第51話 え、パパが勇者!? 地獄の蜘蛛大群で娘たち放心、全滅寸前の大混乱ー!?
蒼流の連に守られながら進むうちに、あんなとみゆの呼吸はようやく落ち着きを取り戻していた。
まだ「虫」という単語に反応して肩が跳ねるものの、さっきのような魔法乱射はなくなっている。
植物型のトレントなどはあんなとみゆが瞬時に片付け、這い寄る昆虫型は蒼流の連と連携して確実に仕留めていく。神崎家始まって以来の「まともな冒険者らしい連携」がそこにはあった。
だが、その平穏は唐突に終わりを告げる。
空気が変わった。
湿ったような、重たいような、胸の奥をざわつかせる気配。
エリオ「……今、声が聞こえなかったか?」
ブロス「確かに。誰かの叫び声だ」
亮「よし、行ってみよう!」
もっふる「ピィ―!」
木々をかき分けて進むと、視界が一気に開けた。
そこは無残に木々がなぎ倒された広場のような場所だった。
そして、その中心に――
木の中腹に巨大な巣を張り、体長10メートルはある巨大な女王蜘蛛グラント。
子供か兵隊か判別不能な、20センチほどの小蜘蛛たちが数えきれないほど蠢いている。
その地獄のような光景の真ん中で、《紅蓮の輪》の面々が必死の抵抗を続けていた。
あんな「キャーーー!! 蜘蛛ーー!!」
みゆ「……もうダメ。帰る……」
ガルドが盾を構えて必死に守り、近寄ってくる小蜘蛛をリュシアやレオンたちが剣や杖で追い払っているが、その表情には絶望が張り付いている。
エリオ「助けるぞ! ブロス!」
ブロス「おぉー!」
だが、蒼流の連が動くより早かった。
ドォォォン!!
あたり一面が、凄まじい業火に包まれた。
みゆの範囲魔法が、一瞬にして小蜘蛛の軍勢を焼き尽くしたのだ。
みゆ「蜘蛛キラーイ!!」
あんな「みゆナイス! あの気持ち悪い大群、撃破!」
エリオ「す、すご……」
ブロス「いや、あいつらは大丈夫か……?」
炎が収まった跡から、煤だらけになったセリナが絶叫する。
セリナ「ちょっと! どういうつもりよ!? 私たちまで黒焦げになるところだったじゃない!」
リュシア「ほんと、少しは考えて魔法を使って欲しいわ……って、え? 何しに来たのよ、神崎家!」
ミレイア「ふふ、おやめなさい。神崎さんは不意打ちで勝った幸運を、ただ自慢しに来てくださっただけよ? 私たちの無力さを『再確認』させてくれるなんて、本当にお優しいのねぇ」
ガルド「助けてもらったんだ。文句言うな!ありがとう」
レオン「助かった。ありがとう」
エリオ「俺たちも彼女たちに助けられたんだ。この人たちは君たちを助けに来たんだそうです」
セリナとリュシアは、助けられた安堵とプライドの間で顔を歪める。
セリナ「誰が頼んだってのよ! どうせ笑いに来たんでしょ!?」
リュシア「そうよ、不意打ちで勝ったからって調子に乗って……」
口々に文句を言う彼女たちの前で、亮は静かに微笑んだ。
亮「……生きているのは幸せだね」
その場が、しんと静まり返った。
亮のあまりに純粋で、底抜けに温かい言葉。そこに皮肉や嘲笑の色は一切なく、ただ命があったことを喜ぶ父親の眼差しがあった。
エリオ「こんな所で争ってる場合じゃない! 協力してあいつを倒すぞ!」
ガルド「そうだな。協力して倒そう」
ガルドは上空の巨大な影を見上げ、苦渋に満ちた声で警告を発した。
ガルド「あいつはグラント・スパイダー。通称『グラント』だ。樹上の高い場所に巣を張り、粘着性の高い糸を吐いて上空から獲物を吊り上げる、森林のトラップメーカーだ。足元を警戒している者の首筋に、上から糸を絡めてくる。絶対に上への警戒も解くな!」
だが状況は最悪だった。
ガルド「……このエリアには特殊な結界が張られている。俺たちパーティーの魔法使いとヒーラーは魔法を完全に封じられているんだ。まともに戦えるのはレオン、セリナと俺だけだ」
エリオ「同じです。ブロスと自分しか戦えない」
ガルド「となると、タンク二人と剣士三人が主軸になるな」
亮「三人?」
セリナ「当然でしょ。あなたは戦力外よ」
ガルド「いや、亮さん……あなたはあんなさんとみゆさんを守っていてくれ。あの子たちがパニックになったら、今度こそ俺たちが炭になる」
亮「任せてくれ!」
ガルド「よし、タンクはガードに専念、剣士は何とかしてあいつ……グラントを叩く!」
だが、グラントも黙ってはいなかった。
地を這うような不気味な声を上げると、小蜘蛛たちがうじゃうじゃと湧き出してきた。
あんな「……う、嘘。また増えた。いっぱいいる……」
みゆ「蜘蛛……蜘蛛蜘蛛蜘蛛……」
亮「おい、あんな、みゆ! 大丈夫か!?」
だが、二人の瞳から光が消えていた。
あまりの数に、ついに防衛本能が限界を迎え、完全な放心状態に陥ってしまったのだ。
キィィィィィアアアアア!!
女王蜘蛛の叫びを合図に、無数の小蜘蛛が一斉に襲いかかる。
飛来する蜘蛛の糸を、エリオやブロスが盾と剣で必死に払うが、多勢に無勢。粘着質の糸が彼らの自由を奪っていく。
そのすぐ後ろで、あんなとみゆは立ち尽くしたまま動かない。
亮「……不甲斐ないな」
亮は、震える娘たちの肩をそっと抱き寄せた。
亮「不甲斐ない。親として、人として……何もできないのか。これまでなのか」
その声は、自分自身を責めるように低く響いた。
目の前には、糸に絡め取られ、迫り来る牙を前に絶体絶命の冒険者たち。
そして、愛する娘たちの怯える姿。
亮の拳が震えた。
その震えは、恐怖ではない。
怒りでもない。
――守れない自分への、悔しさだった。
そしてその悔しさが、胸の奥で何かを静かに燃やし始めていた。
こうして――
絶対絶命の危機に立たされた一行の前で、ついにパパとしての責任感が亮を突き動かす。 ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、
一人の父親が「本気」を出す直前の、嵐の前の静けさを迎えていました。
「ここから先は、俺の家族に触るな」 絶望の糸が絡みつく戦場で、亮パパが静かに一歩前へ。 最強の魔物が放つ威圧さえも、父親の「温かな決意」が霧散させる!
狙い違わず放たれた女王蜘蛛の糸が、なぜかパパだけを避けていく!? 理屈も魔法も超越した「無自覚な守護」に、歴戦のプロたちも呆然! これが勇者の力か、それともただの親バカの奇跡か――!?
次回、第52話 え、パパが勇者!? 女王蜘蛛の猛攻で絶体絶命!? 糸がパパを避けて大混乱ー!?
一瞬の隙が勝機を呼ぶ! 亮パパが切り開いた、あまりに不思議な大逆転劇!




