第5話 え、パパが勇者!? 今度は村を救うって本気なの!?
リーネ村は、こぢんまりとした穏やかな村だった。
畑のあいだを細い小道が通り、木造の家々からは薪とスープの香りが漂っている。 夕焼けに染まる屋根からは煙が立ちのぼり、広場には子どもたちの笑い声が響いていた。
子どもたちがもっふるを見つけては「ふわふわだー!」と歓声を上げ、村人たちの笑顔があたたかかった。
亮「おぉ〜、いい村だなぁ。空気もうまい!」
あんな「パパ、落ち着いて。あんまりはしゃぐと怪しまれるから」
みゆ「……というか、もう既にちょっと浮いてる」
もっふる「ピィ♪」
村長の家は、広場の先に建つ少し大きめの木造の家だった。 玄関先には干し草の束と、干された野菜の香りが漂っている。
村長「ようこそ、旅の方々。遠いところをようこそおいでくださいましたな」
白い髭をたくわえた穏やかな老人――それがリーネ村の村長だった。
亮「こちらこそ、突然おじゃまします! 神崎亮と申します! こちらは娘のあんなとみゆ、そして我が家の相棒・もっふるです!」
村長「ほほう、かわいらしい相棒ですな。ふわふわしていて、村の子どもたちも喜びそうだ。ところで、皆さんはどちらから?」
その言葉に、三人の動きが一瞬止まる。
あんな「えっ、えっと……その……遠くの国から、ですね!」
みゆ「そう、かなり遠い。地図にも載ってないような場所です」
亮「“お米の――”」
あんな「パパ、黙って!」
村長「お米の?」
あんな「……えっと、あの、それは……! えーと、ええと、旅の途中で拾った言葉です!」
みゆ「意味は“平和”です。“平和の国”って言いたかったんです」
村長「ほほう、なるほど。平和とは良い言葉じゃな」
(セーフ……!)と、胸をなでおろす三人。
そう言って村長はにこやかに家へと招き入れた。
家の中は焚き火のぬくもりに包まれていた。
テーブルには煮込みスープ、焼き根菜、香草をまぶしたパンが並び、素朴ながらも心を満たす香りが漂っている。
村長「よろしければ、夕餉をご一緒にどうですかな? ちょうど支度ができておりましての」
亮「えっ、いいんですか!? やったー!」
あんな「ありがとうございます、村長さん」
みゆ「助かります」
亮「うおぉ〜、うまそうだ……! この香り、胃袋に直撃するやつ!」
あんな「パパ、手を合わせて!」
亮「いただきまーす!」
みゆ「もう止まらないんだから……」
食卓には笑いが絶え、もっふるもパンを小さくちぎってもらい尻尾を揺らしていた。
しばらくして食事が終わると、村長が棚から陶器の瓶を取り出した。
村長「これは自家製の“ルーテ酒”と申してな。香りは強いが、腹に沁みる味ですぞ」
亮「ありがたい! 飲ませていただきます!」
あんな「ちょ、パパ、ほどほどにね?」
みゆ「こういう時、絶対飲み過ぎるから」
カチン、と陶器の杯が鳴る。 焚き火のぱちぱちという音の中、しばし穏やかな時間が流れた。
村長「……実はな、皆さんに少し相談があるのです」
亮「相談?」
村長「西の森に、最近“魔物”が出るのです。村人も不安がっておるし、家畜が怯えておりましてな」
亮「……魔物、ですか?」
村長「ええ。おそらく」
村長は低く頷き、顔を上げる。 その目には、どこか祈るような光が宿っていた。
村長「見たところ、あなた方は旅の冒険者とお見受けします。どうか、お願いできませんかな。この村の者たちは皆、森を恐れております。夜が来るたび、子どもたちも眠れぬほどに……」
みゆ「なるほど、原因を確かめるには調査が必要ですね」
亮「任せてください! 俺たちがなんとかします!」
あんな「え、ちょっとパパ! また即答!」
みゆ「……まぁ、想定内だけど」
村長「本当に助かります。でも、どうか無理はなさらぬように」
亮「大丈夫! こう見えて“サラリーマン勇者”なんで!」
あんな「勇者なのかサラリーマンなのか、どっちなの!?」
みゆ「説明しても混乱するだけ」
焚き火の光がゆらめく。 穏やかな夜に、少しだけ不穏な風が混じっていた。
こうして――
リーネ村での新しい日々が始まり、神崎ファミリーの異世界生活は本格的に動き出した。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)が、 最初の“お手伝い”を通じて、静かに――しかし確実に、物語を動かし始めていた。




