第49話 え、パパが勇者!? 脱出不能の虫地獄! 魔法乱射で森ごと消滅ー!?
境界線を一歩跨いだ瞬間、空気の重さが一変した。
先ほどまでの眩い疑似空は消え、どす黒い雲のような霧が頭上を覆っている。
あんな「……何これ? 急に雰囲気が変わった。別世界に来ちゃったみたい」
みゆ「……雰囲気、やばい」
もっふる「ピィッ!」
亮が今来た道を振り返り、数歩戻ろうとした。だが。
ゴンッ!
亮「痛っ!? なんだこれ、見えない壁があるぞ!」
みゆ「……結界。全方位を完全に遮断。脱出不可」
あんな「どうすればいいの?」
みゆ「……この結界を張っている術者、あるいはボスを倒す以外、開放の手段はないと推測」
亮「分からないこと考えても仕方ない。まずは紅蓮の輪を探そう」
あんな「そうだね!」
みゆ「他の冒険者もこの閉鎖空間に迷い込んでいる可能性、85%」
亮「よーーし! みんなまとめて助けよー!」
あんな「パパの根拠のない自信はおいといて……みゆ、サーチできる?」
みゆ「サーチ……無理。魔力妨害が酷い」
あんな「え? 魔法自体が使えないの?」
みゆ「……ファイア」
みゆが指先から放った小さな火球は、少し先の木に命中した。
みゆ「攻撃や防御は大丈夫。サーチは広範囲に魔力を飛ばすから、乱れてると正常に働かない。詠唱魔法も霧散して、使えない可能性がある」
あんな「ひとまずは安心だね」
みゆ「……だけど、威力は通常より20%低下」
あんな「見た目には分からないね」
もっふる「ピィ―」
慎重に歩を進めながら話していると、突如として周囲の「木」が牙を剥いた。
バサッ!
あんな「えっ、木が動いた!?」
木が突然、枝を鞭のようにしならせて襲いかかる。
地中からは根が這い出し、鋭利な刃物と化した葉が舞い踊る。
亮「うわっ!?」
あんな「もうっ、びっくりさせないでよ!」
あんなとみゆは即座に態勢を整え、襲いくる大樹トレントを鮮やかに切り伏せ、焼き払った。
あんな「森と同化して遠距離攻撃……ちょっと厄介だね」
その時――
カサ……カサ……
みゆ「……来るよ」
もっふる「ピィ―!」
三人ともっふるが臨戦態勢を取る。
そして姿を現したのは――
体長三メートルの巨大カマキリ。
亮「カマキリ?」
あんな「虫はイヤァァァ!! 近寄らないでぇぇ!!」
みゆ「……嫌。無理。近寄らないで……!」
いつも冷静なみゆの顔が、恐怖で劇的に崩れた。
そう、あんなとみゆは、世にも恐ろしい魔物よりも「虫」が大の苦手だったのだ。
虫嫌いの二人は完全にパニック。
みゆ「キャー! イヤー! やめてーー!!」
みゆは冷静さを完全に失い、
ファイヤ、サンダー、ウインドカッター、ウォーターボール……
ありとあらゆる魔法を乱射した。
四方八方に魔法が飛び散り、森は焼け、木々は切り倒され、地面は抉れた。
亮「みゆ落ち着け!」
あんな「危なっ……みゆ、落ち着いて!」
だが巨大カマキリはまだ健在。
鎌を構え、今にも襲いかかってきそうだ。
みゆ「キャー! まだいるーー!!」
みゆ「《カルキュレイト・フレア》(演算炎)!!」
一瞬で巨大カマキリは炎に包まれ、跡形もなく消滅した。
…………。 静寂が戻り、みゆが我に返る。
みゆ「……え? 何これ? 森がすごいことになってる?」
亮「覚えてないのか?」
あんな「……」
亮は、目の前の惨状を見つめながら、
小学生の頃――玄関前にバッタがいて、泣いて家に入れなかったみゆの姿を思い出した。
この「虫」だらけの森は、娘たちにとって史上最悪の相性だと改めて思い知らされる。
あんな「パパ……もう無理。次来たら私、心臓止まっちゃう……」
みゆ「……パパ。背後0センチをキープ。密着して移動することを提案」
結界に閉じ込められ、神崎家の頼れる双頭の剣が、まさかの大混乱。
ある意味で一番の難局を迎えていた。
亮「……でも、進むしかないよな」
もっふる「ピィ……」
こうして――
絶対無敵と思われた、あんなとみゆの意外すぎる弱点が露呈し、
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
虫嫌いによる全滅の危機という、かつてない局面を迎えていた。
「虫」という名の死神に震える最強姉妹! カサつく音ひとつで森を更地にする過剰防衛に、救出されたプロも顔面蒼白!? 「噂の神崎家」の正体は、頼もしすぎる英雄か、それとも歩く破壊兵器か――。
頼れる(?)新戦力を仲間に加え、いざ森の深部へ! しかし、パパの「なんとかなるでしょ」をあざ笑うかのように、邪悪な意志が牙を剥く!
次回、第50話 え、パパが勇者!? 虫嫌いで森が壊滅の危機!? 救出したプロを巻き込む過剰防衛パニックー!?
守られる娘、しんがりのパパ。この陣形、何かがおかしい……!?




