第39話 え、パパが勇者!? 空中戦は盾で防げ! 炸裂する姉妹のコンボと謎の無拍剣!
巨大スライムの影が、落下中の亮たちの視界を真っ黒に染め上げる。
直撃まで、あと数秒。
亮「やばいやばいやばい、何かアイテム、アイテム、アイテムーー……あったー!!」
亮はアイテムボックスから、第八階層で手に入れた盾をひったくるように取り出した。
亮「あんな! みゆ! これを持てぇぇぇ!」
亮は自分用の盾を胸元に引き寄せながら、残りの盾を二人の手元へ向かって思い切り放り投げた。
あんな「えっ、ちょ、パパ!? ――ナイス! 掴んだ!」
みゆ「……キャッチ!」
亮「もっふる、こっちへ!」
もっふる「ピィィッ!」
あんなとみゆは空中で盾のグリップをガシッと掴むと、もっふるを中央に抱え込むようにして、三人で盾の壁を即座に完成させた!
ボヨォォォォォォォォンッ!!!
強烈な衝撃。
だが、三人が即座に連結させた盾の壁が、巨大スライムの圧力をギリギリのところで受け止めた。しかし、あまりの勢いに亮たちは弾き飛ばされ、「床」へと転がり落ちた。
あんな「……っ、生きてる。パパ、ナイス判断! 盾が役に立ったね!」
亮「八階層のお宝がありがたい! これ、人数分あって本当に良かった……!」
みゆ「……威力、半減された。盾による衝撃分散、成功」
巨大スライムは、再び「ポヨン……ポヨン……」と巨体を震わせ、次の跳躍に備えている。
あんな「後はもうギミックないよね?」
みゆ「……分からない、役割分担は必要。ここからは“対応力”が重要」
亮「お、おう……」
あんな「もっふる。砂時計の監視お願い。残り少なくなったら合図して!」
もっふる「ピィ!」
あんな「みゆ、同時にいくよ!」
みゆ「了解。《フロスト・アロー》(凍矢)」
あんなが鋭く踏み込み、剣を一閃。
みゆの氷魔法は巨大スライムへ直撃。
だが――
あんなの剣撃は、
パァンッ!
と無情に弾かれた。
あんな「えっ!?」
亮「なんで!?」
巨大スライムの表面がぷるんと震え――
ポヨンッ!
小型スライムが分裂して飛び出した。
亮「増えた!?」
みゆ「……来る」
もっふる「ピィーー!!」
ゴウンッ。
その瞬間、世界が反転する。
あんな「もう一回同時にいくよ!」
みゆ「《フロスト・アロー》(凍矢)」
あんなは剣を一閃。
今度は――
みゆの魔法が弾かれ、
あんなの剣撃が通った。
あんな「どういうこと!? さっきと逆じゃない!」
みゆ「……分裂スライム、また出現」
亮「どうなってるの?」
みゆ「……これまでのギミックの複合型。正転時は『物理が有効・魔法反射』、逆転時は『魔法が有効・物理反射』。そして反射が発生するたびに、スライムは分裂する。……厄介」
亮「なるほど……いや、頼もしすぎるだろ」
あんな「景色が上下対称だから分かりにくいね」
みゆ「そこが罠」
あんな「パパ、分裂したスライムお願い!もっと増えるかも!」
亮「任せておけー!」
ポヨンポヨンと跳ねる小型スライム二匹。
亮は剣を構え、必死に追いかける。
亮「お前ら、地味に速いんだよな!!」
その背後で、姉妹の素晴らしい連携が始まった。
巨大スライムへ集中攻撃。
みゆ「《フロスト・アロー》」
あんな「はぁっ!!」
正転・逆転のタイミングを読み、
二人はまるで呼吸を合わせたように攻撃を切り替えていく。
亮
あんなは光の翼があるかのように軽やかに踏み込み、
みゆは静かに、正確に魔法を撃ち込む。
あんな――セラフィックブレイダー〈光翼の守護姫〉
みゆ――サイレントアークメイジ〈無音の魔導士姫〉
亮(……誰がつけたか知らないけど。あんなは光の翼があるみたいに魔物に向かっていくし、みゆは静かに、的確に魔法をぶつけてる。……ほんと、娘ながらすごい二人だな)
娘たちの成長に目を細める亮。
だが、巨大スライムの再生力は凄まじく、決定打に欠ける。
亮は感心しつつも、焦りが募る。
決定打が出ないのだ。
亮(……まずい。このままではジリ貧だ。前の記憶が蘇る……このままじゃ、また同じことを繰り返す……!)
