒されるほど巨大で美しく、一行はその威容に圧倒された。
豪華な応接室に通され、しばらくすると、凛とした足音と共に数名の男女が入室してきた。
その中心に立つのは、まばゆいばかりの気品を纏った美しい女性。
亮たちは反射的に立ち上がった。
ライオネル「……皆様、お控えを。第一皇女レオニア殿下であらせられる」
傍らに控える騎士団長ライオネルが、重厚な声で紹介する。
彼はまず客人である亮たちに主君を紹介し、その場の秩序を保とうとした。
レオニア「団長、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。今回は非公式の招きなのですから」
レオニア皇女は涼やかに笑い、椅子に深く腰を下ろした。
レオニア「私が第一皇女、レオニアです。そしてこちらは王立魔術師団団長、マルティナ・アーヴェント」
あんな「こ、皇女様……?」
レオニア皇女は、真っ直ぐに神崎家を見据えた。
レオニア「さて……あなたたち、大会を棄権したでしょ」
あんな「す、すみません……」
亮「あれは俺が決めたことです。娘たちに責任はありません」
レオニア「責めているわけじゃないわ。ただ……私の楽しみが減ったの。だから――今から手合わせしなさい」
あんな「皇女様とですか!?」
レオニア「そうよ。あなたの実力を肌で感じたいの。ね、ライオネル」
ライオネル「試合を見て興味を持たれたのだ」
マルティナ「私もその1人よ。あなたに興味があるの、みゆ」
みゆ「……」
レオニア「さ、演習場へ行くわよ!」
あんな「今からですか?」
レオニア「そうよ。その為に呼んだのですから」
みゆ「……」
演習場は、ドラゴンが暴れても壊れないという化け物施設だった。
亮「すごいな……ところで勝ったら何か貰えるの?」
あんな「パパー!」
みゆ「この状況でその発言、さすがパパ」
もっふる「ピィー」
ライオネル「なっ……! 貴様、皇女様になんという無礼な……!」
レオニア「よい、ライオネル。面白い男ではないか。……いいわ、もし私に勝てたら、この剣をやろう」
亮「お米ではないのですね……」
ライオネル「この剣は王国一だぞ!」
レオニア「お米? 後で詳しく聞かせなさい」
亮「…おっ! 手がかりがつかめるかも」
レオニア「さあ、あんな。全力で来い!」
あんな「……よろしくお願いします!」
鋭い金属音が響き渡る。
レオニアの剣は速く、重い。だが、あんなはそれを最小限の動きで避けていく。
剣は交わるが、お互い当たらない。
レオニアは確信した。
レオニア「……ここまでにしましょう」
ライオネル「これまで!」
レオニア「あんな、あなたは欲がないのね」
あんな「……」
亮「あれ? 終わったの?」
レオニア「楽しかったわ! また遊びに来い。毎日でもいいぞ!」
あんな「いや、それは……」
ライオネル「レオニア様!」
レオニア「冗談よ! ほら、約束の剣だ」
あんな「勝敗はついていませんけど……」
レオニア「私を楽しませた礼だ」
亮「おぉーラッキーだなー」
続いて、マルティナがみゆの前に立った。
マルティナ「さあ、みゆ。魔法をひとつ見せてほしい」
みゆは小さく頷き、前に出た。
詠唱はない。
ただ、手をそっと掲げる。
爆発も、熱も、風もない。
それなのに――
空間が、色づいた。
幾層もの色が重なり、揺らぎ、存在している。
マルティナ「……なるほど、君は魔法を“放って”いない」
みゆ「はい」
マルティナ「構築して……置いているだけだな」
みゆ「見せるだけって言われたので」
マルティナ「……これ、どれくらい維持できる?」
みゆ「壊さなければ、ずっとです」
沈黙が流れ、そして師団長は断言した。
「君は、この国で“教わる側”ではない。我々が、学ぶ側だ」
レオニア「それほどまでか」
マルティナ「はい、レオニア様」
亮「おぉーみゆ、学校の先生になれるぞー」
みゆ「いや、望んでない」
レオニア「娘たちをそれぞれの師範にするのはどうだ?」
あんな「辞退します」
みゆ「同じくです」
ライオネル「見事にふられましたな」
亮「2人とも即決だなー」
あんな&みゆ「パパー!」
こうして――
王都の最高権力者たちにその実力を知られてしまった神崎家。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
本人の希望とは裏腹に、王族をも巻き込む大騒動へと加速?していくのだった。
王都を揺るがした激闘から一転、神崎家は安定の「即寝」モード! 娘たちの快挙も皇女様との手合わせも、美味しいご飯の前では二の次三の次!? そんな中、パパがうっかりやらかした「最大級の忘れ物」とは――。
「お米の話、忘れてた!」 その一言が、真面目すぎる皇女様を「お米=伝説の武術」と勘違いさせ、徹夜の迷走へと叩き込む! 無自覚なパパの放置プレイが、王城の知性をジワジワと削っていく!?
次回、第54話 え、パパが勇者!? 激闘の後は宿屋で爆睡!? お米を忘れて皇女様を徹夜させる大失態ー!?
女神様も見守る(呆れる?)神崎家。明日こそ、夢のスローライフは掴めるのか!?




