第44話 え、パパが勇者!? 大舞台で自爆特攻!? 誰も勝機が見えない超次元の場外決戦ー!?
武闘大会と魔術大会が並行して進んでいく。 会場の至る所で爆音と怒号が響き渡る中、ついにその時がやってきた。
実況「さぁぁあ始まりました! 武闘大会第一回戦・第五試合、本日のメインカードの一つ! 王都の若き天才剣士セリナ・フェルドに対するは、アンナ・カンザキだぁー!」
数万人の視線が自分に突き刺さっている。本来なら足が震えてもおかしくない大舞台だが、不思議と心は落ち着いていた。
観客席の一角――“あんな親衛隊”が一斉に立ち上がった。
「あんなちゃーーーん! 頑張れーーー!」
「ファイトーーー! 俺たちがついてるぞーーー!」
実況「な、なんだこの地鳴りのような声援はー! セリナ選手の入場をかき消すほどの爆音! 会場の半分が彼女の応援団なのか!? アンナ・カンザキ、無名のはずですが凄まじい人気だー!」
あんな「……ちょっと恥ずかしい」
あんなは顔を赤らめながら、観客席に向かって小さく手を振った。
実況「あぁーっと! アンナ選手が手を振っただけで、親衛隊席から数人が尊さのあまり失神しているぞー! 王都の大会始まって以来のアイドル的人気だぁー!」
セリナ「ふん、応援だけはすごいのね。……応援『だけ』は」 対峙するセリナが、抜き放った剣を弄びながら相変わらずの嫌味を飛ばす。
あんな「……」
あんなは何も言い返さず、ただ静かに腰の剣に手を添えた。
審判「――はじめ!」
セリナ「覚悟しなさいッ!」
合図とともに、セリナが鋭い踏み込みを見せる。
剣先があんなの胸元へと吸い込まれた。
セリナ(もらったわ! 弱い奴ほど、応援だけは無駄にうるさいのよ!)
セリナは勝利を確信し、笑みを浮かべた。その手応えを全身で迎えようとした、
――次の瞬間。
カーーン!
あんなの体を貫くはずだった切っ先は、無情にも何もない石床を激しく叩いていた。
セリナ「……っ!? 消え……っ!?」
セリナは自分の剣があんなの残像を通り抜けたことすら気づかなかったのだ。
実況「お、おーっと、外れたぁぁ! セリナ選手、渾身の一撃が空を切った! まったく狙いが定まっていないかー!?」
「おい、どうしたー!? 脅しのつもりかー!?」
「 誰もいないところを斬ってるぞ!?」
「おーい、しっかり狙えよー!」
観客席のあちこちから、困惑と嘲笑が入り混じったヤジが飛び交う。
貴賓席で戦いを見守る、王国最強の第一皇女レオニアと、騎士団長ライオネルだけは、その場で身を乗り出した。
ライオネル「レオニア様、見えましたか。あの娘、剣が届く紙一重でかわしております」
レオニア「ええ。まるで刃の方が彼女を恐れて避けているかのようね。……相手には、その理由すら理解できないでしょう」
レオニアの言葉通り、セリナは焦燥に顔を歪めていた。
(なんで……!? なんで当たらないのよッ!?)
彼女はすぐさま体を捻り、返しの刃であんなの胴を薙ぎ払った。
シュンッ、シュンッ
と鋭い閃光が何度もあんなを襲う。
一撃一撃が致命傷になり得る鋭い剣筋。
しかし、あんなはその場から一歩も動いていないように見えながら、首を僅かに傾け、腰を数センチ引くだけで、そのすべてを紙一重で回避し続けていた。
実況「セリナ選手、猛攻! 怒涛の連続攻撃だ! アンナ選手、防戦一方か!? いや、一歩も動けない状況だー!?」
あんなは剣を振るどころか、構えることすらしていない。
ただ、舞い散る花びらを避けるかのような軽やかさで、セリナの「必死」をあしらっていく。
観客「おお! セリナが押してるぞ! ずっと攻めっぱなしだ!」
あんな親衛隊「あんなちゃん! 逃げてー! 頑張ってー!」
観客にはセリナが優勢に見え、親衛隊は生きた心地がしない。
しかし、一番焦っているのは当のセリナだった。
どれだけ剣を振っても、相手の服の繊維一本にすら触れられない。
セリナ「あなた、いい加減にして! 攻撃してきなさいよ!」
あんな「……」
セリナが絶叫したその時だった。
ふと、足元の感覚に違和感を覚える。
セリナは凍り付いた。
自分がいつの間にか、演武舞台の端――
あと数センチで場外という崖っぷちに追い詰められていることに気づいたからだ。
セリナ(え、どういうこと!? いつのまに?なんで追い詰められているの!?)
完全にパニック状態。
その時、鈴の鳴るような静かな声がした。
「……お疲れ様」
ハッとして前を向こうとしたセリナの胸元に、あんなが鞘に収まったままの剣を、そっと添える。
トンッ。
それは、触れたかどうかも分からないほど、優しく、けれど抗いようのない確かな衝撃。 体勢を崩したセリナの体が、ゆっくりと、舞台の外へと投げ出された。
会場は一瞬、静まり返った。
そして、歓声ではなく、困惑したざわめきが闘技場を埋め尽くす。
実況「……あ、あれ!? セリナ選手、ここで場外だぁー! 自ら舞台を降りたのか!? 一体何が起きたんだー!?」
「……あれ? 勝手に落ちたのか?」
「セリナの奴、自分で下がって自爆したぞ!?」
審判「え、あ……勝者、アンナ・カンザキ!」
「うおおおおお! あんなちゃーーーん!」
「……え、今の何? 何もしてなくない? でも勝ったぞ!」
審判が慌てて勝利を宣言するが、何が起きたのか理解できた者は、 この場にほとんどいない。
レオニア「……あの子、面白いわね」
ライオネル「ええ。あれは“圧倒”ではなく“支配”ですな」
二人の視線が、静かに舞台中央のあんなへと注がれていた。
そんな驚愕の視線など露知らず、亮はのんびりと拍手を送っていた。
亮「勝ったー!流石、あんな!でも 相手の人、急に後ろに下がっちゃったけど……あ、さては僕の応援着が怖くて逃げ出したのかな? 応援の甲斐があったなぁ!」
みゆ「……パパ、因果関係、ゼロ。しかも、今は着ていない」
もふっる「ピィー!」
こうして―― 実力差がありすぎて誰も勝利の瞬間を理解できないという、
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、
王都の常識をじわじわと侵食し始めるのでした。
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