かつての苦い経験が亮の脳裏をよぎる。
同じ失敗を繰り返す未来。
胸がざわつく。
だが、その時だった。
その時、みゆが静かに両手を広げた。
左手には形なく流れる「清流」、右手には鋭く形を成す「氷晶」。
二つの魔力が螺旋を描きながら、一つの巨大な奔流へと混ざり合っていく。
その周囲だけ、空気がピキピキと凍りつき、白い霧が立ち込めた。
みゆ「《サイレント・フリーズ》(静寂の凍てつく抱擁)」
水を媒介にした過冷却の魔法が、ボスの芯まで浸透する。
一瞬で白く染まり、芯から結晶化していく。
それは荒々しい凍結ではなく、世界そのものが深い眠りについたかのような、静穏で神秘的な拘束だった。
みゆ「……固定、完了」
ボスは、その巨体を震わせることすら忘れ、美しく煌めく氷像へと変わった。
あんなは、息を吸わない。
構えもしない。
みゆが作り出した「静止した世界」を壊さないよう、ただ一歩、静かに踏み出した。
そして――次の瞬間。
ボスの巨体は、一筋の閃光と共に真っ二つに両断されていた。
斬られたことすら、氷は気づいていない。
一拍遅れて、
パキィィィ……
と、繊細な音を立ててボスの巨体が崩れ落ちる。
エメラルド色の光の粒がゆっくりと天井へ舞い上がると、部屋を埋め尽くしていた重圧が嘘のように消えていった。
亮「……え? 今、振った?」
あんな「……うん」
亮「今の剣、名前あるのか?」
あんな「……ないけど?」
みゆ「今のは“無拍剣”。拍が存在しない」
亮「決まりだな!! あんなの奥義は『無拍剣』だ!」
パパの弾んだ声が、静まり返った広間に響く。
その声に導かれるように、あんなとみゆの緊張がふっと解けた。
あんな「……はぁ。なんか、一気に疲れがきたかも……」
みゆ「……同じく」
亮「お疲れ様。二人とも、本当にかっこよかったぞ」
もっふる「ピィー♪」
しばしの間、家族三人と一匹は、ボスが消えた後の静かな空間で、自分たちの荒い呼吸だけを聞いていた。
亮がゆっくりと顔を上げた。
その視線の先、広間の中央。
宝箱が、スポットライトを浴びるように出現していた。
亮「ボス戦だったし、最後は家族そろって……」
あんな「え、ちょ、ちょっと待って!」
みゆ「私もやるのー?」
亮「もちろん! 三人で開けるからこそ価値があるんだから」
亮は宝箱の前に立ち、軽く腕を回す。
亮「よ〜し、それじゃあ――」
亮&あんな&みゆ「いざ、オーーープン!!!」
もっふる「ピィー♪」
重厚な蓋がゆっくりと開き、中から眩いばかりの光が溢れ出す。
三人が身を乗り出して覗き込むと、そこには一本の剣が鎮座していた。
あんな「わぁ……きれい」
亮「おおおっ! 剣だ!」
それは、エメラルドのように透き通った緑色の刀身を持つ、細身で美しい剣だった。 あまりの美しさに、亮は思わず手を伸ばし、恭しくその柄を握りしめる。
亮「……なんだこれ、軽い。それに、なんか手に吸い付くような感覚だ。なぁ、みゆ、これって……?」
亮に促され、みゆが静かに一歩前へ出た。その瞳が淡く光る。
みゆ「鑑定」
名称『翠霊の剣』
みゆ「…………スライムを攻撃するときに、効果絶大!」
亮「最後までスライムだったな……」
家族の笑いが、静かな部屋に響く。
奥の扉が開いた。
右手には下へ降りる階段。
左手には帰還用の転送魔法陣。
亮「よし、帰ろう!」
あんな「……」
みゆ「……」
あんな「そうだね」
みゆ「いい即決」
こうして――
十階層を突破し、迷わず帰還を選んだ神崎家ともっふる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)
今日もまた、笑いながら家へ帰っていくのだった。
激闘の果て、ついに十階層を攻略した神崎家! 魔法陣の光の先で彼らを待っていたのは、王都を揺らす大歓声と五歳の天才皇子即位の噂だった⁉
次回、第40話『え、パパが勇者⁉ 十階層を突破したのにFランク⁉ 天才皇子の即位と、パパの「お米」基準なスローライフ』
最強のFランク、爆誕! 嫌味なエリートさえも天然スマイルで無力化するパパの勢いは、もう誰にも止められない!




